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日本のシングルマザー家庭

須藤亜佑美(17)


 日本のシングルマザーは極めて勤勉だ。実際、厚生労働省によると、母子家庭のシングルマザーは8割が就労している。先進国が集まる経済協力開発機構(OECD)のデータをみると、同加盟国におけるシングルマザーの平均就労率は6割強であり、日本の女性全体の就業率が5割(総務省「労働力調査」)である現状を大きく上回る。また、母子家庭の平均的総所得は年間254万円で、児童のいる一般世帯の平均的総所得の36%にしか届かない。結果として、母子家庭が85%を占める「ひとり親世帯」の相対的貧困率は50%にも及ぶ。どうして母子家庭の多くが貧困に陥ってしまっているのか。そして、今後母子家庭をサポートし、母子家庭の子供たちも貧困に困らないようにするには何が必要なのだろうか。取材を通してこれらの質問の答えを模索した。

 そもそもどうしてシングルマザーになるのだろうか。國學院大學経済学部の水無田気流教授は、「離別シングルマザーが離婚に踏み切った最大の動機は、『夫の存在が子どもにとってマイナス』と判断した点である」と著書の『シングルマザーの貧困』で書く。実際、最高裁判所の「司法統計」(2012年)によると、夫が妻へ離婚を申し立てる動機は、1位が「性格が合わない」(62.6%)で、2位が「異性関係」(15.9%)と精神的な問題が大きいのに対し、妻から夫への離婚の申し立ての理由は、1位の「性格が合わない」(45.6%)のつぎに、2位「暴力を振るう」(27.2%)、3位「生活費を渡さない」(25.3%)、4位「精神的に虐待する」(23.3%)など、家庭内暴力(DV)や生活費などが上位にくる。これに関して、水無田教授は「気持ちの問題で離婚を決意し得る男性に比べ、身体的・経済的に『実害』を蒙らないとなかなか離婚には踏み切れない女性の立場が浮き彫りになっている」と指摘する。もちろん、自らの精神的な理由や選択でシングルマザーになった女性も大勢存在する。しかし、やはりシングルマザーの多くは「自己決定権」に基づいて離婚をしているとは言い難いのが現状だ。

厚生労働省吉原貞典就業支援係長

 なぜ日本の母子家庭の平均総所得は一般世帯の36%にしか及ばないのだろうか。「母子家庭の貧困問題は経済的庇護者とされている父の後ろ盾がなくなって、全面に出てきた問題だ」と水無田教授は説明する。これはどういうことか。日本は男性と女性という性差(英語でいうジェンダーセグリゲーション)が先進国の中でも突出して大きく、特に日本では子どものいる女性は、フルタイム就労者同士を比較しても、同年齢層の子どものいる男性と比べ、4割にも満たない賃金水準となってしまう。だから、家族の大黒柱である男性がいないと、経済的に困窮してしまう可能性が急に高くなる、ということだ。インタビューで同教授は「端的に言って、日本では当人の特性や個性よりも、男性女性といった性差がライフコースに与える影響が大きすぎるんです」と話す。

 なぜ子供のいる大人の間では、性差によって所得の著しい差ができるのだろうか。水無田教授は、日本の雇用形態と社員の評価基準に要因があると言う。「日本の企業では、まず新卒採用される際に、契約書にも職務上の細かい規定がなく、いわゆる総合職は勤務の内容や時間、勤務地などが無限定である点が特徴です。つまり「雇った正社員に対して仕事をつけていく」んですね。だから、ジョブ(仕事)に対して人を募集してつけていくヨーロッパ型の雇用慣行とは違って、各仕事をモジュール(部品)化して交換するようなことができず、ワークシェアリングもしにくいかたちになっています。結果として、労働者から見れば、同業他社でもスキルが交換しにくく、転職も不利になる。このような状況を、「外部労働市場の流動性が低い」と言います。社員は、色々な部署を回って徐々にキャリアパスをつないで、異動も転勤も当たり前にこなさなければならないため、柔軟な働きは難しい…このような働き方は、無償労働を全て妻に頼み、同じ会社に就職したら定年退職までいるような、標準の評価体系となっている『おじさん労働者』にとっては問題ないのですが、出産・育児などでキャリアに「抜け」ができやすい女性など、イレギュラーな要素を持っている人にとっては非常に不利益に働きます」と教授は語った。

 では、シングルマザーを支援し、母子家庭の子どもたちへの貧困の再生産を防ぐにはどうすれば良いのだろうか。まず、現状においてのシングルマザーへのサポートの政策について知るために、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課母子家庭等自立支援室の就業支援係長である吉原貞典氏にインタビューをした。吉原氏によれば、行政によって既に様々な支援が提供されているという。例えば、就業に向けた支援として高等職業訓練促進給付金などがある。ひとり親が専門資格の取得のために一年以上の養成機関に修業する際、その間は生活費の負担軽減をするための給付金が出る。またはハローワークやマザーズハローワークにおける就職支援ナビゲーターによる個別支援やトライアル雇用の活用などに加え、地方公共団体との連携による出張相談の実施、託児付きセミナーの開催などがある。さらに、母子・父子自立支援プログラム策定事業などを通して、個々の状況・ニーズに対応した自立支援プログラムを策定し、必要に応じた支援をするという。

 しかし、このように行政による様々な支援策が存在しているのにもかかわらず、シングルマザー家庭の貧困率は依然と高い。これはどうしてなのだろうか。現場の意見を聞くために、シングルマザーのサポートと子どもの貧困啓発を行っている特定非営利活動法人リトルワンズの代表理事の小山訓久氏にインタビューした。シングルマザーの支援の現状について尋ねると、小山氏は落ち着いた口調で「日本は行政が中心でシングルマザー家庭の支援をしているが、これでは個人に合わせた支援や、それを迅速に提供することが困難で、その日に支援が必要な、貧困に陥ってしまうようなシングルマザーにとっては助けにならない」という。さらに、「いくら厚生労働省などの政府機関が様々なプログラムを紹介しても、自治体ごとに大きな差が生まれている」とも指摘する。そもそも、行政が万能であると期待すること自体がおかしくて、より民間団体などによる柔軟な支援が必要なのかもしれない。

