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「怖い」じゃなくて「楽しい」~お化け屋敷プロデューサーという仕事~

松本 哉人(16)

 今年の夏、記者はお化け屋敷を体験した。間違いなく怖くて、終盤には走り出しそうになるほど腰が引けていたにもかかわらず、最後は気分が高揚して、お化け屋敷を出た瞬間には笑い出していた。一体どんな人が、そこまで怖いお化け屋敷を作っているのだろうか。また、そこまで怖いお化け屋敷に人が集まるのはなぜなのだろうか。お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんを取材した。

そもそもなぜ、怖いはずのお化け屋敷に長時間並んでまで人が集まるのだろうか。五味さんは「お化け屋敷が楽しいからです」と話す。「入場するとき、人はお化け屋敷の中身を知らず知らずのうちに想像して、全て作り物と分かっていつつも不安や恐怖を感じています。その不安が、実際にお化けに驚かされることで解消されるその瞬間が気持ちいい。そして、驚かされることが重なるうちにどんどん興奮して、最終的には笑っちゃうくらい楽しくなって、お化け屋敷は楽しいと感じるんです」。
 
では五味さんはどのようにしてその楽しさを演出しているのだろうか。「お化け屋敷を楽しむためには、不安を感じる一方で、これは作りものなんだと思う客観性が必要で、お化け屋敷での体験の中に少しずつわざとらしさを混ぜることでお客さんが冷静さを持てるようにしています」と五味さんは語る。具体的には、ストーリーの中に飛躍した内容を混ぜたり、お化けが飛び出してきてもそれ以上近づいてこず、むしろ引っ込んでいったりする仕掛けにすることで、単なる恐怖だけではなく心地よさも感じる余裕を演出するのだと五味さんは楽しそうに語った。
 
実際にお化け屋敷に入った人たちはどう感じているのだろうか。取材した人は一様に「怖かった」と言っていたが大半の人が笑っていた。中には「出口を出た瞬間がスカッとした」と語る人もいて、それぞれに楽しんだことがうかがえた。一方でお化け屋敷から出てくる人の中には泣き出している人や二度と来たくないという人もいて、やはり、余裕をなくしてしまう人がいることも事実だ。

 五味さんは「お化け屋敷は、並んでいるたくさんの知らない人や一緒に行った人とともに体験し、同時に共感することで、今の世の中の人にとってはコミュニケーション上の大きな意味を持っていると思います」と語る。五味さんは過去に、シャッター商店街にお化け屋敷を作った際にその意味を強く感じたという。地域に他に若者が集まっていける場所が少ないこともあり、若者にとってお化け屋敷が、外で遊べる場所になったことが当時驚きだったと語っていた。

 お化け屋敷は、怖いから、子供だましだから、などといわれ敬遠されることも多いアトラクションであるが、実際に取材してみると作り手側は単に怖いだけではなく入場者を楽しませるために様々なことを考えて作っている、というのが新鮮な発見だった。

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