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教育 座談会

教育と暴力 2013


参加記者:米山菜子(16)、富沢咲天(17)、小川真央(18)
修了生:榊文美(25)、三崎令日奈(26)
2013/3/10

2012年12月、大阪市立桜宮高等学校で、部活動の顧問教諭から体罰を受け、生徒が自殺する事件が起こった。その後も全国で体罰の問題が明るみにでている。
チルドレンズ・エクスプレスでは、駒大苫小牧高校野球部での体罰問題が報じられた2005年にも「教育と暴力」について座談会をした。今回は、当時の記者と、現在高校生である記者とで、運動部での指導について話し合った。今、高校生記者たちは、教育の場での暴力についてどのように考え、どのような指導を求めているのか。

■体罰問題、身近にはない
真央:まず初めに皆さんに意見をお聞きしたいのですが、大阪の桜宮高校の体罰問題のニュースを聞いてどう感じましたか?

菜子:私は小学校低学年の頃から、新体操や水泳とかロックソーランなど様々なスポーツをやっていて、今はバスケット部に所属しています。しかし、私の周りでは体罰を受けている人、している人をまったく見たことがないので驚きました。

咲天:私も今まで体罰というものを受けたことがないので、びっくりしました。私の学校で厳しいとされているバスケ部でも体罰は無いので、そのニュースを見て、こんなに手をあげる先生がいるんだなと。特に、小学校の頃に住んでいてた、アメリカでは暴力に対してとても厳しいので、こういうニュースもあまりなかったので驚きました。

真央:私は中学時代テニス部に入っていたのですが、顧問の先生から暴力を受けるといったことは一切無かったので、このニュースを聞いた時非常に驚きました。体罰は目にしたことがなかったので、このニュースを聞いてどこまでが体罰なのかということを疑問に思いました。

菜子:私の顧問の先生はかなり厳しい先生ですが、暴言を吐くことも暴力を振るうこともありません。しかし私の友だちの学校では、一人体育科の先生が普通に暴力を振るっていて、学校側はそれも知っているし、生徒もその先生は暴力を振るう先生だっていうことを知っていて接しているそうです。なので、意外と身近に体罰はあるのかなと思いました。

咲天:これは学校の話じゃないのですが、先日、私の友だちが、確か空手などのスポーツクラブに入りたいと電話で問い合わせたところ、「うちではよっぽどのことがない限り暴力はないけれど、ごくたまに手をあげることがあります。そういうことがあることを了承してください」と入る前に言われたことがあって、大阪での体罰問題があった後にも、まだこういうことがあるんだと驚きました。

■学校の変化
菜子:、体罰は無いと言ってましたが、それでも大阪の事件があってから、学校側で体罰に対しての対応に変化はありましたか?

真央:ずいぶん前からこういった問題がメディアで取り上げられてきたと思うのですが、それを聞いて教師側も敏感になっていて、今は教師より生徒の方が立場が強いんじゃないかな、と私は感じました。例えば先生が「やる気がないなら帰れ」と言ったら、今の子どもたちは、本当にそれで帰ります。

文美:先生に帰れって言われたら本当に帰ってしまう人が多いなんて、びっくりしました。それで帰ったら練習時間が減るから、強くなれないと思いますが、どうなんでしょう。

真央:全員が帰れって言われて帰ってるわけではないです。私はテニス部だったのですが、帰れって言われて帰る子たちはテニススクールで個人的に練習していて、別に部活でテニスを練習する必要性もないので、帰っても問題がなかったんだと思います。

菜子:今は生徒の方が強いというよりも、生徒の保護者の方が強いのかなと思います。私の学校に限らないと思うのですが、親が子どもを保護しすぎる面があると思います。ちょっと暴力を振るわれて、子どもは親に先生を責めてほしくて言っているのではなく、「こういうことがあったんだよ」というのをさりげなく話した場合でも、保護者が怒って学校に抗議という話も聞きます。やっぱり親が保護しすぎて過保護になっているのかなと思います。

咲天:体罰問題において、昔はこういう体罰っていうのは常態化していて、できなかったら先生にぶたれるというのが当たり前だと思っていた。けれど、今は嫌なことだったら嫌って言えるし、自分の身を守ることができるんだという認識があるから、変わってきたんだと思います。

菜子:昔は先生の立場が偉大すぎて、あまりものを言えない師弟関係があったと思います。しかし今は、先生との関係がかなりフランクになっているので、嫌なことは嫌と言えるような先生と生徒の関係を築ければ、体罰はなくなると思います。

■部活動での教師と生徒の関係
令日奈:先生と生徒たちの立場がくっついてきて、結果的に良かったと思いますか?「帰れ」と言われて帰ったら、テニススクールに行って個人的に技術が向上しても、その場にいるみんなではスポーツをある程度うまくなるという課題を達成できないので、、チームとしては別に強くはならないと思います。それとも、みんなが楽しくできるようになったから良かったのでしょうか?

咲天:先生と生徒の立場が上下関係があまり無くなってきて、一緒になってきたことはいいと思います。先生も生徒もお互いに学ぶことがあるし、一緒に成長できると思います。でもそれを利用して、例えば生徒が自分勝手に、「もう練習嫌だから勝手に帰る」というのは違うと思います。

真央:私は教師と生徒の関係が近くなってきて、あまり力関係に差が出ないことで、体罰に陥りにくい環境ができてきていると思うので、その面では賛成です。しかし、運動部ならではの厳しい指導や経験というのは、社会に出てすごく強みになるとも思います。

菜子:私の部活は先生がかなり厳しくて、みんなは「先生が言うことは絶対」という雰囲気が流れています。しかし、その先生は体罰を振るうこともなく、みんなから嫌われることもなく、尊敬される存在となっています。それは、部活中はとても厳しく指導してくれるけれども、部活の場を離れたら、上下関係は無くなりませんが、かなり近い関係で話してくれるからで、先生が慕われるにはオンとオフの切り替えが大事だと思います。

令日奈:先生にとっては体罰を振るって生徒を従わせるよりも、振るわないで従わせる方が今難しいと思うから、そこにすごい工夫が必要なんじゃないかなと思っています。

菜子:今は暴力を振るう先生は、みんな怖いと思って従うのではなく投げ出すと思います。その怖い先生に暴力を振るわれてまでもスポーツや部活動をしない、という子どもがいると思います。逆に暴力を振るわない、怒らない先生の方が、今流行りの「ゆるい」という言葉で、みんなが好きになったりすると思います。実際に私の友だちは、一人の先生をすごく好きだったけれども、一度、部活中にちょっと怒られただけで、「もう嫌いになった」と言い出したので、今の子どもは怒られることに慣れていなさすぎると思います。

真央:怒られることに慣れてないな、というのは私も実感しています。でも、たぶん「怒る」がだんだんエスカレートしていくと体罰になると思うのです。大阪の桜宮高校では自殺してしまった子の前の代でも体罰は実際に起きていて、先生が子どもとちゃんと向き合って、人によって指導の仕方、叱り方、指導方法を変えていけたらいいなと思います。

咲天:私は先生がいかに暴力を振るわずに、生徒との信頼関係を築いて指導していくかというのが試されていると思います。それができるのがいい先生、教える力があるというんじゃないかなと思いました。

■先輩からの指導が効果的
令日奈:どういう指導の方法が今の子どもに効果があると思いますか?

真央:今の子はたぶん教師から怒られてもあまり心に響かないと思うので、やはり世代が近い先輩方から厳しい言葉を言ってもらったりすることで、心に残るのではないかと私は考えています。

菜子:実際に私が中学生の頃は先生が言うことよりも、先輩が言うことの方が強いという雰囲気が流れている時もありました。それで実際に先生が「先輩の言うことは絶対じゃないぞ」と怒ることもあるほどでした。

文美:先輩からだったら、例えば言葉の暴力を受けても大丈夫なのですか?

真央:私の部活では、月に一回ミーティングが開かれて、全員で立っていて順に反省文を言っていく風習がありました先輩から厳しい意見をいただき、次の部活でどう動くかということを同じ学年で話し合いました。ミーティングを乗り越えることで同じ学年の絆も強まりますし、部活もどんどん改善されたので、先輩からの意見は大事だと思います。

咲天:私は現在テニス部に所属していますが、先輩から暴言は一回も無くて、とても優しい先輩たちで叱られることもありませんでした。先輩でも先生でも、暴言や一方的に叱るのは良くないと思います。上から目線で叱られると下の学年の方も嫌な気持ちになる。「こうした方がいいんじゃない」というふうに、アドバイスをお互いに与えあって改善していくのが一番いい方法だと思います。

真央:私は高校の時はチアリーディング部に所属していたのですが、その時は先輩から厳しい指導がありましたが、全部怒るのではなく、たまに程よく褒めることをして飴と鞭みたいな関係でやっていたので、つらい部分もあったのですが、褒められることによって、次がんばろうという気持ちになりました。一方的に怒るという感情だけではなく、褒めるという姿勢を加えれば先輩からの厳しい意見も心にしみると思います。

文美:先輩に「上から目線で言われるのは嫌」と言うけれど、先輩は目上だから、上から物を言われるのは当然ではないの?

咲天:目上ですが、部活をやっているうえでは同じチームで、もちろん敬語は使いますが、絶対服従みたいな感じではないと思います。

文美:なるほど、新しいなと思いました。

菜子:私がバスケ部に入るちょっと前まで部活内のルールがありました。その部活内のルールを守らせることで先輩との上下関係ができていて、そのルールはそれをおかしいと思った先輩が無くしてくれたのですが、実際にそのルールが無くなってから上下関係があまり無くなって、先輩と後輩が友だちのようになってしまったと、卒業して来た先輩が言っている時もあります。

令日奈:その部活でしか通用しない独特のルールがあることについてはどう思いますか? 例えば桜宮高校のバスケ部も特殊な環境だったから先生が暴力を振るえていたし、それで強くなった。特殊な環境だったからこそ、ここまで人に知られることがなかった。どういうルールもちょっと閉鎖的な、そこでしか通用しないルールなんだけれども、日本の学校では、部活は一回入ったら卒業するまで普通は続けるから、どんどん脈々と受け継がれていく。アメリカのシーズナルスポーツみたいに、シーズンごとにやるスポーツが変わってたらもっとフランクになると思うんですけど、どうなんでしょうか?

