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変わりゆくパーソナル・コンピューティング

前田 佳菜絵(16)

 「パソコンを使いこなせていない人」と聞くと、多くの人が若いころにパソコンを使っていなかった中高年の人を想像するかもしれない。しかし、最近ではスマートフォンの普及に伴い「パソコンを使いこなせていない若者」が増えているという。NECパーソナルコンピュータ株式会社が2016年12月に大学生に実施したアンケート調査によると、大学生の約7割が自分のパソコンスキルに自信がないという。

NECパーソナルコンピュータ株式会社で鈴木正義広報部長

 NECパーソナルコンピュータ株式会社で鈴木正義広報部長に話を聞いた。パソコンに苦手意識を抱いている若者が増えていることについて「スマートフォンの普及と関係している。今の若者はいわゆる『デジタルネイティブ』でSNSなどは使いこなせているが、新入社員は案外パソコンを使いこなせていない」といい、また採用担当者の6割がそれを感じていると鈴木氏は語った。同社は今年、女子大学生の意見を取り入れた新型ノートパソコンを発売した。商品のセールスポイントについて鈴木氏は「大きさ・バッテリー・重さ」の3つだと説明する。パソコン自体の機能ではなく上記の点を従来のパソコンより改善した理由について、鈴木氏は「パソコンスキルを上げるために一番効果的な方法は、パソコンを使う時間を長く取ることだ。より長い時間パソコンを使ってもらえるように、また大学生などが運びやすいような製品にした」「パソコンの中身を変えてしまったらほかのパソコンを使うときに操作しにくくなってしまうため、あえて中身はほかのモデルと同じにした」と話した。さらに、「パソコンからタブレット端末へと形は変わっても、コンピューターを使うという本質は変わらない」という理由で、タブレット端末の普及はNECにとって脅威では全くないと鈴木氏は言う。しかしその一方で「子どもへのIT教育は今や国策になっているから、そこではパソコンが必要になるだろう。今は10代のパソコン所有率が低いが、これからは1人1台パソコンを持つ時代が来るのではないか」「NECも子ども向けにプログラミング教室を行っている。プログラミングは論理的思考力をはぐくむためにも大切だ」と、パソコンから学べることの大切さについても強調した。最後に鈴木氏は「パソコンそのものの操作形態は変わらないから、どんどんパソコンに触れて慣れていってほしい」と改めて希望を表明した。

マイクロソフトの岡部一志コーポレーションコミュニケーション本部長
マイクロソフトの岡部一志コーポレーションコミュニケーション本部長

 一方、日本マイクロソフト株式会社コーポレートコミュニケーション本部の岡部一志本部長は「個人がコンピューティングする『パーソナルコンピューティング』という本質は変わっていないが、そのデバイスや使っているアプリが変わっている」「今の若者は、例えばキーボードのみならずタッチパネルで指で操作することも標準搭載されている、今までより進化したパソコンを使っている」と話す。そして、若者がパソコンに苦手意識を抱いているのではないかという質問に対して、「学生時代に最新型のパソコンを使っていた人が、就職してから古いタイプのパソコンを使わなければいけなくなった時に戸惑うのではないか」と答えた。また、「メールを送付する際の表現や表計算ソフトから内容を分析すること、プレゼンテーションの仕方などができない若者も多い」とも岡部氏はいう。そして「例えばパソコンとスマートフォンの間で連携させた機能や使い方を増やしていくなどといったことが、これからは必要ではないかと提案した。

 また、ある大手商社人事部に新入社員のパソコン使用状況についてメールで質問してみた。その会社は採用段階でパソコンのスキルは見ず、内定者研修の一環でパソコンスキルについて学ぶ機会があるが基本的には仕事をしながら身に着けていくそうだ。入社後はメールをする機会がどの部署でも多く、その時はタッチパネルとしては使うことができない一般的なノートパソコンを使うという。 今回の取材で、「若者はパソコン操作に慣れるべき」などといった課題が明らかになった。しかし、まずはパソコンとスマートフォンの間の機能の落差を減らす、個人が使用するパソコンと企業がオフィスに設置するパソコンのモデルをそろえる必要がありそうだ。「パーソナルコンピューティング」の形が変化する中でパソコン利用者たちも足並みをそろえてコンピューティングに関わることが望まれる。

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企業が求める人材、英語力?