 「シングルマザーの貧困問題には特効薬がない」と小山氏は語った。シングルマザーと言っても様々な境遇の人がいて、各家庭によりニーズは異なる。しかし、いくら複雑な問題であったとしても、放置しておいてはならないことは確かだ。今後、シングルマザーの貧困に関する議論がより深まっていくことを期待したい。

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社会 IT

フィルターバブル問題を知る

愛澤 響(18)

 デジタルネイティブ世代”とも呼ばれる1980年以降に生まれた人々にとって、インターネット上で情報をシェアすることは、もはや日常生活の一部である。世界中の人々と繋がり、多様な意見を交わし合い、また“ググり(Googleで検索すること)”さえすればどんな情報も手に入る。そんな感覚を多くの人が日々感じている。しかし、ある問題の実態を知らないと、ネット情報が公平には届いていないことに気が付かない。

ある問題とは“フィルターバブル問題”だ。Googleなどが検索結果のランキングを画面に表示する際に起きている。検索エンジンはアルゴリズムという機能を使い、ユーザーの興味に合う情報を選んで表示する。逆にそのユーザーが興味のなさそうな情報は排除してしまう。その結果、観点が違う情報から隔離され、実質的に自分だけの文化的、思想的なバブルの中に孤立してしまう危険性を秘めている。

 このフィルターバブル問題をもっと詳しく知り、解決策を見つけるために、朝日新聞社IT専門記者で、デジタル分野の動向を追い続ける平 和博氏に話を聞いた。平氏は15年以上この問題に注目してきたという。  

朝日新聞のIT専門記者の平和博氏

平氏によると、Facebookのタイムライン上ではユーザーの好みやシェア数に見合う情報が主に表示され、当人にとって関心がなさそうな約8割の残りの情報は自動的に削除されているという。「その結果、異なる意見を持ったユーザー同士が歩み寄り、社会全般で共通する理解の土台をつくることが難しくなる」と警鐘を鳴らす。「インターネットが民主主義の敵になる、という可能性もはらんでいるのです」と真剣な面持ちだ。

フィルターバブル問題が起きる背景には、広告収入を得るためにユーザーになるべく長い時間SNSを利用してもらおうとするソーシャルメディアの運営会社の姿勢もある。ただ、ユーザーが幅広く公平に情報を得るためには、「SNSのシステムをしっかりと理解することが重要だ」と平氏は述べる。平氏は、その一例としてパソコンを開き、FacebookとTwitterのタイムライン表示設定を切り替えることが可能なことを示してくれた。「ハイライト表示」から「最新情報表示」に切り替えることで、全ての投稿が時系列で流れ始めた。これで自分に興味のない情報、または違う考え方の意見に出会う機会が増える。

だが、問題はさらにある。平氏は「フェイクニュース(偽情報)がフィルターバブルを狙いすまして情報を混乱させている」ことを憂慮している。平氏によれば、その対策として政府、メディア、そしてサービス事業者が様々な取り組みを行なっており、ドイツではFacebookなどがフェイクニュースなどを排除しなかった場合、多額の罰金を科す法律を作った。また、FacebookやGoogleなどのサービス会社側は、フェイクニュースによってホームページへのアクセス数を稼ぎ、広告収入を増やしているサイトに対して、広告を配信しない対応策をとっているようだ。アメリカの既存メディアも情報を確認するノウハウによって事実確認を行い、フェイクニュースの拡散を防ぐ対策をとっているという。

平氏は、「一番重要なのは、ユーザーのリテラシー(判断能力)です」と強調した。従来であれば、新聞やテレビの報道を鵜呑みにせず、批判的に捉えるというメディアリテラシーが必要だった。それに加えて、SNSの普及に応じた新たなメディアリテラシーが必要になったという。平氏が重要視しているのは、情報の発信源や内容を確認し、その情報を検索にかけてみて他のサイトとも比較し、真偽を見極める分析力と、その投稿をシェアするべきなのかどうかをしっかりと考えた上で決めるといった判断力である。

東京で高校生47人にアンケートを行った結果、ネットは使う人によって検索結果が違って出てくることを知っているのは全体の20パーセントに満たなかった。フィルターバブル問題という言葉を知っている人数の割合はさらに少なく、学校ではメディアリテラシー教育が十分になされていないことが分かった。インターネットやSNSの進化が目まぐるしいため、学校が教材を作り、教師が専門知識を学ぼうとしても追いつかない状況だ。平氏への取材と、高校生へのアンケートを通して、自分たちの力でフィルターバブルを乗り越え、できる限り公平な目で情報を見るようにしなければならないことが分かった。そのためには普段使っているSNSのシステムを十分に理解する必要だ。そして情報を発信する立場となれば、読者がどんな情報を欲し、またどのような伝え方をすれば真意が伝わるのかをしっかりと考える必要があるということをもっと多くの人が認識する必要があるだろう。

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社会 IT

インターネットは民主主義の敵か、味方か

須藤亜佑美(17)

 去年のアメリカの大統領選挙では、「どの大統領候補を支持するかによって、Facebookなどで受け取る情報が大きく異なってしまう」という現象が話題になった。また、私たちは普段インターネットを通して数え切れないほどの情報を得て、発信しており、もはや、Google, Facebook, Twitter, LINEなどのサービスは現代人の生活にとって欠かせない存在となった。しかし、そこまで身近となったインターネットサービスを私たちは正しく使えているのだろうか。「フィルターバブル」と称される、インターネットの情報の「タコツボ化」が起きている現状について、朝日新聞のIT専門記者の平和博さんにインタビューをした

朝日新聞のIT専門記者の平和博さん

 「フィルターバブルは情報のパーソナル化によって生じる現象です」と平さんは説明する。FacebookやGoogleの検索エンジンは、ユーザーがどのようなサイトや記事にアクセスしたかというデータを常に集めており、フィルターにかけて、そのユーザー個人の関心に合う情報を中心に表示している。Facebookによると、1日にニュースフィードに届く記事の本数の平均は1500本だが、画面に表示されるのは300本のみ。つまり、8割はFacebookのアルゴリズム(コンピュータが自動的に情報を処理するプログラム)によって、そのユーザーの興味のなさそうな情報は排除されていることになる。結果として、同じサービスを受ける友達がいても、または、同じ言葉を検索エンジンで検索しても、各人によって、表示される情報が変わってくる。こうした仕組みは、インターネットサービスが、収入となるサイト上の広告を見てもらうために、閲覧の滞在時間やアクセス数を増やしたいという意図に基づいている。タダのサービスにはタダである理由があるのだ。