菜子:私の部活は中学校の時は独特のルールがあって、例えばエレベーターに乗ってはいけないとか、バスの中で荷物を置いてはいけないとか、座ってはいけないとか。中学生の時はそれを守らなければいけないけれども、高校に上がったら暗黙の了解で無くなるというルールでした。今は中学でもそのルールは無くなったのですが、私は実際に中学生の時はそのルールを守っていて、先輩が目上の人だということを学んでから、高校で同じチームとして、上下関係があったうえで、チームワークを作るというのは一つの方法だと思います。

令日奈:それは続けないとわからない良さというか、チームの絆なんでしょうね。

菜子:中学でそのルールが嫌で退部してしまう場合は、私の勝手な意見ですが、高校の厳しい練習にはついてこられないと思います。

咲天:ルールはあってもいいけれど、ボール拾いや掃除は全部一年生がやるというルールは「なんであるのかな?」と思います。

菜子:実際に私が中学生の時に初めてルールを聞いた時は、「え、なんでエレベーターに乗っちゃいけないの」「なんで荷物を置いちゃいけないの」と不思議でした。私が入る前は先輩に「靴はいていいよ」って言われるまで体育館の中でバスケットシューズをはいてはいけないという意味のわからないルールもありました。でもこのルールが不思議なことに、部活の中にいるとだんだん不思議じゃなくなってきて、それが当たり前になってくるので、一種の洗脳みたいな感じで、客観的にふと見た時に怖いなとも感じます。

真央:例えば下級生がボールを拾う、というようなことは、ルールがあることによって、どの学年も必ず一回は経験する。厳しいルールの存在は、私は大事だと思います。でも桜宮高校ではルールというか環境が、第三者から見ることが難しかったので、体罰や行き過ぎた指導に至ったと思います。ルールをもっと開放的なものにすればいいのではないかと私は思います。

咲天:私のテニス部では、ボールを絶対に拾わなければいけないというルールはなくて、逆に「先輩後輩で境目をつけてはいけない」と先生に教わってきたので、お互い上下関係なくいっしょに部活をやっていく、というのがいいと思いました。

文美:だいたい下級生に対して負荷が大きいルールが多いと思うんですけれども、それって負荷が無くなった、つまり優遇されてる方の人たちに本当にいいのかなと疑問に思います。一年生が全部掃除をしてくれて、二年生が全部一年生の指導してくれて、三年生は何も雑用をしない、というようなのは、三年生にとって本当にいい指導なのか、と。

真央:上級生になると受験の問題も深刻になってきて、下級生よりは部活にかける時間があまり無いです。なので下級生に仕事が多いというのは、私はいいシステムだなと思っていて、役割分担をすることによって効率もいいと思います。テニス部の場合で言うと、ボールは後輩が拾うんだ、となっていれば、先輩がボール拾うのを待つことはない。部活の効率化も図れると思うので、下級生に負担があるというのは私はいいことだと思います。

菜子:私が下級生の時に、ルールにのっとって、いろいろな先輩のお世話ではないけれども、ボール運びなどをしてた時は、中学に入ったばっかりで部活が初めてだったので、「ああ、部活やっているな」と感じる瞬間でもありました。実際に三年生になると、チームのメインの学年になるので、「そんなことまでやっている暇があったら練習をしたい」という思いが大きかったので、三年生ほど練習に本腰を入れなくても良い一,二年生がその他の雑用と言われることをやって、三年生は引退などに向けて必死に練習するっていうシステムはいいと思います。

咲天:私は、最初の一,二年間をずっと雑用をしていて、本当に部活が楽しいのか疑問です。自分もボールを打ちたいし、先輩と一緒に活動もしたいし、ただ片付けをしてるのは楽しくないと思います。

真央:片付けも運動になると思います。ボール拾いでも、そこで体力をつけて、上級生になってからメインの仕事、テニスを打つということできる。それが耐えられないなら、自分でスクールに通うなど工夫をすればいいと思います。

菜子:私の部活のルールは部活中には全く適用されず、部活中は先生の言った通りに動きます。先生も、学年ごとに差別はせず、みんな同じようにプレイをしていたので、プレイ自体には問題はありませんでした。そのルールは部活が始まる前と最後などがすごい忙しいだけで、部活にはなんら問題がなかったので、部活をやっている分には楽しかったです。

令日奈:咲天ちゃんの話を聞いていると、すごい進んでいる今の部活っぽいなと思います。すべてのルールに目的があって、上級生と下級生がちょっと争ってるくらいが理想的なのかな、と思います。例えば、テニス部でボールが転がっているのを取る時に、少しでもボールに触れた方がうまくなると考えるなら、上級生も走って取りに行くし、それに負けないように下級生も走る。そういう緊張感があった方がお互いにとって、立場はフラットでもうまくなると思います。

菜子:私の部活は練習時間外のルールによって、上下関係がとてもはっきりしていますが、部活中はみんなで競い合っているので、理想かもしれないです。

真央:上下関係は必要だと思うのですが、部活中はなるべく無くすようにして、スポーツをしている時間は上下関係はなるべく考えないで、スポーツ外は上下関係を生かして、社会に通用できるような人物に成長できると一番いいのではないかと思います。

■理想的な指導
菜子:私の理想的な指導は、先生は今みんなの学校のようにある程度フラットな関係でいて、その中でその下にいる先輩が後輩をある程度の厳しさで指導をします。その先輩の指導があまり厳しすぎると客観的に見ている先生が止めに入る、というのがちょうどいいと思います。

咲天:私が思う理想の関係は、先生は技術面で指導をして、先輩後輩はお互い、後輩は先輩を敬いはするけれど、同じチームとして対等に、一緒にスポーツをしていくのが一番楽しくて成長できるのではないかと思います。

真央:先生は体罰のような指導をせず、あくまで技術だけのことを話し合う関係でいて、先輩からは厳しい言葉を、指導をしていただき、それを乗り越えることによって、新しい団結力とか忍耐力が付くと思うので、上下関係は残していけばいいと思います。褒めるという姿勢も同時進行で行えばいいと思います。

令日奈:先生の立場では、学校の勉強もやって、部活も一生懸命やる、というのが一番いいと思うので、そういうのをやってもらって、もうちょっと部活や体育の場が、自分で頭で考える場になればいいかなと思います。今、私より世代が上の人の話を聞いていると、「自分は一滴も練習中水飲めなかった」とか、「先生に脳しんとう起こす直前までたたかれた」とか、「すごい厳しかった」という自慢話をする人がいるんですけど、どうやったら強くなるのか、もっと上級生も下級生も考えた方が良いと思います。頭を使って考えた結果、みんなで納得した練習方法ができるのが、一番スポーツにとってはいいのかなと、思いました。部活の上下関係は、社会に入ってから分かったことですが、社会に入って使えなくもないです。昔、体育会で部活動をやっていた人は、先輩とのつきあい方がうまいなと思うから、それは程よく残ればいいのかなと思います。

文美:体罰や暴力は、社会に出たらあまり通用しない、告発してしかるべき処置をしてもらうというのが正しいと思うので、それを耐えることが、社会に出て何かの役に立つってことはないと思います。ただ、先輩との上下関係、自分が目下だから雑用を進んでやるというような動きをすることは評価されることなので、役に立つからできてもいいのかなと思います。このラウンドテーブルの理想の教育で思ったのは、指導者から教わるのは技術だけでいいっていう話があって、人格形成は先輩や仲間同士のうちで磨かれるという認識が学生の間であるということに驚きました。それは私も理想的だと思います。
                                     以上
参考リンク:2005年に行った「教育と暴力」座談会

2004年夏の全国高校野球大会で優勝した駒大苫小牧高校野球部で、部長による部員への暴力がニュースになった。
スポーツでは暴力が訓練の一つとして使われる風潮をCEの記者たちはどのように見ているのだろうか。
運動部を経験した高校生記者たちが教育の場での暴力について語った。

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国際

なぜ日本はODAを続けているのか

青野 ななみ(19)

 現在日本は戦後最大の財政赤字を抱え、決して国にお金があるとは言えない。そのような状況の中、日本は5612億円という額をODA(政府開発援助)に使っている(2012年度予算、外務省HPより)。ODAとは、開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上に役立つために行う資金・技術提供による公的資金を用いた協力のことである(外務省HPより)。何のために日本はODAを続けているのか、続けていく必要が本当にあるのかを知るため、外務省、認定NPO法人難民を助ける会、駐日アンゴラ共和国大使館に取材をした。

 ODAを続けている理由の一つ目は、「絆」の形成にある。日本は関東大震災、世界大戦や阪神淡路大震災、記憶にも新しい東日本大震災など、これまで多くの震災や戦争を経験してきた。それらの復興の助けとなったのは世界中の国からの支援であった。「東日本大震災でこれほど多くの国からの支援があったのは、日本がこれまで国際社会に貢献してきた証」と外務省国際協力局政策課・外務事務官の杉村奈々子氏は言う。このように国際社会の「絆」としてのODAがある一方で、民間レベルでの「絆」もある。現在、ODAには長期間低金利で貸し出す有償資金協力と、返す必要のない無償資金協力など様々な形態がある。その中でも、緊急災害発生時にすぐに支援ができるよう即日、遅くとも数日以内にNGOにお金がいくようにするジャパン・プラットフォームという仕組みがある。「このような仕組みができたおかげで、NGOはすぐに現地へ向かうことができるようになった」と難民を助ける会の穗積武寛氏は言う。難民を助ける会は1979年に設立され、数々の海外支援を行っている。それらの事業の資金の一部は、外務省がODAのひとつとして提供している「日本NGO連携無償資金協力(N連)」を利用している。N連を使った事業のひとつに、タジキスタンでの車椅子の製造がある。障害者支援が制度として十分成り立っていないタジキスタンにおいて、車椅子の生産技術を向上させ、同時に、職業訓練をバラエティーに富んだものにしたという。このように、国だけではなく、NGOや民間企業のノウハウや技術を活用してODAを行っているのである。