愛澤 響(17)

 日本企業がグローバル化する中で、英語スキルは企業の求める人材の必須条件になりつつある。「社内公用語」を英語とし、徹底して英語でのコミュニケーションを促進するほか、採用条件や昇格条件としてTOEIC(国際コミュニケーション英語力テスト)のスコアを提示する企業が増えてきている。また、TOEICのスコアが990点満点で900点以上とれれば100万円の報奨金を一律支給する企業まである(日本経済新聞電子版2013年1月11日)。そのような企業の社内実態はどのようなものなのだろうか。また、グローバル時代に生きる若者は、TOEICのスコアが高ければ、企業に優秀な人材だとみなされるのだろうか。いくつかのグローバル企業社員を取材した。

街頭取材の様子

 はじめに、1999年にルノー(仏)との提携が始まった時に社内公用語の英語化を行った日産自動車株式会社に約13年間勤める男性社員に社内の実態を聞いた。男性社員は「会社では採用条件や昇格条件にTOEICのスコアが定められているものの、あくまでも英語は海外との意見交換のツールとしか思っていない。だから英語が目的ではなく、課題を解決するために自分の言いたいこと、やりたい事を持っている事が大切だ」と語った。

 次に、2012年に社内公用語を英語にすることを宣言した楽天株式会社の社員及び元社員を取材した。楽天は、三木谷社長が社内の食堂のメニューまで英語にし、TOEICの社内基準点が取れないと減給またはクビ、というような徹底した経営策を打ち出し、話題になった。

 公用語を英語化した後の社内の雰囲気はどのような変化があったか、と元楽天男性社員(約3年間勤務)に尋ねると「TOEICのスコアがとれず減給にされ、仕事へのモチベーションが下がる人も多かった。『ここは大事だから、日本語で話します』というように、英語を使うことにより起こる誤解やトラブルを避けるような姿勢が多く見られた」とマイナスな面の意見を述べた。また、「TOEICは、何度も受験すれば英語力は身についていないのにスコアはとれてしまう」という。だから本質をしっかりと追求し、あくまでも英語はツールとして考える必要があるという見解だった。

 また、現役の日本人男性社員(約6年間勤務)は、楽天が社員の英語力向上を図るために、家庭教師や会社での授業、またスカイプでの英会話を格安または無料で受講できるなどの、手厚いサポートを行っていることを教えてくれた。社員に一方的に英語力を求めるのではなく、入社後、TOEICである程度のスコアをとった後でも英語を学び続けられる社内環境づくりがなされているそうだ。

 一方で、現役の外国人男性社員(約3年間勤務)はTOEICの点数が低い社員の方が高い社員よりうまく英語で話したり、伝えたり、仕事ができるのを見てきたという。その理由は、TOEICが実社会でのコミュニケーション能力を反映しておらず、むしろ人との接触なしに家で学べる文法中心で暗記した英語を反映しているからだという。

 それぞれの社内の実態がつかめたところで、実際にどのような目標を持った人が英語塾に通っているのか、10月の土曜日の午後に日米会話学院(東京都新宿区)の前で街頭取材を行なった。取材した8人ほぼ全員が社内公用語英語化に対して肯定的な意見を述べた。彼らは会社の命令やTOEICなどの資格のスコアアップのためではなく、自主的に英語を磨くために通っているそうだ。ほとんどの人が、「自分が今、一生懸命勉強している英語が評価されるのであれば社内公用語英語化は逆にありがたいチャンスだ」と答えた。また講師の津島玲子さんに入社時のTOEICのスコアの基準が730点であることの妥当性について尋ねると、「仕事内で英語を使うのであれば730点では到底足りない」と強調した。また、「TOEICのスコアというのは日常生活での様々な場面で使われる英語の理解力を測るが、必要とされる英語力しか測れないため、企業で本当に必要とされている英語のスキルは、自分の言いたいことがしっかりと伝えられ、一対一の交渉ができる力だ」と語った。ここでも、TOEICのスコアが高いことと、会社内で必要とされている英語力は異なることが分かった。

三菱商事株式会社 人事部採用チームリーダーの下村大介氏

 最後にグローバル企業としての歴史も長い、三菱商事株式会社人事部を取材した。採用チームリーダーの下村大介さんは、「三菱商事は簡易的な英語のテストを採用時に受けることを義務付けているものの、英語力はあくまでもいくつもある項目の一つだ」と語り、テスト慣れしてしまえばTOEICは点数がとれてしまうこともあるため、「800点900点のレベルになるとその差はほとんど意味をなさない」と話す。また、「心が通じ、言いたいことが言える英語というのは仕事の現場で培っていけば十分だ」と強調した。英語力は人材のスキルのうち最も重要なものではなく、あくまでもコミュニケーションのツールとして便利だから使っているということを一貫して主張し、日本人同士の会話でも無理やり英語を使わせることには否定的だった。最後に「優秀な人材とは、成長するのびしろがあること、すなわち、相互的な信頼関係を築くことができ、常に頭を働かせ、お互いにwin-winになるような状況を作り出せる人、そして高い目標に向かって持続的に努力する力をもった人だ」と笑顔で語った。

 全ての取材を通して、TOEICのスコアによって、英語でのコミュニケーション能力、ましてやその人が優秀であるかどうかは測れないことが分かった。今後ますますグローバル化が進む社会の一員となる子ども達が、自分自身の未来像を描く上で、企業が求める人材のスキルが数字では表せないものであることを知っておく必要があるだろう。

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社会で必要とされる能力=英語力?