 しかし、そのフィルターバブルの何が悪いのだろうか。私たちにとって関心のある情報だけが流れることは、むしろ効率的で良いことなのではないのか、と思う人も多いかもしれない。そのような疑問に対し、平さんは「隣の人がどんな情報に接しているのかを知らず、自分が見ている情報が世界の全部だと思い込んでしまうと、民主主義が成り立たなくなってしまう危険性があります」と平さんは前かがみになりながら熱弁する。「民主主義とは様々な立場の人が情報を共有し、議論を通じて共通の土台や理解を作ることで初めて成立する。情報の共有ができず、相手が何を考えているのか関心もなく、また分からないとなると会話が成立しない。そうするとお互いを理解し歩み寄る姿勢が見られなくなる。これは非常に怖い状況です」と続ける。インターネットサービスによってピンポイントで提供される、自分の意見に合う情報や関心のある情報のみを受け取ってしまうと、どうしても視野が狭くなってしまう、ということだ。

 まして、フィルターバブルの存在に気づいていないがゆえに、自分の受け取る情報がすべてだと勘違いしてしまうことが問題だと平さんは強調する。実際、東京の学校でアンケートをとり、「人によってインターネットでの検索結果が違うことを知っていますか」と尋ねたところ、35人中28人は「知らない」と答えた。こうした「情報のタコツボ化」という問題が生じていることを知らないと、対策もとりようがない。

 「フィルターバブル」による情報のタコツボ化は、避けることはできるのか。それは、「サービス設定を変えることで、フィルターを外すことも可能」と平さんはいう。「ただ、アルゴリズムを変えるための設定はパソコンの非常にわかりにくいところにあり、ある程度の知識がないと設定を変えることはできない。ただ、自分が利用するサービスがどういう仕組みなのかを理解した上で、自分の好みや考え方と違う情報を意識的に集めるようにすることで、『フィルターバブル』の外側に出ることは可能です」と平さんは真剣な眼差しで訴えた。 「民主主義」は一般人にとって、まして高校生にとっては、掴もうとしても掴みようがない、ふわっとした概念のように感じられる。しかし、根本的には、自分の立場とは違った様々な意見を聞くことから始まるのではないか。意識さえすれば、自分の「フィルターバブル」の外の情報は私たちの手の届く範囲にある。インターネットが民主主義の敵となるか、味方となるか。それはユーザーの肩にのしかかっている。

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社会 IT

変わりゆくパーソナル・コンピューティング

前田 佳菜絵(16)

 「パソコンを使いこなせていない人」と聞くと、多くの人が若いころにパソコンを使っていなかった中高年の人を想像するかもしれない。しかし、最近ではスマートフォンの普及に伴い「パソコンを使いこなせていない若者」が増えているという。NECパーソナルコンピュータ株式会社が2016年12月に大学生に実施したアンケート調査によると、大学生の約7割が自分のパソコンスキルに自信がないという。

NECパーソナルコンピュータ株式会社で鈴木正義広報部長

 NECパーソナルコンピュータ株式会社で鈴木正義広報部長に話を聞いた。パソコンに苦手意識を抱いている若者が増えていることについて「スマートフォンの普及と関係している。今の若者はいわゆる『デジタルネイティブ』でSNSなどは使いこなせているが、新入社員は案外パソコンを使いこなせていない」といい、また採用担当者の6割がそれを感じていると鈴木氏は語った。同社は今年、女子大学生の意見を取り入れた新型ノートパソコンを発売した。商品のセールスポイントについて鈴木氏は「大きさ・バッテリー・重さ」の3つだと説明する。パソコン自体の機能ではなく上記の点を従来のパソコンより改善した理由について、鈴木氏は「パソコンスキルを上げるために一番効果的な方法は、パソコンを使う時間を長く取ることだ。より長い時間パソコンを使ってもらえるように、また大学生などが運びやすいような製品にした」「パソコンの中身を変えてしまったらほかのパソコンを使うときに操作しにくくなってしまうため、あえて中身はほかのモデルと同じにした」と話した。さらに、「パソコンからタブレット端末へと形は変わっても、コンピューターを使うという本質は変わらない」という理由で、タブレット端末の普及はNECにとって脅威では全くないと鈴木氏は言う。しかしその一方で「子どもへのIT教育は今や国策になっているから、そこではパソコンが必要になるだろう。今は10代のパソコン所有率が低いが、これからは1人1台パソコンを持つ時代が来るのではないか」「NECも子ども向けにプログラミング教室を行っている。プログラミングは論理的思考力をはぐくむためにも大切だ」と、パソコンから学べることの大切さについても強調した。最後に鈴木氏は「パソコンそのものの操作形態は変わらないから、どんどんパソコンに触れて慣れていってほしい」と改めて希望を表明した。

マイクロソフトの岡部一志コーポレーションコミュニケーション本部長
マイクロソフトの岡部一志コーポレーションコミュニケーション本部長

 一方、日本マイクロソフト株式会社コーポレートコミュニケーション本部の岡部一志本部長は「個人がコンピューティングする『パーソナルコンピューティング』という本質は変わっていないが、そのデバイスや使っているアプリが変わっている」「今の若者は、例えばキーボードのみならずタッチパネルで指で操作することも標準搭載されている、今までより進化したパソコンを使っている」と話す。そして、若者がパソコンに苦手意識を抱いているのではないかという質問に対して、「学生時代に最新型のパソコンを使っていた人が、就職してから古いタイプのパソコンを使わなければいけなくなった時に戸惑うのではないか」と答えた。また、「メールを送付する際の表現や表計算ソフトから内容を分析すること、プレゼンテーションの仕方などができない若者も多い」とも岡部氏はいう。そして「例えばパソコンとスマートフォンの間で連携させた機能や使い方を増やしていくなどといったことが、これからは必要ではないかと提案した。