 現在無償資金協力をしている国でも、経済発展に伴って有償資金協力へ移行することもある。そのひとつの例がアンゴラである。アンゴラは、約5世紀もの間ポルトガルの植民地支配を受け、その後1975年に独立を果たすも2002年まで内戦が続き経済が疲弊していたが、現在は石油やダイヤモンドの輸出等により毎年高い経済成長を遂げている(外務省HPより)。そのため、「これまでは無償資金協力のみだったが、これからは有償資金協力に切り替えていくことになった」と駐日アンゴラ共和国大使館・公使参事官のミゲル・ボンバルダ・ダ・クルーズ氏は言う。国の実状に合った資金形態へ変えることによって、より無償資金協力が必要な国に協力できるようにしているそうだ。

 ODAによって受益国が豊かになることはどのような意味があるのだろうか。 ボンバルダ氏と杉村氏が「ODAはgive&take(ギブ&テイク)である」と主張しているように、日本国民の税金を無条件に与えているわけではない。「経済が安定し、平和になり、国同士の関係を強化していける。他国を知ることができ、将来のビジネスがよりスムーズにできるようになる」とボンバルダ氏が言う。また、「アンゴラはアフリカの中でも有数の資源国であり、レアメタル(希少金属)や水資源にも恵まれているが、その資源を生かせる人材がいない」とも言った。資源を効率よく利用するための人材育成をODAによって行うことにより、アンゴラに天然視点の生産加工の効率性に貢献し、将来、日本はアンゴラで生産加工された原材料を輸入するようになっているかもしれない。このように、ODAは受益国だけではなく、日本にとってとても重要な利益をもたらすのである。

 「ODAについてもっと理解を深めてほしい」と杉村氏は何度も主張した。国家予算におけるODA予算は1%程度であり(外務省資料より)、その金額でどれほどの利益が日本と受益国にもたらされているのだろうか。将来の日本を支えていく私たち若者が、ODAによって世界の国々と「絆」を形成していくことの重要性を理解し、伝えていかねばならないと思う。

アンゴラ共和国大使館での記念撮影
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国際

共に生きるためのODA

富沢 咲天(17)

 ODAというと、漠然と先進国が途上国を手助けするというイメージを持つ人が多いのではないだろうか。そもそもODA(政府開発援助)とは政府または政府の実施機関によって開発途上国の経済、社会の発展や福祉の向上に役立つために行う資金・技術提供である(外務省HPより)。資金を贈与する無償資金協力や、円借款と呼ばれる低金利で返済期間の長い緩やかな資金協力、そして日本の技術や技能を伝える技術協力がある。日本は1954年から継続してODAを行い様々な国々に人材・物資・技術・お金を提供してきた。しかし不況で日本の経済が落ち込んでいるなか、国内にこそお金を使うべきではないかという意見がある。ODAは今、本当に必要なのだろうか。

外務省の杉村氏を取材

 外務省のホームページによると、一般会計ODA当初予算額は1997年の1兆1687億円をピークに減少している。2012年度の予算額は5612億円とピーク時の半分以下だ。

 外務省国際協力局政策課の杉村奈々子氏は「日本のODAを、国際社会の基準(対国民総所得比)で見ると、世界の他の国々に比べて少ない」と指摘する。世界的に見るとODAを行っている国でこの数字が日本より小さい国は韓国とギリシャしかない。しかも現在韓国はODAの増額に力を入れているので、日本が追い抜かれるのは時間の問題だそうだ。だからといって政府が出せるお金は限られているので「NGOやNPO、国際機関、企業などとうまく連携し、お金を無駄遣いせず効率よく使う必要がある」と杉村氏は語った。

 さらに、日本のODAは決してバラまきではなく戦略的であると杉村氏は強調する。例えばマレーシアに大規模な国際・大水深港を建設したが、それはマレーシアの液化天然ガスや、携帯電話などに必要なレアメタルを日本に輸出するためでもあるという。
 中国は今や日本を抜いて世界第2位の経済大国だが、そんな中国に金額は少なくなったもののいまだにODAを続けているのはなぜか。それは環境問題などを解決するにあたり、まだまだ日本の技術が必要とされているからだという。中国の環境汚染は深刻で、汚染物質は風に乗って日本にも影響が及んでいる。対中国のODAで重点的に行っている事業は大気汚染、黄砂など直接日本に悪影響をもたらすところに絞ってやっているそうだ。他国を援助することで日本にも良い結果をもたらす一例と言える。

 杉村氏は「ODAに対する様々な意見があることは承知している。国民がちゃんと判断できる材料がみんなに届いているのかをよく検討する必要がある」と語る。多くの日本人はODAが日本にとってどのような利益があるのかをよく知らない。このため最近「見える化サイト」(JICAホームページ)が立ち上げられた。杉村氏は「ODAの評価や効果をきちんと示して国民の理解を得る。ODAに関心のない人にも興味を持ってもらい、すでに高い関心を持っている人たちには、彼らが必要とする情報が伝わるようにしたい」と述べた。

難民を助ける会の穂積氏を取材

 ではNGOにはODAはどのように映っているのだろうか。特定非営利活動法人「難民を助ける会」は寄付金だけでなく、ODAからも活動資金を受け取り活動している。シニアプログラムコーディネーターの穂積武寛氏は「NGOは一つ一つの団体がやっている事業規模は政府と比べると小さいが、パッと素早く動くことができることが強み」と言う。バラまきとの批判の反省から、政府は日本NGO連携無償資金協力(以下N連)という仕組みを作った。NGOの会費や寄付金は、財源として不安定なため収入が予測できず、大きな事業を計画しにくい。しかしN連 を利用すれば、承認された金額は確実に受け取ることができるので大いに役立っているそうだ。

 途上国がいつまでも援助に頼らず自立していくためには、資金調達や事業運営を自分たちで行う能力をつけてもらうことが必要である。難民を助ける会では地雷処理やエイズ予防の啓蒙活動のために現地人のスタッフを訓練し彼らに行ってもらっている。また、一人一人のニーズに合った車椅子を作るための技術を教え、事業を行うための資金調達のアドバイスなどの支援もしている。「国やNGOが援助を行わなくてもいい日が来るのが究極の目標。その日までは支援を続けたい」と穂積氏は語った。

 「ODAはsolidarity(連帯責任・連帯意識)だ」と強調するのはアフリカ・アンゴラ共和国大使館公使参事官のミゲル・ボンバルダ・ダ・クルーズ氏だ。アンゴラは2002年まで内戦が続き、経済的にも国を安定させるため支援を必要としている。アンゴラの主な産業は石油やダイヤモンドなどの資源関連で世界中に輸出している。しかし「石油はいつかなくなってしまうから産業を多様化する必要がある」と言う。アンゴラは資源に大変恵まれている国だ。およそ30種類ものレアメタルがあり、水資源が豊富で広大な国土は気候も良い。将来は大規模農業を行い、食糧を自給自足し、そして農産物を世界に輸出できるようにすることが目標であるという。ボンバルダ・ダ・クルーズ氏は「この大規模農業では日本の技術が使われるだろう。将来アンゴラが安定して平和を構築した時には、日本が困ったことがあったら必ず助ける」と語った。

 現在のODAは与えるだけの一方通行の支援ではなく、日本にも利益をもたらすようになっている。支援する側とされる側の両方が得をすることにより、世界の経済、環境、生活、治安、衛生などが少しずつ向上していくのではないだろうか。共に生きていく世界の仲間として、政府とNGOが協力してODAをうまく活用することもこれからますます必要になるだろう。

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教育

大学選び それでいいの?

飯田 奈々(17)

 2012年の冬、田中眞紀子文部科学大臣が、大学設置・学校法人審議会の答申を覆し、3大学の設置申請を認可しなかったことが、大きな話題となった。 結果として認可されたが、この背景には大学教育をめぐる本質的な問題点があるのではないか取材した。

文部科学省岡本仁弘氏と田辺和秀氏への取材
文部科学省岡本仁弘氏と田辺和秀氏への取材

 日本の大学は平成13年から平成23年の10年間で私立大学は103校も増加した。(文部科学省「学校基本調査」より)そして、平成23年度私立大学は45.8%もの大学が定員割れとなった。このような現実に加えて少子化も進んでいる。なぜ大学は増え続けるのか、今後どのようにして定員割れを克服すればよいのか。文部科学省高等教育局高等教育企画課の岡本任弘氏と同局私学部参事官付専門官の田辺和秀氏、そして桜美林大学院の教授であり「消える大学残る大学全入時代の生き残り戦略」の著者でもある諸星裕氏にインタビューした。

 岡本氏と田辺氏によると、大学が増え続けているという考えは間違っているのだという。私立大学の増加というのは私立短大から四年制私立大学への移行が多いためであり、全体の大学数は平成13年から減少しているそうだ。

桜美林大学院 諸星裕教授への取材

 また、諸星氏によると「日本の少子化が直接大学の定員割れに繋がっている訳ではない。少子化も進んでいるが、大学進学率も年々上がり、今では50%の日本人が大学へ進学する。これは大学の定員とほぼイコールなのだ」と言う。さらに、「それにも関わらず定員割れが起こる理由は、多くの日本人が少しでも上の有名大学に進学することを望むからだ」と述べた。