前田 佳菜絵(15)

 楽天、ファーストリテイリング、日産…。これらは全て「社内公用語英語化」を宣言したグローバル企業だ。近年、英語力は就職して社会で生きていくうえで最も重要な能力の一つとして言われるようになっている。しかし実際、英語力は仕事上で他の能力より重要なのか。将来社会に出ていく学生のためにも、これからの企業で必要とされる能力は何なのか。実際に社内公用語英語化に関わっている社会人などに話を聞いた。

 まず、日産自動車株式会社に13年勤務する男性社員に取材した。日産ではルノーとの提携が始まった1999年に「社内公用語は英語」という命令があったそうだ。今年の社員の採用基準はTOEIC(国際コミュニケーション英語力テスト)700点以上で、管理職に就くには730点が必須とのことだ。この男性は「英語は海外との意見交換のためのツールにしか思っていない」と話す。企業にとって必要な人材とは「自分の言いたいこと、やりたいことを持っている人。それを世界中のメンバーに伝える時に英語というツールがあったほうがいい」と語った。

 次に、楽天株式会社の元社員(勤続3年男性)に話を聞いた。楽天では「社内公用語英語化」を目的に2010年から社員への英語教育が始まったが「TOEICで社内基準の800点を取れないと減給されるため、仕事への意欲が下がる人も多い」と語る。全社会議やレポートなどでは必ず英語が使われているため「ビジネス英語に慣れるチャンスではあった」と話したが、TOEICについては「型を覚えて勉強すれば、英語力が身につかずに点数は取れてしまう」と明かし、「社内公用語英語化の本質を追求し、あくまでも英語はツールとして考えなければいけない」「必要な人材は人柄がいい人。スキルより、どれだけ一緒に仕事をしたいかと思えるかが大事」と結論付けた。

 以上を踏まえて、楽天に約3年勤続している外国人の男性社員に話を聞いた。日本人社員については「TOEICの点数が低い社員のほうが高い社員よりうまく英語で仕事ができるのを見ている。これはTOEICが実社会でのコミュニケーション能力を反映しておらず、人との接触なしに学べる文法中心の英語を反映しているからだ」と語った。また、社内公用語英語化の動きについては「日本人社員がTOEICの勉強のために就業時間を費やすことに対して、英語を母国語とする外国人に対して反感があるのでは」と話す。優れた人材とは「日本や国際的な職場環境を理解していて、自分の仕事を通じて国際的な社会に貢献する人」と語った。

 さらに、日米会話学院(東京都新宿区)前で社会人受講生や講師に街頭取材をした。8人に取材したところ、社内公用語英語化について、IT関係企業に30年勤続している男性は「日本人同士なのに何でも英語にするのはおかしいと思う」、また金融関係企業に1年勤続している女性は「自分の英語能力が評価されるから逆に良い」と語るなど、意見が分かれた。同学院のライティングクラス講師の津島玲子氏にTOEICについて意見を求めると、「スコアは、語彙・リーディング・リスニング・文法など、大学在学中にどれだけ勉強したかを証明する意味はある。ただ、日常でのコミュニケーション力を測るTOEICの英語と、会社内で使うビジネス英語は違う。が、そもそも仕事で英語を使うのであれば730点では到底足りない」と熱く話した。

三菱商事株式会社 人事部採用チーム

 最後に、三菱商事株式会社に取材した。人事部採用チームリーダーの下村大介氏によると、「英語はいくつもある基準のうちの1つ」と話す。例えば採用時には、英語の試験を受けることに加えて、面接やその他試験等の評価を総合的に判断していると言う。内定後は入社までの間にTOEICで730点を超えることを目標としているが、「内定する前から730点を超えている学生が多い」と話した。そして、入社後は「英語を使う部署が非常に多いため、その中で目的意識を持った人が英語を勉強した時にぐんと伸びることが多い」と語った。下村氏によれば優れた人材とは「人に信頼され、人を信頼でき、知恵があって、高い目標へ努力するときに持続力がある人」だという。

 今回取材した人たちは全員「英語は仕事をする上でのコミュニケーションツールの一つ」と話した。近年は多くの企業が社内公用語英語化を発表して、英語力の重要さを強調しているが、ただ英語が得意なのではなく、自分自身の能力を英語を使って発揮できる人材が今求められているのではないか。

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「さわれる検索」って何?

村上 類 (16)

  昨年、ヤフージャパンが「さわれる検索」を開発した。ヤフージャパンは日本人の多くの人に利用されている検索エンジンの一つだ。しかし、この「さわれる検索」は名前の通り、ただ検索するだけではなく視覚障害の音声検索によって認識されたデータを3Dプリンターで出力する。そして作ったものをさわって形を認識することが出来る、検索と3Dプリンターを融合させた今までにない画期的なコンセプトだ。