 また、ある大手商社人事部に新入社員のパソコン使用状況についてメールで質問してみた。その会社は採用段階でパソコンのスキルは見ず、内定者研修の一環でパソコンスキルについて学ぶ機会があるが基本的には仕事をしながら身に着けていくそうだ。入社後はメールをする機会がどの部署でも多く、その時はタッチパネルとしては使うことができない一般的なノートパソコンを使うという。 今回の取材で、「若者はパソコン操作に慣れるべき」などといった課題が明らかになった。しかし、まずはパソコンとスマートフォンの間の機能の落差を減らす、個人が使用するパソコンと企業がオフィスに設置するパソコンのモデルをそろえる必要がありそうだ。「パーソナルコンピューティング」の形が変化する中でパソコン利用者たちも足並みをそろえてコンピューティングに関わることが望まれる。

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社会 教育

学校における空虚な調和 ~LGBTの子ども達の抱える差別~

須藤 亜佑美

 ほとんどの人は、同性愛者などのLGBTの存在を知っていても、実際自分の周りにいるとは全く思っていないため、恋愛について話すときは、女性には当然のように「彼氏がいるの?」と聞き、男性には「彼女がいるの?」と聞く。2015年の電通ダイバーシティラボによるアンケート調査によると、LGBTと称する人の割合は7.6パーセントまでにも及んだ。つまり、知り合いが100人いれば7人は自分をLGBTと判断していることになる。しかし、多くの人はLGBTへ配慮のない発言をし、そのような言動によって構成される環境が「異性愛の男性」「異性愛の女性」という枠に入らない人々を苦しめていることを知らない。

 2015年11月5日、東京都渋谷区と世田谷区でパートナーシップ証明書が発行され、戸籍上の家族ではないことを理由に同性カップルを差別することができなくなった。このように、徐々にLGBTの存在と権利が認められてきている一方、日本の同調性を重んじる社会の中で苦しんでいるLGBTが多いのが現実だ。2007年の厚生労働省のエイズ対策研究事業の成果報告によると、LGBTの3人に2人がこれまでに自殺を考えたことがあり、14パーセントは実際に自殺未遂の経験があるとの結果が出た。どうしてLGBTはこれほど生きづらい状況に置かれているのか、身近な学校環境に焦点を当てて実情を探ってみた。

土井代表を取材する須藤記者

 まず、LGBTの子ども達は学校でどのような環境に置かれているのか。人権を守るために活動するNGO、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の日本代表土井香苗さんに取材をした。LGBTの生徒たちが置かれている状態について、土井さんは「LGBTの生徒は、まず自分自身を受け入れること自体が困難」という。教科書では異性愛が前提となっていたり、LGBTに対する差別発言が気兼ねなく言い交わされていたり、着る制服は生まれつき割り当てられた性によって決められるのが当然と思われる中で、LGBTの生徒は他人に自分の性的指向や性自認について打ち明ける以前に、これを恥とする自分の心と戦わなければいけないのが現状なのだ。

愛澤亜紀さんを取材

 当事者の意見を直接知るために、LGBT当事者という自覚を持ちながら学校生活を送り、現在愛知県の女子大生であるりぃなさん(仮名)に経験を語ってもらった。りぃなさんは、小中学校で徐々に自分の女子に対する恋愛感情に気づくようになり、「多分レズビアン」だそうだ。しかし、同性愛は非常にネガティブなもので日本には存在しないと思い込んでいたため、「悪いことをしてしまう自分が大嫌いだった」と語る。りぃなさんにとって転機となったのは、高校の時に参加したLGBT当事者のサークル活動であった。「異性愛の女性」や「異性愛の男性」という枠に当てはまらない人が意外と多くいることを知り、少しずつ自分をありのままで受け入れられるようになったそうだ。

 しかし、りぃなさんは自分の性的指向について依然としてオープンになることができない状況に置かれている。高校の時は、生徒に加え先生までもがLGBTに対して差別的な発言をし、学校に行くこと自体を苦痛に感じたため、親しい友達以外には自分の性的指向を隠したまま卒業した。現在も、LGBTに対して批判的な意見を述べる人が周りにいるため、自分の性的指向については何も言っていない。自分を隠しながら生きることは、とても苦痛だという。りぃなさんが特に居心地が悪いと感じるのは、ほとんどの人は全員が異性愛者だと思い込んでいることだ。「LGBTかどうかは見た目だけでは分からないんです」とりぃなさんは訴えるように語った。

 LGBTの生徒の抱える問題についてより広い範囲での理解を得るために、発達の凸凹を抱えている子どもたちを支援する学習教室の運営などをしているRaccoonの代表で早期発達支援士の愛澤亜紀さんにもインタビューをした。愛澤さんは今まで多くのLGBTの生徒のカウンセリングを行ってきた経験を持ち、今回は様々な事例について聞くことができた。最初の例は、35歳でゲイのAさんについてだ。Aさんは中学・高校のときは男子校の一貫校に通い自分の性的指向を隠していたが、やがて行動や仕草がおかしいと周りの人に言われ、机に落書きをされるなど悪質ないじめに遭った。高校と大学を卒業し自分の会社を運営している今は、愛するパートナーを見つけることができたものの、未だ家族には自分の性的指向については打ち明けることができていない。自分の気持ちを隠し続けながらいなければいけないことが大きなストレスになっており、精神状態が不安定なため摂食障害を抱えている。

 次に、現在20歳で性同一性障害のBさんは男の子として生まれたものの、幼い頃から女の子の服を着たがり、サッカーをするときもボールが怖くて逃げるような子どもであった。周りは女の子らしいBさんを異質な存在として扱い、性的ないたずらもされたため学校にいけなくなり、食べることや歩くことが困難になってしまった。学校にいじめについて問い合わせても「できる対処はしました」というのみで、根本的な解決には遠かった。それでも、学校には行きたいと願ったBさんは、徐々に親の理解を得ることができ、最終的には高校も卒業することができたそうだ。他にも多くのケースがあるが、「全てに共通するのは学校環境の空虚な『調和』により異性愛の『男性』『女性』という枠に当てはまらない性的マイノリティーが苦しめられているということだ」と愛澤さんは指摘する。

 LGBTにとってより良い学校環境を作り上げるには何が必要なのだろうか。いじめをしてはいけないということは大前提として、LGBTを卑下するようなことを言わないことが大切だ。りぃなさんは「記事を読んでいるあなたと同じ教室にも当事者はきっといるだろうし、近所や職場にもいる。それを念頭に入れて、差別発言をしないことだけでも、LGBTの人にとってより過ごしやすい環境が作られる」と語る。目では見えないかもしれないが、LGBTは確実に周りにいる。LGBTへの差別は他人事ではないことを、より多くの人が認識していくことを期待したい。
*LGBT:L=レズビアン/女性同性愛者、G=ゲイ/男性同性愛者、B=バイセクシュアル/両性愛者、T=トランスジェンダー/生まれた性別と異なる性別で生きる人

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社会

企業が求める人材、英語力?