 定員割れを克服する方法として、諸星氏は若者一人ひとりの大学のとらえ方と日本の大学のあり方を変えることを提案した。
1つ目は、前述したように多くの日本人が少しでも上の大学、そして名の知れたブランド校に進学することを望む以上定員割れが起こることは当たり前である。しかし大学には、個々に合った大学があり、自分が一番成長できるであろう大学がその人にとって良い大学であり、大学に「入る」ことが目的ではなく、大学に入り「学ぶ」」ことが目的であることを意識して大学を選ばなければならない。すべての人の持っている良い大学と悪い大学の概念を変えることが大切であると語った。
2つ目は日本の学生は学部に入るから、在学中に自分の分野を変えることを容易にできない。しかしこのような調査結果がある。アメリカの大学に入学した1年生に「何を勉強したいですか?」と聞き、1、2年生で教養を身につけた後、3年生になって入った学部と1年生のときにこたえた分野が同じだった割合はたった28%だったのだという。このように若者のニーズは変わりやすいのだから、アメリカのように1、2年生の間はどこの学部にも所属せずに教養を身につけ、3年生になって学部を決めるという制度にするなど、その学校独自の制度を作ることも有効であると語った。

 岡本氏と田辺氏はニーズ調査を地域ごとにしていくことの重要性を指摘した。地域によって不足している学部や求められている学部が違うのだから、それをきちんと把握し、大学設立後もニーズの変化にあわせてどんどん変えていく必要性を訴えた。また、大学ができた地域にはそこの学生によって地域が活性化することにも繋がるから、地域と大学が連携していくことが、これから大切になってくることだと述べた。

 すべての取材を通じて共通していたことは、「大学は時代やニーズに合わせてどんどん変わっていくことが求められている」ということだ。それにともない、私たち高校生一人ひとりが責任をもって大学を選ぶことも求められている。狭い視野で大学を選ばずに、日々アンテナをはって様々な情報に触れ、今まで意識してこなかった新しい視点で大学を見定めることも重要である。

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Interviews 社会

Capital Punishment in Japan July 17, 2012 by Sara Tomizawa (16)

Capital Punishment in Japan
July 17, 2012
Sara Tomizawa
 (16)

A 2010 survey indicated that 85% of Japanese are in favor of the death penalty seeing it as unavoidable punishment for brutal crimes.  However, there are some groups seeking to abolish capital punishment in Japan. Will Japan maintain the death penalty in the future?  To come to a better understanding of the situation, parties on both sides of the issue were interviewed.

  Tsuneo Matsumura, Acting Chairman of the National Association of Crime Victims and Surviving Families (Asu no Kai)     Tsuneo Matsumura, Acting Chairman of the National Association of Crime Victims and Surviving Families (Asu no Kai) insists that capital punishment is necessary. He said “the possibility of wrongful convictions cannot be a reason to abolish the death penalty; it is the duty of the police to carry out proper investigations. The crime victims and surviving families demand the death penalty and such demand has nothing to do with wrongful convictions.”  “If you support respecting the human rights of criminals, then the same holds true for the victims and family members perhaps even more so.”

The global trend is toward abolition of capital punishment with fewer and fewer nations supporting it. One of the current conditions for a country to join the EU is that the death penalty be abolished if in existence.  Amnesty International reported in 2009 that approximately 30% of all countries including the United States, Japan, China, India, Iran, and Saudi Arabia have the death penalty. When asked about this trend, Matsumura responded “other countries have a religious basis behind this issue and Japan does not. Besides, if we look at population instead of the number of countries, more than half of the world’s population lives in an area with the death penalty.”

In addition, Matsumura is skeptical in regard to the introduction of life imprisonment as a substitute for capital punishment; currently more taxes are spent on prisoners than for supporting lower income families. Life imprisonment would increase the operational costs of prisons. Spending taxes paid by crime victims for the benefit of the criminals is unreasonable. “How could a murderer compensate for the life he took while still alive? Surviving families desire to recover their lost ones, but we know this is impossible. So, the only consolation available is to take away the life of the criminal.”

 Shizuka Kamei, the chairman of the diet members group for abolishing the death penalty   Shizuka Kamei, the chairman of the diet members group for abolishing the death penalty, advocates its elimination. As a former public official belonging to the Police Agency, he stated that it is impossible to prevent 100% false accusation. He said “even criminals should have their human rights protected. The government must protect their rights because it is its duty.”

Kamei points out that the survey indicating that the majority of the people support the death penalty was not developed properly. The questionnaire limits choices and leads respondents to choose that the death penalty is unavoidable. His group conducted a survey asking whether or not people were in favor of abolishing the death penalty when lifelong incarceration is put in place. The majority said “yes.” Based on this survey, he believed that the ratio of Japanese in favor of the death penalty would significantly fall if life imprisonment is alternatively proposed.

Kamei proposed life imprisonment as a first step to abolish the death penalty.  Life imprisonment could be crueler than imprisonment with the possibility of parole after 10-20 years.  However, he thinks there is no choice but for criminals to consider the damage they caused and reflect on their crimes. He strongly advocates as a politician that the government must not kill a citizen.

With the introduction of the jury system, ordinary citizens are now involved in the judicial process and need to deal with the application of the death penalty.  Accordingly, we are obliged to study and think about capital punishment. Debate over this issue will continue.

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IT 座談会

LINE知っている?

出席者:毛利美穂(17)、米山菜子(16)、持丸朋子(18)、小川真央(18)
2013/2/11

全世界で1億人以上、日本でも4000万人以上のユーザーが登録するコミュニケーションサービス「LINE」。緑のアイコンをタップして、液晶画面を見つめる子どもの姿に「何をやっているのか?」と思う親もいるだろう。ネットいじめや「出会い系」など、SNSの危険性も心配である。LINEの子どもたちの利用実態について、高校生記者4人が話し合った。高度な情報リテラシーと、柔軟な活用方法を、子どもたちは実践で培っているようだ。

LINEとは

美穂:LINE というのは主に携帯で使用できるアプリケーションのことで、トークと無料電話ができて、スタンプもダウンロードして、有料と無料で使えます。
朋子:あと、LINEはスマートフォンだけでなく、普通の携帯電話やパソコンからも使用できるので、主に携帯、スマートフォン、パソコンの3つから使用ができます。
菜子:通信料しかかからず、通話もトークもすべて無料となります。

■始めたきっかけ

美穂:私は二年前に普通の携帯からスマートフォンに変えた時に、アプリケーションをダウンロードして使用を始めました。ほぼ毎日していて、使っている相手は友人と家族と習い事の先生です。
菜子:私がLINEを始めたきっかけは、テレビでCMをやっていてダウンロードしてみました。そのときは全然友だちは誰もやってなかったんですけど、だんだんみんながスマートフォンに変えるにつれて友だちが増えていって、今は一週間のうち三日くらい使っています。使っている相手は友人や家族、また小学校の時のなかなか会えない昔の友だちとかと使用しています。
朋子:私は去年の夏にアメリカの一年の留学から帰ってきて、まず友だちがLINEをしていることに気づき、そこでまだ普通の携帯電話だったのでパソコンでLINEを始めました。そのあと9月にスマートフォンに変えてから、より多くLINEを使用するようになりました。パソコンの時はいちいちパソコンを開かなければいけなかったのであまり使用していなかったのですが、スマートフォンに変えてからは多くの友だちが使用しているのと手軽にできるので毎日LINEをしています。
真央:LINEを始めたきっかけは、友人に勧められてダウンロードしました。始めたのは半年前でまだ始めたばっかりなのですが、最近ではほぼ毎日使用しています。使用している相手は友人、家族、先輩、後輩ともしています。

■LINEの良い点

美穂:LINEはすごく手軽に打てるのでとても流行っています。送信ボタンを一回押すだけで、すぐ上の行に上がっていくので見やすいです。
菜子: チャットのようになっていて 見やすいので、 大勢いる部活の高校三学年みんなで情報を交換する場ともなっています。
朋子:あとデメリットにもなりますが、既読といって相手がメッセージを読んだら「既読」というよう に表示されるので、相手が読んだことを確認できる点も特徴だと思います。
真央:LINEではグループを作成できるので、複数の相手に伝えたいことが伝えられます。一斉送信よりも気軽にできるので便利だと思います。
菜子:企業のアカウントもあるので、企業やタレントがメッセージを送り、自分たちを売り込む 場ともなっています。また企業がスタンプを作って、それも広告の場となっています。
美穂:そのスタンプを作ってアプリケーションに入れるっていうのは企業がすごく大金を払ってやっているので、かなりの宣伝力になっている のだと思います。
朋子:LINEは気軽にできるという点で、今まであまり連絡がつかなかった人とも連絡をとることができるので、コミュニケーションの場をより増やすことにつながると思います。
美穂:電話帳に入っている人が全部LINEの友だち上に出てくるので、すごく気軽にできるし、今までメールアドレスが変わっ てわからなかった人もLINE上だと出てくるっていうのが利点だと思います。

朋子:逆に見つけられたくない相手というか、連絡を取るのはできたら避けたいっていう人の連絡先も出てきちゃうことについてどう思いますか?
美穂: 私はそういう人をブロックしています。 、ブロックすると相手は自分がブロックされているってわからない けれど、自分のところには出てこなくなる。 相手も、既読がつかないから 「読まれてないから返事が来ないんだ」と思うのだと 思います。
菜子:他にも、もともとの設定で、携帯の電話帳から勝手にLINEの友だち欄に載らないように設定したり、 IDで検索されないようにできるなどの設定があります。
真央:その電話帳をLINEのアプリに提供するのに、承認せずに電話帳の検索機能を拒否することができると思います。私はそれを使っていないので、連絡を取りたい相手に対してLINEのIDを個人個人に聞いています。