ヤフー株式会社マーケティングソリューションカンパニーの内田伸哉氏

3Dプリンターが世の中になじみ始めた今、実際に活用されている例の一つである「さわれる検索」はなぜ生まれ、また実際に利用者の視覚障害者の人たちは何を思うのか。

まず私たちは「さわれる検索」のプロジェクト責任者であるヤフー株式会社マーケティングソリューションカンパニーの内田伸哉氏に取材をした。そもそも「さわれる検索」誕生の発端はヤフージャパンがインターネットの未来を示す必要があるという使命感からだと内田氏は話す。現在インターネットの検索では情報を「見る」・「聞く」はできるが、五感の中の「触る」ことはできない。内田氏は、そのことが原因で困っている人は目が見えない人であると気付いた。また、「誰も考えたり作ったことがないものを作ったり、世の中の人が驚いて、喜ぶものを作ることが仕事のやりがいにもつながる」と語った。そして「さわれる検索」を開発したことで、目が見える自分では気づかない発見があったそうだ。例えば実際に使用した生徒から出た要望は、「蚊」や「スカイツリー」のように小さすぎたり、大きすぎて触れないものや、実物をさわることができない「竜巻」だった。

Yahoo! には社会貢献を簡単にすることが出来る仕組みがあり、それを活用して「○○の3Dデータを求めています」と出し、様々な企業や団体などからデータを提供してもらってきたことで、多くのものの形を3Dプリンターで出力することができるようになったそうだ。

「さわれる検索」によって想定していない発想がつぎつぎ寄せられ、データの提供により、ますます健常者の人との形に対する認識のギャップが埋められるようになったと感じていると内田氏は言う。世界に負けない技術が日本にあるから、ヤフーがいままでにやったり、見たりしたことのないものを世の中の課題を解決する検索エンジンをこれからは作っていきたいと将来展望を語った。

では実際に「さわれる検索」を使った生徒はどう感じているのだろうか。筑波大学附属視覚特別支援学校高等部3年生の大島康宏さん(18)に取材をした。

 大島さんは立体的な形が簡単にできるのは画期的だと思ったことが「さわれる検索」を使用して率直に感じたことだそうだ。今までは立体のものは学校の授業で使ったことはあるものの、先生たちが発砲スチロールや紙粘土などで時間をかけて作っていたため、時間がかなり短縮されている。中でも蚊はさわれる検索で作ってさわって一番驚いたものだと大島さんは話す。小さすぎて普段はさわれない蚊などは身近なもので一番おもしろいと感じたそうだ。そして蚊の羽の向きや脚の数なども実際に触ってわかったそうだ。これからは「さわれる検索」などで街並みの模型などを作れば、障害者の世界が広がって出かけやすくなるという。

星副校長が「さわれる検索」を説明

だが、「さわれる検索」には改善してほしい点もあると大島さんは語った。大島さんは現在高等部に通っているが「さわれる検索」は主に小学生が利用しているため、実は先生に紹介してもらうまで自分の学校に機械があることを知らなかったそうだ。それに加え、例えば蝶一つとっても、飛んでいる蝶と花に止まっている蝶では羽の広げ方が違うなどバリエーションが少なく対応できていないところもある。また、実物の大きさの縮小率が提示されないため、比較ができない。例えば恐竜とネコが同じ大きさになっていたりするそうだ。それに加えYahoo! のホームページにある「さわれる検索のデータ募集」も終了してしまったので、データの蓄積が限られてしまったそうだ。

 しかし星祐子副校長によると、当校では、今年度と来年度(予定)、文部科学省の受託を受け、「支援機器等教材を活用した指導方法充実事業」に取り組んでいる。日本全国の視覚障害者や団体からデータのリクエストを募集し、それらのリクエスト等も参考にしながら、3Dデータをデータベース化して公開することにより「さわれる検索」のアプリケーションをダウンロードしたパソコンと3Dプリンターさえあれば誰でも多くのデータから自分が欲しいものの形を作れるようになっていくことを検討しているそうだ。これにより動物の細かい動きから物理の電磁波の仕組みまでを3Dプリンターによって再現することが可能になっていくのではないだろうかと大島さんは語った。

 「さわれる検索」と他の情報をうまく組み合わせることによって視覚障害者にとっても生活で生かしやすいものになるのではないだろうかと大島さんは話す。3Dプリンターによって、視覚障害者が見られなかった形がさわることによってわかるようになったと、それだけを聞くとメリットばかりのように感じるが、障害者の視点に立った政策や事業がこれからも増えていくことを期待する。

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筆記具流行の秘密

前田 佳菜絵(13)

 最近の女子中高生は、大型文房具店で多くの筆記具を買い、筆箱の中に入れている。決して安くはない筆記具をなぜ多く集め、持ち歩くのだろうか。また、女子中高生に注目を集める筆記具の魅力とは何だろうか。

取材をする記者

 実際に女子中高生にアンケートをとってみた。まず、今筆箱に入っている筆記具の数を聞くと、ほとんどの人が毎日10本以上の筆記具を持ち歩いていた。だが、その中で毎日使う数はほとんどの人が10本を下回った。分が持ち歩いている筆記具は多いと思うか尋ねると、12本持っていて多いと思うという意見もあったが、40本以上持ち歩いていても多いと感じていない意見もあった。理由は全部使うかもしれないから、きれいなデザインのものや可愛いキャラクターの筆記具を持っていたいから、という意見が多かった。また、10本以上の筆記具を毎日必ず使うという意見も少なくなかった。