愛澤 響(17)

 日本企業がグローバル化する中で、英語スキルは企業の求める人材の必須条件になりつつある。「社内公用語」を英語とし、徹底して英語でのコミュニケーションを促進するほか、採用条件や昇格条件としてTOEIC(国際コミュニケーション英語力テスト)のスコアを提示する企業が増えてきている。また、TOEICのスコアが990点満点で900点以上とれれば100万円の報奨金を一律支給する企業まである(日本経済新聞電子版2013年1月11日)。そのような企業の社内実態はどのようなものなのだろうか。また、グローバル時代に生きる若者は、TOEICのスコアが高ければ、企業に優秀な人材だとみなされるのだろうか。いくつかのグローバル企業社員を取材した。

街頭取材の様子

 はじめに、1999年にルノー(仏)との提携が始まった時に社内公用語の英語化を行った日産自動車株式会社に約13年間勤める男性社員に社内の実態を聞いた。男性社員は「会社では採用条件や昇格条件にTOEICのスコアが定められているものの、あくまでも英語は海外との意見交換のツールとしか思っていない。だから英語が目的ではなく、課題を解決するために自分の言いたいこと、やりたい事を持っている事が大切だ」と語った。

 次に、2012年に社内公用語を英語にすることを宣言した楽天株式会社の社員及び元社員を取材した。楽天は、三木谷社長が社内の食堂のメニューまで英語にし、TOEICの社内基準点が取れないと減給またはクビ、というような徹底した経営策を打ち出し、話題になった。

 公用語を英語化した後の社内の雰囲気はどのような変化があったか、と元楽天男性社員(約3年間勤務)に尋ねると「TOEICのスコアがとれず減給にされ、仕事へのモチベーションが下がる人も多かった。『ここは大事だから、日本語で話します』というように、英語を使うことにより起こる誤解やトラブルを避けるような姿勢が多く見られた」とマイナスな面の意見を述べた。また、「TOEICは、何度も受験すれば英語力は身についていないのにスコアはとれてしまう」という。だから本質をしっかりと追求し、あくまでも英語はツールとして考える必要があるという見解だった。

 また、現役の日本人男性社員(約6年間勤務)は、楽天が社員の英語力向上を図るために、家庭教師や会社での授業、またスカイプでの英会話を格安または無料で受講できるなどの、手厚いサポートを行っていることを教えてくれた。社員に一方的に英語力を求めるのではなく、入社後、TOEICである程度のスコアをとった後でも英語を学び続けられる社内環境づくりがなされているそうだ。

 一方で、現役の外国人男性社員(約3年間勤務)はTOEICの点数が低い社員の方が高い社員よりうまく英語で話したり、伝えたり、仕事ができるのを見てきたという。その理由は、TOEICが実社会でのコミュニケーション能力を反映しておらず、むしろ人との接触なしに家で学べる文法中心で暗記した英語を反映しているからだという。

 それぞれの社内の実態がつかめたところで、実際にどのような目標を持った人が英語塾に通っているのか、10月の土曜日の午後に日米会話学院(東京都新宿区)の前で街頭取材を行なった。取材した8人ほぼ全員が社内公用語英語化に対して肯定的な意見を述べた。彼らは会社の命令やTOEICなどの資格のスコアアップのためではなく、自主的に英語を磨くために通っているそうだ。ほとんどの人が、「自分が今、一生懸命勉強している英語が評価されるのであれば社内公用語英語化は逆にありがたいチャンスだ」と答えた。また講師の津島玲子さんに入社時のTOEICのスコアの基準が730点であることの妥当性について尋ねると、「仕事内で英語を使うのであれば730点では到底足りない」と強調した。また、「TOEICのスコアというのは日常生活での様々な場面で使われる英語の理解力を測るが、必要とされる英語力しか測れないため、企業で本当に必要とされている英語のスキルは、自分の言いたいことがしっかりと伝えられ、一対一の交渉ができる力だ」と語った。ここでも、TOEICのスコアが高いことと、会社内で必要とされている英語力は異なることが分かった。

三菱商事株式会社 人事部採用チームリーダーの下村大介氏

 最後にグローバル企業としての歴史も長い、三菱商事株式会社人事部を取材した。採用チームリーダーの下村大介さんは、「三菱商事は簡易的な英語のテストを採用時に受けることを義務付けているものの、英語力はあくまでもいくつもある項目の一つだ」と語り、テスト慣れしてしまえばTOEICは点数がとれてしまうこともあるため、「800点900点のレベルになるとその差はほとんど意味をなさない」と話す。また、「心が通じ、言いたいことが言える英語というのは仕事の現場で培っていけば十分だ」と強調した。英語力は人材のスキルのうち最も重要なものではなく、あくまでもコミュニケーションのツールとして便利だから使っているということを一貫して主張し、日本人同士の会話でも無理やり英語を使わせることには否定的だった。最後に「優秀な人材とは、成長するのびしろがあること、すなわち、相互的な信頼関係を築くことができ、常に頭を働かせ、お互いにwin-winになるような状況を作り出せる人、そして高い目標に向かって持続的に努力する力をもった人だ」と笑顔で語った。

 全ての取材を通して、TOEICのスコアによって、英語でのコミュニケーション能力、ましてやその人が優秀であるかどうかは測れないことが分かった。今後ますますグローバル化が進む社会の一員となる子ども達が、自分自身の未来像を描く上で、企業が求める人材のスキルが数字では表せないものであることを知っておく必要があるだろう。

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社会で必要とされる能力=英語力?