LINEの問題点

美穂:デメリットは 、連絡をするのが簡単すぎるので、あまり意味のないことでも話が膨らんで返信がすごく大変になってしまうことだと思います。
菜子:学校の保護者会でも、子供たちがLINEに夢中で勉強に集中できなくて心配だという声があがっています。
真央:LINEでは感情を伝えるスタンプが存在するので、文字を打つ機会が減っていると思います。
朋子: 手軽さというのが裏目に出て、長時間の使用を無意識的に続けてしまうので、その点では問題だと思います。
美穂:学校の保護者会で、「ID検索っていうのをできないようにしてください」 と言われているそうです 。出会い系サイトのように使用する人が適当に打ったIDが、偶然自分のもので 、トークが来ると出会い系のようになってしまう こともあります。
菜子:私の学校ではクラスLINEと いって、同じクラスの子がほぼ全員入っているグループがほとんどのクラスにあるんですが、そのクラスLINEで、仲間内で少し浮いてる子を一人だけ入れさせないようにしているグループがあって、それが問題になったクラスがあります。
真央:他の問題点として、自分が関係していない場合でも、所属しているグループの会話の内容が届いてしまうので、それで時間の無駄ができると思います。

■他のSNSとの比較

菜子:他のSNSに比べてLINEが違うところはなんだと思いますか?
美穂:昔流行ったFacebookなどと違う点はまず用途が違うと思います。私の今の使い方 は、
Facebookは写真を共有する場、 LINEはトークをする場として、 二つをうまく使い分けています。
真央:FacebookmixiなどのSNSと違う点は、LINEは承認を相手が自由にできるのですが、Facebookmixiはお互い承認しあわないと一方的にどちらかが登録するということは起きない点です。
朋子:LINEの他のSNSと違う点は、本当に必要な時にしか基本的に使わない点だと思います。Facebookmixiだと、他の友だちがつぶやいた、自分に関係のないことが流れてくるのに対して、LINEは友だちとの1対1、または自分対他の友だちのグループっていうふうに本当の友だちじゃないと基本的に使わない点が大きく違うと思います。
美穂:mixiとかFacebookも、やっぱりつぶやきが流れてきて見ているんですけど、LINEは完全にメールに代わる機能だと思っていて、本当にメールと同じように1対1とか1対多数、複数送信と同じ機能なので、全然違うものだと思います。
美穂:カカオトークcommLINEだとcommが一番音質が良いという評価なのですが、それでもLINEを使う理由ってなんですか?
真央:その前に質問いいですか? commカカオトークLINEってそれぞれどういう特徴があるんですか?
美穂:commは一番電話の音質が良いのですが、 スタンプの数はあまり多くないし、表示画面も見やすくないけれど、LINEカカオトークが流行しているので便乗して、新しくできたものです。
菜子:当初はLINEを使っていて、一度カカオトークcommを入れてみましたが、最初に見て思ったのは、「スタンプがかわいくない」です 。LINEを使っている理由は 、スタンプをかなり使っているから で、そのスタンプがかわいくないカカオトークcommはあまり使わず、今はアプリを消してしまいました。
朋子:私はcommはやっていないのですが、LINEカカオトークをやっています。圧倒的に使用している友だちの数が多いので、LINEを頻繁に使用しています。LINEカカオトークも両方とも勝手にアドレス帳に入っている友だちのリストが出てくるんですが、その数がLINEの方が断然多く、より多くの友だちと連絡を取れるのでLINEを多く使用しています。
真央:私はカカオトークcommを使用していないので、両方の音質がどのようなものかわからないのですが、LINEは確かに音質が悪く、友人と連絡を取る際にいつも聞きづらいと思っています。なので、LINEは今後普及していくにあたって、音質を改善していくことが必要だと思います。
菜子:LINEでは複数の友だちと通話をすることはできないのですが、カカオトークではそれができるらしいです。なのでカカオトークを使っているという友人も多くいます。また、commのデメリットとして、LINEやカカオトークはアクセス制限のかかっている友だちは使えなかったのに対して、commはアクセス制限にひっかからないという点で不安を感じました。
朋子:私もLINEは複数での電話ができないので、複数で電話が必要な場合にはカカオトーク、メッセージの場合にはLINEというふうに使い分けをしています。
美穂:私の友人でも電話とLINEのトークで使い分けている人がすごく多くて、やっぱりカカオトークよりLINEの方が企業がすごく入ってきているし、クーポンも取れるので使用している人が多いです。
真央:LINEの大きな特徴である既読についてはみなさんどう思いますか? 
朋子:私は相手がメッセージを読んだということを知らせる点でとてもいいと思います。メールだと実際読んでいても返信が遅くなってしまって相手がいつ読んだのかとかがわからないので、その点で既読のシステムはいいと思います。ただ自分が忙しい時とかでどうでもいいような内容のメッセージを読んでしまうと、その場で返信しなきゃいけないというプレッシャーがかかってしまうので、その点ではちょっと面倒だと思います。
菜子:実際に私の友人で既読が付いているのに、返信が来ないといって怒る子がいます。それによって新たなトラブルも生まれています。
美穂:既読のメリットとして、震災での生存確認のようなものにもなるし、やはり誰が読んで誰が読んでいないのかっていうのが、グループ内で人数だけですけどわかるので、みんなに伝わっているかという確認が取れると思います。デメリットだと読んでしまうと返さなきゃいけないっていうプレッシャーになってしまうので、忙しい中で大変なことになってしまいます。
真央:LINEの既読の機能については、確かに誰が読んだか読んでいないかということが明確にわかるのでいい点でもありますが、返信しなければならないという責任感に追われるので既読という機能については悪い点もあると思います。
美穂:でもやっぱり既読っていうのはLINEの特徴だと思うので、これからもあってほしいなと私は思います。
菜子:LINEが既読の制度をつけたことによって、Facebookなどでも既読の制度がつきました。このことから、LINEの既読の制度はかなり評判がいいということがわかると思います。

■LINEは電子メールに代わる!

菜子:LINEは今流行っているだけで、今後は消えていくと思いますか?
真央:LINEは今後継続して流行していくと思います。私は今まで、新年の挨拶にメールを友人からいただいてたのですが、今年は大多数がLINEであけましておめでとうを送ってきました。やはり人間は気軽な方に魅力を感じると思うのでそういったメールもLINEを利用する機会が今後どんどん増えていくと思います。
朋子:LINEが気軽で今これだけ普及しているということは、かなり大きなメリットがあるからだと思います。なのでLINEはこのまま継続して普及していくと思います。ただ、LINEはまだ一つのアプリでしかないので、この後簡単に消えていくこともできると思うので、LINEの機能がスマートフォンに基から付くくらいに大きくなったら、その後もずっと続いていくような気がします。
菜子:私は今後携帯にもともと付いているメールがLINEのようになっていくのではないかと思います。
美穂:commとかカカオトークとか他のLINEと同じような機能もあるので、どれが生き残るかっていうと今一番利用者が多いLINEが生き残っていくし、企業も力を入れているので強いと思います。

■大震災時の連絡手段
美穂:LINEは3.11の震災の後に新たな連絡手段として既読の機能もあり、実際読んだかがわかるし、ネット回線を使うことによって電話の回線などの混雑を防ぐこともできるということで作られたのですが、皆さんはまたもし3.11のような大きな震災があった場合どのSNSを連絡手段として使うと思いますか?
菜子:私はまずLINEで送って、既読が付かなければもとから携帯についているメールを使用すると思います。なぜならもとから付いているメールは一度違う機関に送られてから相手に送られるので、その場ですぐ相手に届かないとしても最終的には必ず届くので生存確認としては使えると思います。
美穂:私も先にLINEで送ると思うんですけど、それでたとえ既読がついても、やっぱり被災地だと、本当に読んだのかどうかトラブルで既読が付いちゃったのかすごく不安なので電話とかメールもしてしまうと思います。
真央:私もまず最初にLINEの機能を使って既読かどうかを確認し、そしてフェイズブックなどのメッセージ機能をその後に使い、いつ読んだのかとか時間までわかるので、時間を確かめられたらいいなと思っています。
朋子:私もまず最初にLINEの機能を使うと思います。LINEで送った後に既読が付いても付かなくてもメールや電話など、もとからある携帯の機能としての、より安心感というかアプリよりも重要な機能で送ると思います。また後はツイッターなどの大勢の人が利用できるSNSを利用して、情報などは手に入れると思います。
真央:家族に対してはフェイスブックのメッセージやLINEを使うと思うのですが、友人に対してはツイッターやミクシィなど全体に流れるものを使用すると思います。
菜子:3月11日の震災の日、実際に一番つながったのがツイッターだと言います。なのでツイッターも使うと思います。
美穂:今ミクシィの使用者が友人の間でもすごく減っているので、私はミクシィは手段にはしないでSNSだとやはりLINEやツイッターなどでやると思います。ツイッターだとタイムランに友人のことしか出てこないので、あの子は大丈夫だったんだっていう確認がそこでもできると思います。
真央:LINEのデメリットである既読の機能については、スマートフォンであれば一文で内容がだいたいわかるので読むことをしなければいいと思います。そして二つ目に知らない方やあまり連絡を取りたくない方に対しては、ブロック機能を利用して拒否をすればいいと思います。そしてLINEの大人数でのグループにおいて、自分が関係ない場合は通知オフをしてLINEから頻繁に連絡の通知が来ることを防げます。このようなデメリットに対しては対策をうつことができるので、今後LINEは普及していくと思います。

以上 

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報告会、レクチャー その他

CE Reporters Attended the 7th International Youth Media Summit, Aug. 2012

120822_summitTwo high school CE reporters attended the 7th International Youth Media Summit in Belgrade, Serbia from August 1st to 12th ,2012.