 アンケート結果を元に、株式会社パイロットコーポレーションへ取材に行った。営業企画部筆記具企画グループの二宮清夏氏は、「女子中高生が持つ筆記具は昔から多かった例えば今販売している『ハイテックC コレト』(以下コレト)の前身『ハイテックC』は20年以上前から発売しているが、その頃から若い女の子たちの間で流行していたと思う」と話す。そして、「昔は単色のペンが多かったが、今はコレトのような『カスタマイズペン』や『多機能ペン』が増え、筆記具を選ぶ選択肢が増え、女子中高生の筆箱の中身が変化、多様化したのではないか」とも話した。カスタマイズペンは、本体のデザインや、中に入れるインクの色、数などを自分で決めることができる。

 女子中高生の多くが持っている、本体にいろいろな柄がついたペンについては、二宮氏によると、昔から販売はしていたが、数ヶ月に一回というように頻繁に発売するようになったのはごく最近だと言う。ほとんどが女子中高生向けで、二宮氏は「ペンも一つの雑貨。手にとって可愛いほうが楽しいだろうし買ってもらえるだろう」と話す。

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PILOTの二宮清夏氏

 パイロットは過去2回、女子中学生向け雑誌ニコラとコラボレーションしたコレトを発売したことで有名だが、それについても女子中高生がターゲットだと言う。二宮氏は「どのようにしたらもっと女子中高生に買ってもらえるか、どうやったらもっと使ってもらえるかと考えた」と言う。具体的な開発策を聞くと、最初はニコラを発行している新潮社を訪ねファッションの流行などに合わせたデザインを考えて、実際にニコラのモデルや読者へのアンケートで人気だったデザインを製品化したうだ。反響については、「初めてニコラとコラボしたときは春に製品を発売したので、初めてニコラを読んだ人、新学期に向け新しく筆記具が欲しい人たちに買ってもらえたのではないか。コラボしていないペンは、たまたま店頭で見て買ったという人も多いだろうが、コラボした製品はニコラでの宣伝により製品を知って、本当に気に入ってもらってから買ってもらえたのではないか」と二宮氏は語った。

 女子中高生向けのように男子向けの製品は発売しないのかという質問には、「どうしても今は筆記具のユーザーは女子中高生が多い。男子向けの製品について協議はしてはいるが、今のところ予定は無い」と二宮氏は話す。以前男子向けのキャラクターとコラボレーションしたペンが発売されたが、それはキャラクターを作った会社側からのオファーだったそうだ。

 これからはどの世代向けに製品を開発、販売していくか計画を聞くと、「パイロットは老若男女向けに製品を発売しているし、これからもそうするつもりだ。例えば、万年筆は年配者向け、色鉛筆は小さいこども向け、カスタマイズペンは女子中高生向け、というように製品によって対象とする世代、性別は変えていく。並行して期間限定、数量限定などやコラボレーションした製品は今後も発売していきたい」と二宮氏は語った。また、「インクなどの機能の追求、技術の革新を進めていきたい。外見が変わっても機能などが変わらなければ、本当の意味では新しい製品にはならない。柄などのデザインも新しくはしていくが、まずは新しい機能の追求が先」とも語る。 女子中高生の間で筆記具が流行する理由は、筆記具メーカーが女子中高生のニーズを追いかけてきたからこそあった。これから女子中高生の間の流行はどのように変化していくか、まだ誰も分からないが、筆記具メーカーがどのようにそのニーズを追いかけていくか目が離せない。

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女子中高生の筆記具 ~なぜそんなに多いの?~

三好 恵瑠(13歳)

 なぜ、女子中高生の持ち歩いている筆記具は多いのか?
中学1年生の私の筆箱には、26本の筆記具がはいっている。まわりの友だちの持っている筆箱もパンパンだ。柄ものの筆記具も増え、ますます女子中高生の欲しそうな筆記具が店頭に並んでいる。

今、女子中高生たちは筆記具についてどう思っているのだろうか。

その理由を探るために記者仲間やその友だちにアンケートをとった。その結果、平均20本前後筆記具を持ち歩いていることや、自分の筆記具についてどう思っているのかがわかった。これは企業の戦略にのせられてしまっているのだろうか?女子中高生向け雑誌「ニコラ」とコラボしたカスタマイズペンを発売している株式会社パイロットコーポレション(PILOT)に取材した。

PILOTの二宮清夏氏

 アンケート結果から、20本前後の筆記具を持ち歩いている女子中高生は、柄をみて買っていることや、全部使うかもしれないと思っていることがわかっていた。その結果を持って質問をぶつけてみた。

 PILOT営業企画部筆記具企画グループの二宮清夏氏は、女子中高生の筆記具が昔より増えているという認識はないという。しかし、昔から多かったという。PILOTでは、約20年前から女子中高生向けに文房具を販売しているが、その中身は変わってきているらしい。