前田 佳菜絵(15)

 楽天、ファーストリテイリング、日産…。これらは全て「社内公用語英語化」を宣言したグローバル企業だ。近年、英語力は就職して社会で生きていくうえで最も重要な能力の一つとして言われるようになっている。しかし実際、英語力は仕事上で他の能力より重要なのか。将来社会に出ていく学生のためにも、これからの企業で必要とされる能力は何なのか。実際に社内公用語英語化に関わっている社会人などに話を聞いた。

 まず、日産自動車株式会社に13年勤務する男性社員に取材した。日産ではルノーとの提携が始まった1999年に「社内公用語は英語」という命令があったそうだ。今年の社員の採用基準はTOEIC(国際コミュニケーション英語力テスト)700点以上で、管理職に就くには730点が必須とのことだ。この男性は「英語は海外との意見交換のためのツールにしか思っていない」と話す。企業にとって必要な人材とは「自分の言いたいこと、やりたいことを持っている人。それを世界中のメンバーに伝える時に英語というツールがあったほうがいい」と語った。

 次に、楽天株式会社の元社員(勤続3年男性)に話を聞いた。楽天では「社内公用語英語化」を目的に2010年から社員への英語教育が始まったが「TOEICで社内基準の800点を取れないと減給されるため、仕事への意欲が下がる人も多い」と語る。全社会議やレポートなどでは必ず英語が使われているため「ビジネス英語に慣れるチャンスではあった」と話したが、TOEICについては「型を覚えて勉強すれば、英語力が身につかずに点数は取れてしまう」と明かし、「社内公用語英語化の本質を追求し、あくまでも英語はツールとして考えなければいけない」「必要な人材は人柄がいい人。スキルより、どれだけ一緒に仕事をしたいかと思えるかが大事」と結論付けた。

 以上を踏まえて、楽天に約3年勤続している外国人の男性社員に話を聞いた。日本人社員については「TOEICの点数が低い社員のほうが高い社員よりうまく英語で仕事ができるのを見ている。これはTOEICが実社会でのコミュニケーション能力を反映しておらず、人との接触なしに学べる文法中心の英語を反映しているからだ」と語った。また、社内公用語英語化の動きについては「日本人社員がTOEICの勉強のために就業時間を費やすことに対して、英語を母国語とする外国人に対して反感があるのでは」と話す。優れた人材とは「日本や国際的な職場環境を理解していて、自分の仕事を通じて国際的な社会に貢献する人」と語った。

 さらに、日米会話学院(東京都新宿区)前で社会人受講生や講師に街頭取材をした。8人に取材したところ、社内公用語英語化について、IT関係企業に30年勤続している男性は「日本人同士なのに何でも英語にするのはおかしいと思う」、また金融関係企業に1年勤続している女性は「自分の英語能力が評価されるから逆に良い」と語るなど、意見が分かれた。同学院のライティングクラス講師の津島玲子氏にTOEICについて意見を求めると、「スコアは、語彙・リーディング・リスニング・文法など、大学在学中にどれだけ勉強したかを証明する意味はある。ただ、日常でのコミュニケーション力を測るTOEICの英語と、会社内で使うビジネス英語は違う。が、そもそも仕事で英語を使うのであれば730点では到底足りない」と熱く話した。

三菱商事株式会社 人事部採用チーム

 最後に、三菱商事株式会社に取材した。人事部採用チームリーダーの下村大介氏によると、「英語はいくつもある基準のうちの1つ」と話す。例えば採用時には、英語の試験を受けることに加えて、面接やその他試験等の評価を総合的に判断していると言う。内定後は入社までの間にTOEICで730点を超えることを目標としているが、「内定する前から730点を超えている学生が多い」と話した。そして、入社後は「英語を使う部署が非常に多いため、その中で目的意識を持った人が英語を勉強した時にぐんと伸びることが多い」と語った。下村氏によれば優れた人材とは「人に信頼され、人を信頼でき、知恵があって、高い目標へ努力するときに持続力がある人」だという。

 今回取材した人たちは全員「英語は仕事をする上でのコミュニケーションツールの一つ」と話した。近年は多くの企業が社内公用語英語化を発表して、英語力の重要さを強調しているが、ただ英語が得意なのではなく、自分自身の能力を英語を使って発揮できる人材が今求められているのではないか。

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町内会は必要?

村上 類(17)

 東京都が設置している「東京の自治のあり方研究会」の調査によると、平成25年の東京都の町内会・自治会の加入率は55%を切っている。加入していても必要性を感じない人が多い可能性もある。これからの町内会はどうあるべきか、首都大学東京の玉野和志教授と大田区田園調布親和会会長の馬渕雅之氏に取材した。

首都大学東京の玉野和志教授

 日本の町内会の始まりは明治時代までさかのぼる。当時は住民の自主的な活動を主としていた地域の自治組織が、徐々に行政の末端機構と位置づけられていき,戦時体制の下では隣組に整備されていくことになる.その後、第二次世界大戦後のアメリカの占領下で町内会という団体の否定等も経験したが、現在も町内会には参加するのが当たり前という風潮が残ってしまった。町内会長が家を訪ねてきたら、お金を払うという義務感が住民の負担になっているという。 
 
 さらに高度経済成長期以降の、お金ですべてを解決しようとする人の増加も理由の一つだと玉野教授は話す。社会において人間関係は必要不可欠なものであるが、直接関わるわずらわしさからか、最近ではSNSに重きを置く人も少なくはない。

 実は町内会は市区町村が作成したプリントの配布を始め、地区によってはゴミ捨て場や街灯の管理も担っている。それらの電気代やゴミ捨て場のネットの購入も町内会費で賄っている。行政が行わず住民主体で運営されるこうした団体は世界を見ても珍しいそうだ。

大田区田園調布親和会会長の馬渕雅之氏

 確かに町内会長も会員にも負担が大きい。後継者が見つからないのもわかる。しかし町内会や自治会等を必要と感じる人も現実的にはいることを忘れてはいけない。

 例えば防犯面だ。お金に余裕がある人は警備サービス会社に委託すればいいだろうが、
厚生労働省の発表によると平成24年の相対的貧困率が約15%である日本において、住民の目でお互いを見守ることが必要であることは明らかだろう。

