記者:愛澤響(18)

 デジタルネイティブ世代”とも呼ばれる1980年以降に生まれた人々にとって、インターネット上で情報をシェアすることは、もはや日常生活の一部である。世界中の人々と繋がり、多様な意見を交わし合い、また“ググり(Googleで検索すること)”さえすればどんな情報も手に入る。そんな感覚を多くの人が日々感じている。しかし、ある問題の実態を知らないと、ネット情報が公平には届いていないことに気が付かない。

ある問題とは“フィルターバブル問題”だ。Googleなどが検索結果のランキングを画面に表示する際に起きている。検索エンジンはアルゴリズムという機能を使い、ユーザーの興味に合う情報を選んで表示する。逆にそのユーザーが興味のなさそうな情報は排除してしまう。その結果、観点が違う情報から隔離され、実質的に自分だけの文化的、思想的なバブルの中に孤立してしまう危険性を秘めている。

 このフィルターバブル問題をもっと詳しく知り、解決策を見つけるために、朝日新聞社IT専門記者で、デジタル分野の動向を追い続ける平 和博氏に話を聞いた。平氏は15年以上この問題に注目してきたという。  

朝日新聞のIT専門記者の平和博氏

平氏によると、Facebookのタイムライン上ではユーザーの好みやシェア数に見合う情報が主に表示され、当人にとって関心がなさそうな約8割の残りの情報は自動的に削除されているという。「その結果、異なる意見を持ったユーザー同士が歩み寄り、社会全般で共通する理解の土台をつくることが難しくなる」と警鐘を鳴らす。「インターネットが民主主義の敵になる、という可能性もはらんでいるのです」と真剣な面持ちだ。

フィルターバブル問題が起きる背景には、広告収入を得るためにユーザーになるべく長い時間SNSを利用してもらおうとするソーシャルメディアの運営会社の姿勢もある。ただ、ユーザーが幅広く公平に情報を得るためには、「SNSのシステムをしっかりと理解することが重要だ」と平氏は述べる。平氏は、その一例としてパソコンを開き、FacebookとTwitterのタイムライン表示設定を切り替えることが可能なことを示してくれた。「ハイライト表示」から「最新情報表示」に切り替えることで、全ての投稿が時系列で流れ始めた。これで自分に興味のない情報、または違う考え方の意見に出会う機会が増える。

だが、問題はさらにある。平氏は「フェイクニュース(偽情報)がフィルターバブルを狙いすまして情報を混乱させている」ことを憂慮している。平氏によれば、その対策として政府、メディア、そしてサービス事業者が様々な取り組みを行なっており、ドイツではFacebookなどがフェイクニュースなどを排除しなかった場合、多額の罰金を科す法律を作った。また、FacebookやGoogleなどのサービス会社側は、フェイクニュースによってホームページへのアクセス数を稼ぎ、広告収入を増やしているサイトに対して、広告を配信しない対応策をとっているようだ。アメリカの既存メディアも情報を確認するノウハウによって事実確認を行い、フェイクニュースの拡散を防ぐ対策をとっているという。

平氏は、「一番重要なのは、ユーザーのリテラシー(判断能力)です」と強調した。従来であれば、新聞やテレビの報道を鵜呑みにせず、批判的に捉えるというメディアリテラシーが必要だった。それに加えて、SNSの普及に応じた新たなメディアリテラシーが必要になったという。平氏が重要視しているのは、情報の発信源や内容を確認し、その情報を検索にかけてみて他のサイトとも比較し、真偽を見極める分析力と、その投稿をシェアするべきなのかどうかをしっかりと考えた上で決めるといった判断力である。

東京で高校生47人にアンケートを行った結果、ネットは使う人によって検索結果が違って出てくることを知っているのは全体の20パーセントに満たなかった。フィルターバブル問題という言葉を知っている人数の割合はさらに少なく、学校ではメディアリテラシー教育が十分になされていないことが分かった。インターネットやSNSの進化が目まぐるしいため、学校が教材を作り、教師が専門知識を学ぼうとしても追いつかない状況だ。平氏への取材と、高校生へのアンケートを通して、自分たちの力でフィルターバブルを乗り越え、できる限り公平な目で情報を見るようにしなければならないことが分かった。そのためには普段使っているSNSのシステムを十分に理解する必要だ。そして情報を発信する立場となれば、読者がどんな情報を欲し、またどのような伝え方をすれば真意が伝わるのかをしっかりと考える必要があるということをもっと多くの人が認識する必要があるだろう。