 「はじめは、1本ずつ様々な色のペンを持っていた。それが、いまでは、ペン本体を買い、中にいれるインクを自分で選びカスタマイズするのが主流。筆記具の選択肢が増え、筆箱の中身が多様化してきた」と二宮氏は語った。

 また、カスタマイズ商品「コレト」については、もっと多く使ってもらうために考えた結果、女子中高生に人気が高い雑誌「ニコラ」とコラボすることにしたという。柄物の筆記具は、女子中高生向けのものが多く、「ニコラ」とコラボすることで、彼女らの生の声を聞き「かわいい」と思ってもらえる物を作ろうとしたという。

 雑誌とのコラボの反響は大きかった。
平凡なデザインだと偶然見つけて、たまたま買うことになる場合が大半だ。だが、雑誌とのコラボでは記事に納得して気に入ってから買う場合が多い。売上も伸びたという。

筆記具の新商品

 さらに、地方での反響については、東京に比べるとさすがに小さいが、あまり格差はないという。なぜなら、PILOT社は全国に営業マンがいるため、小さい店にまで営業に行き商品を置いてもらっているからだ。このようなこともあり、全国的に女子中高生は筆記具をたくさん手にしているという。

 PILOT社のこれからの筆記具について聞いてみた。
まず、機能性にはこれからも力をいれていくという。そうしなければ本当の意味で新しいものが作れないからだ。しかし、並行して雑誌とのコラボや期間、数量限定の商品も作り、色々な年代の人に楽しんでもらえる商品を作っていきたいと考えているそうだ。

 今回の取材やアンケートの結果から、女子中高生の筆記具が以前から多いことは分かったが、企業がいち早くそれを察し、対応していることも分かった。そして、女子中高生にかける企業の熱意を見ることができた。時代の流れに敏感な女子中高生の筆記具は、これからどのように変化していくのだろうか。

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東京電力の取り組み


2009/12/12                 富沢 咲天(14)

 私たちが日々日常的に使っている電気は、作られる様々な過程でCO 2 をたくさん排出している。地球温暖化に向けて電力会社はどのような環境対策を行っているのだろうか。

 今回は東京電力株式会社にインタビューした。

東京電力に取材
東京電力に取材

 まず初めに鳩山政権が掲げた温室効果ガス25%削減について電力会社としての反応を聞いてみた。「 2020 年までに温室効果ガス25%削減という目標を民主党が掲げることは予想していたが、この目標は経営の根幹に関わるので正直重たい数字だ」と環境部国際環境戦略グループの高橋浩之さんは言う。その理由は、CO2排出の少ない新たな発電所の計画・建設には時間がかかり、運転が始まるまでに少なくとも10年は必要だからだ。電力会社にとって時間が足りない。また、25%削減するためにはコストがかかる。だから会社の反応としてはあまりよくなかったらしい。

 しかし高橋さんは、この目標に反対なわけではないと強調する。。「削減に取り組むのは世界の流れであるので、前向きに取り組みたい。」と語った。

 では東京電力が実際に取り組んでいることは具体的にどんなことか。まずCO2排出量が多い火力発電を減らし、原子力発電を増やす。石炭は安く手に入りやすいが、同じ火力発電でも石炭の2分1しかCO 2 を排出しないLNG(液化天然ガス)の使用を増やすことでこれから貢献が期待できるという。他にもヒートポンプ(エコキュート)の導入など効率のよい機器の開発・普及に取り組み、CO2削減のための技術開発に努めている。

東京電力の高橋浩之氏

 リサイクルの点では、2010年までに産業廃棄物のリサイクル率100%を目指すそうだ。古くなった電柱は道路の土盤材に、水力発電などで取水路に付着した貝類は肥料やセメントの原料に、電柱に取り付けられている碍子(電線などから電気を絶縁する器具)は陶磁器部分を焼き物や路盤材に、金属部分は鉄鋼の原料に利用するなど力を注いでいる。

 東京電力といえば、アニメなどの楽しい内容のコマーシャルが私たちにとって身近だが、そのほかにも未来を担う子供たちに環境問題やエネルギーに関心を持ってもらうため様々な環境教育を行っているそうだ。各地の小中学校で東京電力の社員が講座を開催したり、自然観察会や自然体験、食育活動などのイベントも開催している。大学生には環境活動コンテストというイベントをNGOと一緒に企画・運営をしているそうだ。

 日本が排出している温室効果ガスの量は世界全体の3.3%だそうだ。だから高橋さんは「日本だけで削減しても他の国で削減が進まなければ温暖化防止の効果はでない。

 日本はとても高い環境技術を持っているのだから、その技術をどんどん外国に伝えなければいけない。今が国際的に貢献できるチャンスだ」と語った。

 「温暖化が深刻化するのを防ぐために、日本は環境に対してコストを負担することを受け入れる社会にならなくてはいけないと思う。。安全でCO2排出の少ない電気を安定して供給するにはコストがかかり、これは電気料金が高くなることを意味する。。それらを国民に納得してもらうためにも、政府は情報を広く国民に知らせてほしいし、国としてどういう社会をこれから目指すのか、国民をまきこんでもっと議論をしてほしい」と高橋さんは言う。