Around 50 young people from 18 countries such as the former Yugoslavian countries, (Slovenia, and Bosnia-Herzegovina), the United States, France, Sweden, Greece, Poland, Georgia, Hong Kong, and Japan were divided into 7 groups to discuss issues of international concern: poverty, violence, the environment, discrimination, women’s rights, youth empowerment, and health. Each group produced a 1-minute short film, which expressed their declaration to the world.

http://iyms.info/iyms

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報告会、レクチャー

The 10th Anniversary of CE, 2012

120803_10thOn June 17th, more than 60 people including reporters, members, youth workers, former reporters, staff, supporters, and board members celebrated the 10th anniversary of Children’s Express at Pria Shibuya. Everyone enjoyed watching  video works portraying CE’s first decade.

CE started its activities in April 2002. Since then, many reporters have written articles on various topics. Selected works were collected into a 10th anniversary brochure “A Decade of CE”.

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国際 報告会、レクチャー

Japan-UK Reporters Exchange Program 2011

111221nitieikouryu11_01From November 2nd to 8th, CE Japan welcomed 4 reporters and 2 staff from Headliners’ Belfast Bureau, the sister organization of CE. Belfast is the capital of Northern Ireland where Catholics and Protestants live separately because of the prolonged dispute between the two religions. Visiting members were from both residential areas. They visited temples and shrines in Japan where religious freedom is ensured by our national constitution. They also covered religious views of young Japanese.

Most of the expenses for this program were funded by the Great Britain Sasakawa Foundation.

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座談会

高校生の留学


出席者:瀧澤真結(15)、3歳から小1までフィリピンのマニラ、小5から中1までケニのナイロ ビ在住
    米山菜子(16)、米国ポートランドに学校から3週間語学研修で滞在
    飯沼茉莉子(16)、米国で生まれ小3で日本に、中3で再度米国へ
    富沢咲天(17)、幼稚園から小5まで米国ニューヨークに滞在
    持丸朋子(17)、高2で1年間交換留学生として米国ポートランドに留学
2012/12/27

グローバル化している今、英語の習得、世界で活躍するための能力を身につけるために、海外留学をする高校生たちがいる。海外に留学することによって、どのような影響があり、どのようなことが得られるのか。帰国子女、長期交換留学、短期語学研修で、英語圏で学んだ記者たちが、高校生の留学のメリット、デメリットを討論した。

高校生まででも様々な留学の機会がある

朋子:私は高校2年生の夏からアメリカのポートランドで、学校間の留学生として女子高校に1年間通いました。学校でただ一人の交換留学生だったので、留学生としての待遇をかなりよく受けることができました。友だちをつくり、先生のサポートも得られたので、勉強面でも何とかついていくことができましたし、スポーツやボランティアをすることで友だちも増やして、充実した1年が送れました。

咲天:私は幼稚園からアメリカのニューヨークに住んでいました。最初は英語がほとんど喋られなかったのですが、幼くて現地の子どももみんなが一からABCを学ぶという感じだったので、そこまで苦労はしませんでした。小学校5年の二学期に帰国して日本の学校に転校して厳しさが全然違うなって思いました。アメリカは授業中もゆるくて、優しい先生が多かったのですけど、日本では授業中も厳しいし、姿勢も注意されるし、細かい校則がたくさんあって、ニューヨークと全然違うなって思いました。

茉莉子:私は父の仕事の関係で、ニューヨークで生まれてから5年間、その後はサンフランシスコに3年間、小学校3年生まで住んでいました。日本に戻ってから2011年、中学3年の5月にまたアメリカに行ったのですけど、耳(聴き取り)と発音だけは残っていたので普通の日本人が行くよりは有利だったと思います。
今は地元の公立校に通っていますが住んでいる地域はアジア系の子どもが多く、高校になると人種でかたまるようになって、アジア人が多かったからなじみやすく、今は友だちもたくさんできて楽しいです。でも勉強は日本と違って毎日がすごく大変です。日本みたいに期末テストの一発勝負で成績が決まるのではなくて、アメリカの場合は毎日のテストや態度、プロジェクトなどが成績の大半を占めるから、毎日すごく勉強しないと成績はとれないので想像以上に大変です。

菜子:今年の夏に学校の研修旅行で、オレゴン州ポートランドに3週間行きました。
英語力はほとんど身につかず、現地の同世代の子たちと交流を深めた感じです。文化は学んで来られたけれど、英語力を身につけるにはまだ物足りないなと思いました。でも日本の学校を長期間休まずに、夏休みを有効に使えたのはメリットかなと思います。

真結:私は3歳の時に父についてフィリピンに行きました。まだ小さかったので、そこの言語(英語)を日本語を覚える感じで何不自由なく覚えられて、その後小学1年の三学期に日本に帰ってきても、自分が帰国子女だという意識はあまりなくて、そのまま小学校を過ごしていました。小学校5年の二学期にケニアに行ってインターナショナルスクールに入り、最初は大変だろうと思ったんですけど、入ってみると、昔自然に覚えた言語なので、会話は英語でついていけました。勉強もそんなに大変じゃなくて、逆に日本の漢字の方が大変だなと思いました。中学1年に帰国して今の日本の学校に入ったんですけど、一学期間だけ急遽また戻らなきゃいけなくなって、そのときにはケニアの日本人学校に入ったんです。ケニアにいながら日本の勉強ができるという環境の中で英語もスーパーの買い物などで使うことができたので、英語と日本語とどっちも不自由することもなく過ごすことができました。

■交換留学で身についた自主性、積極性

真結:朋子ちゃんはなぜ1年間だけでも留学に行こうと思ったんですか?

朋子:私は小学校から同じ学校に通い、ずっと同じ環境でずっと同じことをしているのが嫌でした。あとは小学校から英語を学び英語に興味があったし、ホストファミリーとして留学生を受け入れていたこともあって、異文化に興味があったので、自ら留学して異文化に触れて、新しい環境で新しいことに挑戦してみたい思いが強くて留学しました。
日本では小学校から英語を学んでいたのですが、それでもアメリカの高校生が日常的にワーって話す英語にはついていくのは大変でした。まわりに「わからない」ということを伝え、「何て言ってるの?」と聞くときちんと教えてくれた。授業でもわかるところだけ必死にノートをとって、宿題も多いので、英語に毎日触れていたら冬休み前にはかなり英語がわかるようになったと思います。日常生活を通しても英語をかなり学ぶことができたと思いました。ただ逆に学問的な英語はあまり身につけられなかったと思います。

茉莉子:朋子ちゃんは留学して一番身についたことはなんですか?

朋子:一番身についたのは自主性、積極性だと思いました。日本で小学校から同じ学校に通っていて自分のできることが限られていたので、アメリカでは何か別のことをしたいと思っていました。それでまず朝の合唱団に入って毎朝7時10分から学校で歌ったり、ボランティアで日本語の教師をちょっとやったり、小学生のキャンプに一週間付いていって、キャンプリーダーをしたりと、日本でなかなかできないことを自らやってみるっていう精神が付いたと思います。

■人種別のグループ、ランク付けはあるの?

茉莉子:逆に一番大変だったことは何ですか?

朋子:私はジュニアの11年生に入ったんですけれど、まわりの人がもうすでに4年間同じ学校でグループができて、人種別に分かれていたので、最初に友だちをつくるのが一番大変でした。

咲天:茉莉子ちゃんは「今の現地の学校で人種でかたまっていてなじみやすい」と言っていたけれど、人種でランクってあるんですか? 例えばよくアメリカの学校はランチを食べるところが狭くて、学校でけっこうイケてるみたいな感じの人たちが机に座れて、それ以外の人たちは違う、みたいなイメージがあるのですけれど?

茉莉子:私の学校はただ人種別の方がたぶんみんなお互い気が合うと思うからかたまっているのだけれど、特にランクっていうのはないし、ランチを食べるところなどは決まっているけど、それも特にランクとかあるわけじゃないです。でも白人が多い他の地域に行くと、ドアもだいたい白人以外の子が開けて白人が入って行くみたいなのはまだけっこうあるみたいです。

■受験英語とは違っていた

菜子:日本の大学受験が英会話と大学受験は違うことがけっこうあると思いました。英語力を養ってきても大学受験では通用しない。私は語学研修で学校の英語の先生に「今まで学校で習ってきた英語の授業のことは関係ないから一回忘れろ」というようなことを言われて、じゃあ学校でやってきたことはなんなのかなって思った。日本の大学受験の英語という教科が英会話と違うっていうことにすごく疑問があります。

朋子:日本の大学入試の英語の文章を読むと、だいたい、日本語で要約しなさいとか、あまり使わないようなレアな文法をあえて覚えさせられてそれが受験に出るとか、向こうで学んできた英語力とは違う点で英語についての問題が出される。実際に留学して大学入試で通用する英語が身につけられるかというとそれはちょっと違うなと思いました。

■日本での学生生活が「抜ける」

菜子:朋子ちゃん、1年間だけ留学して日本の大学を受験するのは大変ですか?

朋子:日本では高2の夏か二学期から受験勉強を必死に始める人が多いのに私は高2で留学して、高3の夏休みに帰ってきて、まわりはもう受験モード一色でクラスの雰囲気もかなり変わっていたし、勉強面では抜けたところが大きいと思います。私は日本の大学でAO入試の受験をしたのですが、国際教養学部を受験するのに英語だけが必要だったので、留学して英語を学んできてよかったと思いました。ただもし日本の大学の他の学部を受験していたら、けっこう勉強面では大変だったと思います。

朋子:菜子ちゃんは3週間アメリカに語学研修で行って、もう一回人生のどこかで留学してみたいとは思いましたか?

菜子:人生のどこかでだったらしてみたいと思うんですけど、今高校生で、したいかって聞かれたらそれは「いいえ」になると思います。英語力は身につけたいとは思うんですけど、今の生活を捨てて1年間行くのはやっぱり勇気がでないし、受験のことも心配だし。

茉莉子:菜子ちゃん、留学する勇気がないのは英語が心配だから?一人で行くのがこわいから?