 またセキュリティーシステムでも補えないのが災害時だ。田園調布親和会の馬渕氏は東日本大震災後、会員から集めた義援金の贈呈と防災の教訓を学びに宮城県東松山市を訪れたが、現地で町の人とのつながりの大切さを実感したそうだ。

 田園調布親和会では震災時ブログに被害を防ぐ情報を即時転載したり、会員全員へのヘルメット配布も行っている。また定期的に地元小学校で行われる防災訓練にも参加している。

 多くの住民にとって町内会は何らかの意味があるのではないか。もちろん、改善すべきところはあるし、関わりをいったん離れると戻りづらい。そこで玉野氏も馬渕氏も口をそろえて言うのは、必要最低限、顔見知り程度の仲になろうと心がけるということだ。普段忙しくて近所の人と会う機会が少ない人は、市民祭りや飲み会に参加するのでもよい。田園調布親和会ではバスツアーや、年末には恒例イベントとして夜回りも行っている。自分が加入している町内会を見直す機会を設けて、地元の繋がりについて考えなおしてみるのもいいのではないだろうか。

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演奏権と複製権~複雑な著作権の世界~

三好 恵瑠(14歳)

 昨年は東京オリンピックのエンブレム問題で著作権がニュースとなった。しかし、学校の生徒の間では毎年文化祭の時期になると自然と話題となってくるものだ。クラス企画でBGMを使うときや、発表に使う音楽など、ことあるごとに先生からは「著作権には気をつけて使え」と注意される。だが中学生では音楽著作権に詳しい生徒はいない。そこで学校活動でもなにかと身近な音楽著作権について一般社団法人日本音楽著作権協会(通称JASRAC)に取材した。

JASRAC広報部の金口由布子さん

今回取材に応じてくれたのはJASRAC広報部の金口由布子さんだ。まず著作権とは何のためにあるのかという疑問については、「著作物を守るため」と金口さんははっきり言った。時間をかけて作った著作物が守られなければ、著作者たちが何かを作ることをやめ、新しいものが生まれなくなってしまうから著作権は存在するのだという。

音楽著作権は作詞家、作曲家そして音楽出版社が持つ権利である。そこで、文化祭などで著作権のある音楽を使うときに、許可を取らなくてもいい場合と取らなければいけない場合の判断基準は何なのかを聞いた。「著作者の死後50年を経過している場合は権利が消滅しているため自由に使えますが、それ以外の音楽を許可なしで流す場合には3つの条件があります」と金口さんは言う。それは非営利目的の催物である、出演料なし、入場料なし、の3つの条件を満たしている場合だという。だから入場料なしの文化祭で音楽をBGMとして流すことや、発表として演奏したり、歌ったりする場合は許可をとる必要はないということだ。

しかし、一方で「複製権」という権利も意識しなければならない。上記の3つの条件が適用されるのはあくまでも音楽を流す場合だけで、音楽を複製してBGM集を作った場合は複製権がかかわってくるのだ。そもそも音楽著作権には利用形態ごとに細かな権利が決まっている。3つの条件が適用されるのは演奏権であり、録音やコピーの場合にはあてはまらないということだ。

複製権とは音源を録音したりコピーしたりする場合の権利で、演奏権とは違い非営利であっても権利者の許可がいる。しかし例外はある。ウォークマンやipodなどの音楽再生機器に音源を入れる場合は明らかに音源をコピーしているが、個人的に楽しむ目的であれば問題ない。

演奏権と複製権は私たちが音楽を扱う場合に絶対に気をつけなければならない。細かくて複雑なルールだが著作者の権利を守るためには必要なことだ。著作権について、特に複製権の違反については心当たりのある人も少なくないだろう。ただ、これらは著作権に関して一部にすぎない。著作権が守られるからこそ、創作が生まれるという基本の理解が広まることをまず期待したい。

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「怖い」じゃなくて「楽しい」~お化け屋敷プロデューサーという仕事~

松本 哉人(16)

 今年の夏、記者はお化け屋敷を体験した。間違いなく怖くて、終盤には走り出しそうになるほど腰が引けていたにもかかわらず、最後は気分が高揚して、お化け屋敷を出た瞬間には笑い出していた。一体どんな人が、そこまで怖いお化け屋敷を作っているのだろうか。また、そこまで怖いお化け屋敷に人が集まるのはなぜなのだろうか。お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんを取材した。

そもそもなぜ、怖いはずのお化け屋敷に長時間並んでまで人が集まるのだろうか。五味さんは「お化け屋敷が楽しいからです」と話す。「入場するとき、人はお化け屋敷の中身を知らず知らずのうちに想像して、全て作り物と分かっていつつも不安や恐怖を感じています。その不安が、実際にお化けに驚かされることで解消されるその瞬間が気持ちいい。そして、驚かされることが重なるうちにどんどん興奮して、最終的には笑っちゃうくらい楽しくなって、お化け屋敷は楽しいと感じるんです」。
 
では五味さんはどのようにしてその楽しさを演出しているのだろうか。「お化け屋敷を楽しむためには、不安を感じる一方で、これは作りものなんだと思う客観性が必要で、お化け屋敷での体験の中に少しずつわざとらしさを混ぜることでお客さんが冷静さを持てるようにしています」と五味さんは語る。具体的には、ストーリーの中に飛躍した内容を混ぜたり、お化けが飛び出してきてもそれ以上近づいてこず、むしろ引っ込んでいったりする仕掛けにすることで、単なる恐怖だけではなく心地よさも感じる余裕を演出するのだと五味さんは楽しそうに語った。
 
実際にお化け屋敷に入った人たちはどう感じているのだろうか。取材した人は一様に「怖かった」と言っていたが大半の人が笑っていた。中には「出口を出た瞬間がスカッとした」と語る人もいて、それぞれに楽しんだことがうかがえた。一方でお化け屋敷から出てくる人の中には泣き出している人や二度と来たくないという人もいて、やはり、余裕をなくしてしまう人がいることも事実だ。