 私は家の毎月の電気料金がいくらかかっているのかも知らない。「冬は暖房代がかかって大変」と母は言う。もし今の電気代が倍になったら。あるいは 3 倍や 4 倍になったら、国民はみんな受け入れられるのだろうか。どんどん設備投資をしてCO2を減らすという理想と、そのための重いコスト負担の現実は私たちにどう影響するのだろう。それでもやはり、将来のために私たちは選択しなければいけない。

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25%削減に向けて企業の取り組み


2009/12/12                 建部 祥世(18)

 政権交代により掲げられた、 2020 年までに温室効果ガスを 25% 削減( 1990 年比)するという目標は、麻生政権時に出された 15% 削減( 2005 年比。 1990 年比では 8% )という数値のおよそ 3 倍にもあたる。鳩山政権のこの数値目標は世界各国から拍手喝采を浴びたものの実際に達成できるのかどうか、国内ではまだまだ賛否両論がある。

東京電力に取材
東京電力に取材

 この目標を達成するにあたり欠かせないのが産業界の協力である。日本の温室効果ガス排出量を見てみると、産業部門からの排出量は 1990 年から徐々に減少しており、現在ではおよそ 13% の削減に成功している(東京電力株式会社資料より)。しかしそれでもまだ産業部門が占める割合は、日本全体の排出量の約 4 割にも上り、産業界はこれからの大幅な温室効果ガス削減成功の鍵を握っているのである。

 では、その産業界は今回の数値目標をどのように受け止め、今後どのような活動に取り組んでいこうとしているのか。産業界の中でも特に、様々な温室効果ガス削減活動や環境保護活動を積極的に行っている東京電力に話を聞いた。

 環境部国際環境戦略グループの高橋浩之氏は 25% 削減というこの目標について、「反対はしていない。ただ産業界全体としては厳しい、重たい数値であると受け止めている。、ビジネスを、環境に配慮した形にシフトしていくことが大切」と前向きな姿勢を示した。環境問題の影響を直接受ける私たち若者が自分たちの将来に不安を抱いているということに対しても、「不安になることはない。日本を含めた先進国等ですでに使用されている排出削減技術を国際的にさらに普及させていくことでかなりの効果が期待できる」と語ってくれた。

 しかし同時に「日本の高度な技術を国際的に普及させていかなければならないという産業界の役割に責任感を感じている」という。技術輸出と、世界との連携は簡単なことではないが、もしそれが実現したならば、より効果的な世界レベルでの温室効果ガス削減ができるのではないかと、私たちの将来に少し希望を持たせてくれた。

 東京電力は産業界の中でも特に多くの環境保護活動に取り組んでいる。重点を置いているのが環境教育だという。学生向けの出前講座や教職員を対象とした「環境・エネルギー教育研修会」の実施など、次世代を担う若者たちの育成に力を注ぎ、また「東京電力自然学校」という自然体験活動など、体を使うことによって全身で自然の雄大さや大切さを実感してもらう事業も展開している。これらの環境教育について高橋氏は「効果は出にくいが、草の根的なコミュニケーションを作っていくことが大切」と、持続的な活動の重要性を述べていた。

 最後に日本社会に対して、「『規制だからやる』のではなく、自発的に取り組んで欲しい。環境問題などの国際的な問題を深刻にとらえ、意識改革と行動改革を起こすことが大切。企業側の意識も上がってきているので、国民の人々にもっとサポートしてもらいたい」と、低炭素社会実現に向けてのメッセージを送った。

 「環境に優しい」や「エコ」を売りにする企業がどんどん増えてきており、企業レベルでの環境への取り組みも活発になってきている。私たち国民、ひとりひとりができることは企業の取り組みをサポートし、監視し、自らも様々な活動に積極的に参加していくことであろう。

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日本の環境対策を引っ張るのは?~東京電力取材~


2009/12/12                 三崎 友衣奈(18)

 鳩山首相が9月に出した「主要各国の参加の上での温室効果ガス25%削減」に対する反応の多くは「歓迎」であった。一方であまりにも厳しすぎると、これを批判してきたのが日本の経済界である。では、産業の一つとして大きな役割を果たす電力会社は今回の日本の目標についてどう対応していくのだろうか、東京電力に聞いた。

 東京電力では、発電の効率性、使用時の効率性、そして技術の向上という3つの面で温室効果ガス削減に向けて動いている。

 発電時は、 CO2 を排出しない原子力発電や、石油よりも CO2 排出量が少ない液化天然ガス( LNG )の使用が東京電力全体の7割近くを占める。また火力発電の熱効率を上げたり、最新技術によって石炭からの発電を高効率にしたりという取り組みを推進している。