菜子:向こうに行ってからの心配はもちろん英語力で、一人っていうのも心配ですし、日本の大学を受験するつもりなので、留学していて日本での勉強が抜けた期間が、すごく重くのしかかると思うの。その面でも勇気がないし、今高校1年生で、この4年間でけっこう自分の学校のこともわかってきたし、このままみんなで普通に6年間過ごして卒業したいっていう思いもあるので、今の生活を変えたくないっていう意味でも勇気がないです。

咲天:真結ちゃんは海外経験がすごく長くて、今は日本の学校に通っているんですけど、また海外に住む、あるいは留学したいと思いますか?

真結:私は実はずっと日本にいたい。今、日本で生活していて、部活やテレビなどいろんなものがすごく充実している。私は3年に一度は引っ越しをしてきたから、小さい頃から一緒にいて、親同士も仲良くてみたいな「幼なじみ」っていうものにずっと憧れています。世界中に友だちがいるのはステキなことだと思うんですけど、自分のことを一番よくわかってくれる友だちもステキなことだと思う。今、中学3年間ずっと同じ友だちと一緒になれて、これから先も高校も大学もそういう友だちと絆を深めていきたいので、海外には行きたくないです。

菜子:私は中3の時に留学してもう帰ってこないっていう子が友だちに何人もいるのですが、「今学校ではこういう行事があって」と言うとすごく「いいな」っていう顔で、今まで当たり前のようにやっていた行事をすごく恋しそうにしていて、そういう行事もその学校でしかできないし、同じ仲間としかできないし、今の時期にしかできない日本の学校生活というのも大事なんだと思います。

咲天:私も実際帰ってきた時に「え、こんなことも知らないの?」って友だちに言われたり、「流行」についていけないのが、たぶん多くの人が心配していることなんじゃないかって思います。

真結:私は友情関係がやっぱりすごく不安。3年に一度転校してきた分、毎回新しい友だちをつくらなきゃいけなくて、そのたびにまずどういう自分でいけばいいのか、どういうふうに人の輪に入っていかなきゃいけないのかがすごく不安になる。誰と仲良くすればいいんだろうって。仲良くなったら3年でもうお別れというのが毎回すごくつらくって、もうそういうふうな別れを何回もしてると、新しい土地で新しい友だちをつくって、でもどうせまた1年後にはその人たちとお別れしなきゃいけないつらさも留学に行きたくない気持ちにあると思います。咲天ちゃんは留学したいですか?

咲天:今は話したり聞いたりという英語は昔アメリカに住んでいたので一応できるんですけど、書いたり読んだりする英語力はないので、高校時代にそういう学習面での英語を勉強して、大学に行ったらまた留学に行きたいなって思っています。実は今学校で中国語の勉強をしていて、中国の文化にとても興味があるので、大学に入ったら英語圏じゃないところにも行ってみたいと思っています。

■留学のメリットとデメリット

茉莉子:皆さんは高校生の留学のメリットとデメリットは何だと思いますか?

朋子:一年間日本にいない分の勉強ができないことが、大きなデメリットだと思いました。メリットは新しい環境でまわりも知らない人だらけで、違う文化で長い期間勉強しながらいろいろなことができることだと思います。もしあまり新しい環境になじめなかったら、友だちの少ない中で一年間やっていくというのは大変だと思います。

真結:英語がすごくうまくなる人もいると思うのですけれど、外国人(ネイティブ)並みになるのはすごく難しいと思います。メリットは自主性と朋子ちゃんが言ってたように、違う自分にも出会えること。いろんな外国人と面識をもって関わりをもつことも、グローバル化する中ですごく大切だと思うのでメリットだと思います。

菜子:英語力と日本の大学の受験勉強っていう面だけをみると、留学は日本の大学受験にはすごく不利になってしまう。だからといって日本の大学受験を念頭において、私みたいに短期間留学をすると英語力はあまり身につけられないので、バランスがとても難しいと思います。

咲天:人によると思います。例えば海外経験のある人が語学留学に行っても、もう英語も知っているので、目的がずれてしまうので、自分に本当に留学が必要なのかを考える必要があると思いました。メリットとしては海外の文化を知ることができるし、海外と日本を比較することで日本の独自性もわかって、自分の国についても、こういうところが日本の特徴なんだって気づくこともできる。それを海外の人に伝えることもできるのでいいと思いました。

茉莉子:私は高校生の留学のメリットは大学に向けてのステップアップだと思っています。高校の留学はある意味語学留学で、大学の学部留学みたいに単位を気にしなくてもいいし、ほんとにお客様みたいな感じで、現地の高校生と同じ授業を受けていなくても単位を気にしなくてもいいから、現地の生活も楽しめていいかなと思います。大学で留学したい人にとってはステップアップとして可能性がすごく拡がるので、高校生で留学しておくのはすごくいいことだと思います。デメリットとしては高校生で留学すると、みんな寮かホストファミリーに入る。日本みたいに電車があまりないし、高校生はまだ車の免許も取れなくて行動範囲が狭くなるから、外出の度にホストファミリーに頼まなきゃいけないので、そこは申し訳ないと感じて、最初はストレスになるんじゃないかな。自分だけではどこにもいけないから、そこは少し大変だと思います。

朋子:実際に私の行っていたポートランドは、かなり公共交通機関が多い都市ですけれど、それでもバスが30分に一本くらいで、毎日の登校・下校もホストマザーが車で送り迎えしてくれていました。友だちの家に遊びに行く時もみんな車で行くので、私のホストマザーか友だちのお母さんに迎えを頼んで、帰りも送ってもらったりしたり、スーパーで買わなきゃいけないものがあったら、毎回ホストマザーに「連れていってくれる?」と言って連れて行ってもらっていたので、自分の親じゃないとわざわざ連れていってもらうのは申し訳ないなっていう気持ちがかなりありました。

■留学費用はしっかりと計算を

朋子:金銭的には交換留学はまちまちで、公の団体を利用して1年間100万円くらいですむものもあれば、私の場合は学校間を通して行ったんですが、学校からの奨学金が50万円で、日本の高校にも学費を1年分払いながらアメリカの高校の学費を払って、あとはホストファミリーにもお金を払ったりして、合計で300万円くらいかかったと思います。

茉莉子:アメリカは高校までは義務教育なので無料なので、私立じゃなくて公立の高校に留学する場合は、授業料はたぶん無料だと思います。

菜子:私は約3週間の学校のカリキュラムでの留学で、日本の大学のアメリカ寮に入っていて、そこで私の学校の留学生のための授業を現地の大学の先生に毎日していただきました。その授業料とか、学校のカリキュラムなので他のところではできないようなプログラムもあったので、それも全部入れて3週間で約50万円ぐらいでした。

茉莉子:やっぱり留学っていうのはすごいお金がかかることだし、みんながみんなできるわけじゃないから、留学をしたくてもできない人が世の中にたくさんいるから、その人たちが留学できるようにするにはどうすればいいと思いますか?

咲天:留学に関して国がもっと斡旋しなくてはいけないと思います。留学したいと思っていれば、行った時も得られるものがたくさんあると思うし、そういうチャンスをつぶしてしまうのはもったいないと思うので、国が補助するべきだと思います。

朋子:実際にアメリカに留学していた人で、貧しい家庭から来ている生徒は留学機関が奨学金を出してくれて、けっこう安く通えている子もいると友人から聞きました。そういう生徒たちは特に真面目で成績も優秀だと言っていたので、留学させてもらえたからには勉強しようという精神が強いのかなと思いました。勉強する意欲がある人が、もっと留学できるようにすれば、いろいろな国でグローバル化についていける人が増えるんじゃないかなと思います。

■暗記英語ではグローバル人材は育たない

真結:私はグローバル化するうえでは留学はすごく大切な手段だと思っていて、実際に社会に出て世界で仕事するときにはどれだけ自分の意見を言えるのか、どれだけ相手といい話し合いができるのかだと思うんです。留学に行ったり海外経験で実際に英語を使って話すことが出来ていないと自分の意見を思い通りに伝えられないと思うので、留学は日本全体で支援していかなくてはいけないんじゃないかなと思います。

茉莉子:アメリカと日本の教育の一番大きな違いで私が感じたことは、日本は暗記暗記っていう感じで、ですけれど、アメリカの場合は暗記をするための勉強っていうのはなくて、あるテーマを調べて、それについてディスカッションをしたりプロジェクトをしたりする。日本人は社会に出て全然発言ができないのも、小さい頃から暗記をしろという教育に問題があるんじゃないかと思っています。アメリカ人は高校からディスカッションをしたり、自分の意見をどんどん言ったりして、そういう下準備がアメリカの子たちはできているから、社会に出ても日本人とは違って発言力もできていると思う。グローバル社会で通用したいなら、ペーパーテストだけじゃなくて、アメリカみたいにディスカッションももっとやった方がいいんじゃないかと思います。

朋子:実際に社会で使える教育を受けられるという面でも、留学はいいのかなと思います。日本の学校にずっと通っていると日本の教育制度に染められて、中間テスト、期末テストのために勉強したり、入試のためにひたすら覚えたりっていう勉強が型にはまっちゃうと思うんです。アメリカや他の国に一度行ってみると別の勉強の仕方がわかって、日本に帰ってきてからもいかに今やっている勉強を今後につなげられるようにするのか、というのを考えられるようになる。留学に行くと新しいことが学べて、新しい目線でものを考えられるようになると思います。

■日本で得られないもの

茉莉子:友人関係を一番に考えた医と思うけれど、留学をしたら絶対に将来どこかでプラスになる。人とは違うことをやっているわけだから、チャンスがあるなら、ぜひみんなにも留学はしてほしいなって思います。

咲天:私も受験や友だちは大事だけど、それは目先って感じがして、逆に留学で得たものは何年経っても使えるし、自主性などもとても大事だと思います。留学に行くとやはり日本では得られないものがたくさん得られると思います。