 五味さんは「お化け屋敷は、並んでいるたくさんの知らない人や一緒に行った人とともに体験し、同時に共感することで、今の世の中の人にとってはコミュニケーション上の大きな意味を持っていると思います」と語る。五味さんは過去に、シャッター商店街にお化け屋敷を作った際にその意味を強く感じたという。地域に他に若者が集まっていける場所が少ないこともあり、若者にとってお化け屋敷が、外で遊べる場所になったことが当時驚きだったと語っていた。

 お化け屋敷は、怖いから、子供だましだから、などといわれ敬遠されることも多いアトラクションであるが、実際に取材してみると作り手側は単に怖いだけではなく入場者を楽しませるために様々なことを考えて作っている、というのが新鮮な発見だった。

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お化け屋敷をプロデュースする仕事

村上 類(16)

 今、日本各地で期間限定のお化け屋敷が人気を博している。その裏にはお化け屋敷プロデューサーの五味弘文氏の存在があることを知っているだろうか。日本で一番怖いとの噂もある五味氏のお化け屋敷の魅力に迫った。

  五味氏流のお化け屋敷のプロデューサーは一から十まで全てに関わることにある。ストーリーやお客さんに与えるミッション(役)を考える作業はもちろん、美術や音響担当者との打ち合わせ、お化け役の従業員へのトレーニングまでも自らの立会いのもと、約7ヶ月かけて進めていく。

五味氏は最初からお化け屋敷プロデューサーを仕事にしたいと思ったわけではないと言う。小学生の頃からお化け屋敷を作りたいという気持ちは漠然とあったが、そもそもお化け屋敷プロデューサーという仕事は存在しない。しかしいろいろな人と巡り合う中で、東京ドームシティのお化け屋敷のプロデュースをする機会をたまたま得たことが功を奏し、その後の年もプロデュースを続け、それが今に繋がっている。

その五味氏が作る、二時間待ちもざらではないお化け屋敷の魅力。それは二つのこだわりと工夫にある。

一つ目はお客さんをストーリーに深く関わらせることだ。例えば夏休み中に東京ドームシティにオープンしていた「呪いの指輪の家」は主人公の女性に指輪をはめるというミッションがお客さんに課せられる。昔のお化け屋敷は脈絡もなく色んなお化けが脅かすものだったが、五味氏のお化け屋敷はお客さんをストーリーに欠かせない存在にすることで恐怖を提供している。

人間はストレスや不安が解消されると「楽しい」がうまれると五味氏は言う。それがお化け屋敷の中では何回も繰り返されるため、普通はネガティブなお化けが人を呼んでいるのだろう。実際、お化け屋敷から出てきたお客さんに話を聞くと「スッキリした」という声が聞かれた。

二つ目は現実にはありえない、嘘だと思える要素を盛り込むこと。お化け屋敷は、いかに冷静さと想像力の振り幅を楽しめるかにあると五味氏は話すが、その冷静さをお客さんに与えるために、あえて偽物とわかる信号を出している。脅かしたあとに引っ込んでいくお化けの姿を思い出すとわかりやすいだろう。

日本各地に広まる五味氏のお化け屋敷だが、シャッター街にもお化け屋敷を作り、地域活性化に一役買っていることもよく話題になっている。だが、五味氏は地方を盛り上げるというより、若い世代に遊ぶ場所を提供していることに注目していた。ネットに向かいがちな若い人が抱えている閉ざされた気持ちを、お化け屋敷によって解放出来るのではないかと五味氏は言う。

今後もお客さんがストーリーに参加するお化け屋敷を作りたいが、お化け屋敷は海外に発信しても面白いエンターテイメントだと五味氏は感じている。それはもはやお化け屋敷という形ではないかもしれないとも言う。

避けたいはずのお化けが人を呼ぶ裏には、試行錯誤して工夫するお化け屋敷プロデューサーの存在があった。今後の五味氏のお化け屋敷の進化に期待していきたい。

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もうお化け屋敷なんて行かない

三好 恵瑠(14歳)

 お化け屋敷プロデューサー、わかりやす過ぎるそのネーミングは興味を持たせるのに十分だった。はっきりいってお化け屋敷が苦手な記者には怖い取材だが、お客さんに毎度毎度恐怖をあたえてくれるお化け屋敷がどうやって作られているのか興味は尽きない。

取材したのは株式会社オフィスバーンの代表取締役である五味弘文さんだ。一番気になっていたのはお化け屋敷プロデューサーという仕事のことで、お化け屋敷があるということは、どこかで誰かが作っていることはわかるが、それだけを仕事としている人がいるとは思ってもいなかったからだ。

話を聞いてみると、もともとお化け屋敷プロデューサーという仕事はなく、自分がその仕事をしているうちにだんだん世間から認められていきついた名前だという。五味さんのプロデュースするお化け屋敷には、ストーリーがあり、客にミッション(役)を与えることで客がそのストーリーに入り込めるようになっている。そのため、お化け屋敷を作るときにはまず、ストーリー、設定、ミッションの3つを考える。そしてそこから美術や音響などの演出を考え、組み立てていくそうだ。

 五味さんは自らのお化け屋敷の特徴であるストーリーにとてもこだわっている。人がお化け屋敷で恐怖を感じる理由の一つに「想像力」があると五味さんは語る。人は自分が考えているより大きな恐怖を想像力のせいで感じ、抑えきれなくなっているという。ストーリーを作ることで客をひきこませ、もっと想像力をかきたてることができるそうだ。

そしてストーリーには偽物をいれるように気を配っているという。物語に明らかな飛躍を入れたり、極端にしたりすることで、その偽物は誰でもそうだと気付くものにするようにしているそうだ。しかし、偽物だとわかっていてもやはり怖いものは怖い。

ただ人を怖がらせるために怖そうなものを置いてそれっぽく部屋を暗くし、演出をする。普通の人はいままでお化け屋敷についてこのように考えていたはずだ。だが、人間の想像力に注目し、ストーリーやミッションを作るなど全力でお客さんを怖がらせようとしている努力には感心させられる。五味さんとお化け屋敷のすごさが十分伝わってくる取材となったが、それを知った今、取材前より一段とお化け屋敷には行きたくなくなる取材にもなった。

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