須藤亜佑美(17)

 去年のアメリカの大統領選挙では、「どの大統領候補を支持するかによって、Facebookなどで受け取る情報が大きく異なってしまう」という現象が話題になった。また、私たちは普段インターネットを通して数え切れないほどの情報を得て、発信しており、もはや、Google, Facebook, Twitter, LINEなどのサービスは現代人の生活にとって欠かせない存在となった。しかし、そこまで身近となったインターネットサービスを私たちは正しく使えているのだろうか。「フィルターバブル」と称される、インターネットの情報の「タコツボ化」が起きている現状について、朝日新聞のIT専門記者の平和博さんにインタビューをした

朝日新聞のIT専門記者の平和博さん

 「フィルターバブルは情報のパーソナル化によって生じる現象です」と平さんは説明する。FacebookやGoogleの検索エンジンは、ユーザーがどのようなサイトや記事にアクセスしたかというデータを常に集めており、フィルターにかけて、そのユーザー個人の関心に合う情報を中心に表示している。Facebookによると、1日にニュースフィードに届く記事の本数の平均は1500本だが、画面に表示されるのは300本のみ。つまり、8割はFacebookのアルゴリズム(コンピュータが自動的に情報を処理するプログラム)によって、そのユーザーの興味のなさそうな情報は排除されていることになる。結果として、同じサービスを受ける友達がいても、または、同じ言葉を検索エンジンで検索しても、各人によって、表示される情報が変わってくる。こうした仕組みは、インターネットサービスが、収入となるサイト上の広告を見てもらうために、閲覧の滞在時間やアクセス数を増やしたいという意図に基づいている。タダのサービスにはタダである理由があるのだ。

 しかし、そのフィルターバブルの何が悪いのだろうか。私たちにとって関心のある情報だけが流れることは、むしろ効率的で良いことなのではないのか、と思う人も多いかもしれない。そのような疑問に対し、平さんは「隣の人がどんな情報に接しているのかを知らず、自分が見ている情報が世界の全部だと思い込んでしまうと、民主主義が成り立たなくなってしまう危険性があります」と平さんは前かがみになりながら熱弁する。「民主主義とは様々な立場の人が情報を共有し、議論を通じて共通の土台や理解を作ることで初めて成立する。情報の共有ができず、相手が何を考えているのか関心もなく、また分からないとなると会話が成立しない。そうするとお互いを理解し歩み寄る姿勢が見られなくなる。これは非常に怖い状況です」と続ける。インターネットサービスによってピンポイントで提供される、自分の意見に合う情報や関心のある情報のみを受け取ってしまうと、どうしても視野が狭くなってしまう、ということだ。

 まして、フィルターバブルの存在に気づいていないがゆえに、自分の受け取る情報がすべてだと勘違いしてしまうことが問題だと平さんは強調する。実際、東京の学校でアンケートをとり、「人によってインターネットでの検索結果が違うことを知っていますか」と尋ねたところ、35人中28人は「知らない」と答えた。こうした「情報のタコツボ化」という問題が生じていることを知らないと、対策もとりようがない。

 「フィルターバブル」による情報のタコツボ化は、避けることはできるのか。それは、「サービス設定を変えることで、フィルターを外すことも可能」と平さんはいう。「ただ、アルゴリズムを変えるための設定はパソコンの非常にわかりにくいところにあり、ある程度の知識がないと設定を変えることはできない。ただ、自分が利用するサービスがどういう仕組みなのかを理解した上で、自分の好みや考え方と違う情報を意識的に集めるようにすることで、『フィルターバブル』の外側に出ることは可能です」と平さんは真剣な眼差しで訴えた。 「民主主義」は一般人にとって、まして高校生にとっては、掴もうとしても掴みようがない、ふわっとした概念のように感じられる。しかし、根本的には、自分の立場とは違った様々な意見を聞くことから始まるのではないか。意識さえすれば、自分の「フィルターバブル」の外の情報は私たちの手の届く範囲にある。インターネットが民主主義の敵となるか、味方となるか。それはユーザーの肩にのしかかっている。

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