真結:咲天ちゃんが自主性が身につくって言ってたんですけど、例えば英語力にすごく自信がなくて人見知りする人が留学した場合は全然溶け込めないし、自主性も身につかずに怖くなることもあると思います。逆にその人が日本でもっと積極的に委員会とか自分にできるボランティアとか、プレゼン能力を身につけるとかそういうことをやった方が自主性を身につけるのに効果的な場合もあると思うので、留学だけが一番いい方法ではないと思います。

朋子:留学は性格によって「留学してほんとによかった」っていう人もいれば、ちょっと行っただけで「早く帰りたい」って思う人もいると思います。留学したい思いが強いんだったら、1年間日本の勉強はできない、友だちも会えない、お金もかかるし、リスクも大きいけれど、あきらめないで努力したらほんとにいい経験ができると思います。

茉莉子:私は留学じゃなくて、もう何年か住むという形で今アメリカに行っていて、今はアメリカの生活楽しんでいるけど、最初の1~2週間はなんか全然溶け込めなくて本当につらかった。だんだん積極性がでてきて、アメリカに行ったことによって少し自分が変わったなって、やっと自分っていうものを持てた気がします。私も人見知りな方だったけど、何とか今普通にやってるから、留学はできるならした方がいいと思います。

咲天:全部日本だけで考えていると、絶対に困ると思うんです。グローバル化というのもあるし、必ず何かしら海外とつながっていることは絶対あると思うので、留学に行かなくてもいいけれど、日本だけを中心に考えないというのを意識しないといけないと思っています。海外のことを知ったり、国際理解を深めたりする一つの手段として、留学があるのかなと思います。

朋子:私は留学して、いろいろな視野、日本にずっといると見られないような観点から物事が見られるようになったし、まわりに知ってる人が誰もいない環境で生活することによって、こんなに私は英語ができないのに、まわりの人が仲良くしてくれたり親切にしてくれることに対してすごく感謝もした。今まで当たり前に思ってきたことが当たり前じゃないんだっていうのを身にしみて実感しました。勉強だけじゃなくて、生活面でかなり得たものが多いと思うので留学してよかったと思います。                                   以上

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大学の秋入学に向けて

大学の秋入学に向けて
2012/10/16               小川 真央(18)

 東京大学が秋入学の全面移行に向けて学内で検討組織を立ち上げて実動き始めたことを契機に、メディアが大々的に取り上げ、注目されるようになった「秋入学」。学生、大学、経済、社会にどのような影響を及ぼすのか、今、教育界・産業界・政府といった様々な場で議論されている。今回、関連する諸団体を取材し意見を聞いた。

 秋入学実現に向けていち早く動き出している東京大学・総合企画部長期構想担当課長の小野寺多映子氏は、東京大学は正式に秋入学を導入すると決めた訳ではないと強調したが、チャレンジ精神や高度なコミュニケーション能力をもつ「タフでグローバルな東大生」を育てるという教育理念に沿って秋入学を教育改革の手段として検討していると語った。同氏はまた、秋入学によって生じる高校卒業から大学入学までのギャップタームについては前向きにとらえ、知的な冒険・挑戦の機会であり、社会体験によって視野を広げられるし、大学での学問の全体感の構築など学習期間として有意義な時間を過ごすことが可能であると指摘する。学内にも、ギャップタームのある課題が特に大きい問題と考えている数理系の先生を中心とした秋入学反対派が存在するとの問いには、反対派の意見は問題点を提示し、解決策を考えるきっかけになっているため貴重であるとも述べている。

 また、地方の国立大学である徳島大学の高石喜久副学長・理事は、秋入学に対し、地域の差により生まれるデメリットは無いと語った。その上で慎重にならざるをえない理由として、秋入学が導入されることで地方に留学生が集まるか不明である点、就職・国家試験の時期とのずれといった社会整備が整っていない点を挙げた。しかし、日本全体としてグローバル化が必要との認識は他大学と変わらないため、教育改革の一環として秋入学を視野に入れており、大学院は既に春入学に加えて秋入学を導入していると述べた。

徳島大学の高石喜久副学長・理事

 日本経済団体連合会・社会広報本部主幹の長谷川知子氏は、産業界としては大学の秋入学に対し基本的に歓迎であるという。少子高齢化やブラジルやインドといった新興国(BRICs)の台頭など、現在の経済危機において日本にグローバル人材は必要であると実感しているそうだ。そこで、秋入学が日本の学生の国際化の手段として機能すれば、最終的に日本企業の国際競争力の強化につながると考え、大学に協力していく姿勢を見せている。学生の不安要素である就職時期については、企業は一括採用以外でも柔軟に対応できると述べ、どの程度の数の大学が秋入学に移行するかを見極め、採用方法を考えていることを示唆した。

 文部科学省・高等教育局大学振興課課長補佐の白井俊氏は、秋入学を目指す大学に対しては支援をしていき、春入学を維持する大学に対しては秋入学を強要しない柔軟な対応をとると述べた。文部科学省は、秋入学の支援として、ギャップタームにおける体験活動の枠組みを提供する、産業界へ採用制度の変更を促す、国家試験の時期を変更することなどを具体的に考えている。 秋に移行した場合に6ヶ月間不足する運営資金の援助に関しては、国民の税金を使うことになるため国民の理解を得なければならないとする一方で、国際化を積極的に実施していく大学の取り組みに対しては援助する意向を示した。 確かに秋入学を実施することで学生達が強制的にギャップタームを過ごさなければならない点、就職活動への影響が出る点、半年間の身分の所在が不明確である上にアルバイトをすれば年金を支払わなければならない点、国家試験の時期にずれが生じる点、コストがかかる点など数多くの問題があることは事実である。しかし、複数の大学が協調することで、産業界や政府と連携が可能になり、秋入学に向けて社会の基盤は整っていくだろう。各大学の方針は尊重するべきであり、全大学が秋入学にする必要はないが、秋入学は日本の教育改革の一つの有効な手段になるのではないか。5年後の秋入学の導入まで社会がどのように変化していくか注目したい。

日本経済団体連合会(経団連)社会広報本部主幹の長谷川知子氏
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国際化の一歩としての秋入学

瀧澤 真結(14)

東京大学・総合企画部長期構想担当課長の小野寺多映子氏

 東京大学の秋入学への全面移行という記事が目にはいった。秋入学とはどのようなことなのか、中高生にとって好ましい影響があるのか、どんな障害を乗り越えなければいけないのか疑問をもち、東京大学、産業界、文部科学省、徳島大学に取材をした。

 東京大学・総合企画部長期構想担当課長の小野寺多映子氏は「東京大学は秋入学に全
面移行するというのは、まだ決定事項ではなく、真剣に検討している段階だ」と述べた。東京大学が秋入学を検討するようになったのは、濱田純一総長がタフでグローバルな学生を育てたいと考えたからである。タフでグローバルな学生とは、知的でコミュニケーション力があり、リスクがあっても挑戦できる国際的な学生のことであり、そういう学生を育てる一つの手段として秋入学を検討することとしたのだそうだ。
 
 だが秋入学にはギャップタームや就職活動などの問題もある。ギャップタームとは東京大学の造語で4月から9月まで大学などの授業が始まるまでの間(東京大学の検討案には学生の身分をもたないパターンもある)、自主的な活動をする期間のことだ。小野寺氏は「その間は、ボランティアや留学、勉強などのプログラムを用意し、経済的な支援をしてあげれば有意義にすごせるし、企業は通年採用に方針を変えてきている」と語る。そのうえで、「とにかく、日本の今の教育のままでは世界との競争に負けてしまう。東京大学が先頭をきってグローバル化に向けて一歩踏み出し、日本全体の改革のエンジンになることが求められている」と小野寺氏は東京大学の決意を示してくれた。
 
 日本経済団体連合会(経団連)社会広報本部主幹の長谷川知子氏によると、経団連もグローバル人材の育成を目指していて、秋入学は日本人の国際化に向けた一つの手段だと歓迎している。ただ、日本中の大学全てが秋入学に移行しなくてもよいと考えており、国際化を目指している大学にはサポートをするという方針だそうだ。
文部科学省・高等教育局大学振興課課長補佐の白井俊氏によると、文科省でも秋入学をサポートしていきたいそうだ。ただし、就職時期の問題や年1回の国家試験の問題については、産業界や関係省庁の協力を得なければならないそうだ。また、秋入学へ移行するまでの運営資金も、文科省が補助する場合は国民の税金を使うことになるので、そう簡単には判断できない。しかし、日本が国際化するのは大事なことなので、できるだけサポートしていきたいと語った。
 
  地方の国立大学の一つで、医学部、歯学部、薬学部、工学部と理系の学部の多い徳島大学の理事(教育担当)副学長の高石喜久氏に話を聞いた。高石氏は、「今は都会とか地方とかは関係ない。日本全体が国際化に向けて動き出すべきで、徳島大学も大学院はすでに秋入学を実施しており国際化の一つの手段として考えている」と語った。国家試験時期や運営資金の一時的不足の問題などは、国も支援してくれるのであれば秋入学も視野に入れて進めていきたいそうだ。
 
 秋入学に移行するためには、どのような障害を乗り越えなければならないのだろうか。まず、就職時期の問題がある。東京大学や経団連は企業が通年採用をする傾向になってきているという見方を示しているが、文科省では採用人数に着目すると実際には4月採用がほどんどで、通年採用は僅かな人数に留まっているそうだ。また、年1回の国家試験だが、秋入学になると一年も遅れて試験を受けなければならない。そして、4月から9月までの6ヶ月間の高卒者の身分を考えなければならない。その間アルバイトをしたら年金を納めなければならない問題も出てくる。このような問題は解決できるのだろうか。

 全ての取材を通じて共通していたことは「秋入学は日本の国際化に向けての一つの手段である」ということだ。日本は世界に負けないためにも国際化を目指している。他のやり方で国際化を目指す大学があれば、秋入学を選択する大学もある。さまざまな実験が始まっていることに注目したい。

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