 電気の使用者、特に若者への呼びかけでは、教育に重点をおいている。生徒に対してだけではなく、教師も知識を高めて正しい意識を持ってもらうのが狙いだ。教育は効果がでるまでに長い期間がかかるが、無駄なことではないという考えに基づいて、他社よりも率先して活動を行っているという。

 技術の面では、ヒートポンプという技術を使用した「エコキュート」を開発している。これによって投入する電気エネルギーより3倍~6倍多いエネルギーをつくることができるそうだ。また電気自動車やそれに伴う急速充電器の開発も行っており、本格的な使用に向けて動いている。

 このように活発な活動を実践している東京電力だが、前政権の温室効果ガス 2005 年比の15%削減から一挙に 1990 年比25%削減 (2005 年比 30 % ) という目標を掲げた鳩山政権について、どう考えているのだろうか。

  「我々は、決して反対はしていない」。環境部国際環境戦略グループの高橋浩之氏はこう強調した。会社として、低炭素社会にむけてビジネスを変えていくことについては前向きに捕らえているそうだが、懸念もあるという。日本の武器ともいえる先進的な技術に関してだ。高橋氏は「日本として世界に貢献できることは高度な環境技術を世界へ輸出することだが、25%削減目標はその芽をつぶしてしまうのでは」と語る。つまり、環境に配慮して作る日本製品はコストが上がるため、それがいくら地球に優しいと謳っても、環境に配慮していない国の安価な製品の方を消費者が購入しかねないというのだ。

 確かに、「鳩山イニシアチブ」は評価が高かった一方で、あまりにも飛躍しすぎた目標数値や、具体策の不透明性が指摘されてきた。しかし、25%削減という一見大きな数値を「日本をいち早く先進的なエコ国家にする」という宣言と捉えると、高い目標数値は逆に日本のさらなる技術向上へのきっかけになるとも思える。

 多くの企業が製造と環境対策とを両立させる経営に向かっていくので、高橋氏が「消費者にもコスト負担を理解してほしい」というように国民の意識が高まれば日本の技術が損に終わることはない。

 そのような理想的な国家を目指す中で、「 CO2 の排出量が多い東京電力だからこそ、逆に解決策がたくさんある企業となってほしい。

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Interviews 社会

エコな技術を世界に広めよう

エコな技術を世界に広めよう

2009/11/14           三崎友衣奈 (18)

 4月から始まった、いわゆるエコカー減税によって日本の自動車業界が活力を取り戻してきている。自動車メーカーが売り出している減税対象のハイブリッド車やクリーンディーゼル車などが注目を浴びているのだ。エネルギーをすべて電池でまかなう電気自動車もそのひとつだ。
 
 慶應義塾大学環境情報学部教授の清水浩氏は、ベネッセコーポレーションなどの企業の出資を得て産学連携で今年8月、電気自動車による環境への負荷軽減を目指すシムドライブ社を設立した。代表取締役に就任した清水教授は「インホイールモーター」という技術を使った、環境にやさしい自動車づくりを目指し開発を行っている。

清水浩教授に取材

 清水教授たちが開発して2005年に発表した電気自動車「エリーカ」は、8個のタイヤに直接付いたモーターによって走行し、そのエネルギー源はすべて自動車に内蔵されたリチウムイオン電池等からくる電力である。最高速度時速370kmという数字は、スピードが弱みだとされた電気自動車の常識を一気に覆した。
 シムドライブ社は、単にものづくりのために設立された会社ではない。その特徴としては大きく2つある。
 
 一つは、「モノを売る」会社ではなく「技術を提供する」会社を目指したことだ。清水教授は「できるだけ多くの人に技術を使ってもらうことこそが、電気自動車を普及させるための一番の近道」というベネッセ・コーポレーションの代表取締役会長福武總一郎氏の意見を反映し、あくまでも環境にやさしい技術を普及させる点を目的にしていることを強調した。商品の販売よりも、いかに環境にやさしい技術を世界に広められるか、より多くの人に電気自動車を利用してもらうかを優先した姿勢がうかがえる。
 
 もう一つは、慶応義塾大学の学生を含めたチームで開発を進めていることである。その最大の理由として、清水教授は学生からの豊富なアイディアを利点に挙げた。「良いアイディアが出てくることは何よりも大事」と話し、実際に今まで多くの新鮮なアイディアを開発に活かしてきた。また、学生の要望にも積極的に答える。例えば、元々企業に任せようとしていたモーターの開発を、他の部門と同じく大学で進めていくことになったのも一人の学生の希望によるものだという。
 
 企業ではなく一人の大学教授が始めたプロジェクトだからこそ、このように利益だけにこだわることもなく、また学生にも学びの機会を与えられる。業績を極端に問われないことで、環境にやさしい車の開発と世界中の人々への車の供給という本来の目的にまっすぐに向かうことができる。

清水浩教授

 一般の自動車メーカーでも環境NGOでもできない、このような形の環境問題解決へのアプローチが若い学生たちとともに今、始まっている。


電気自動車の時代がやってきた     
2009/11/14            飯沼茉莉子(13)

 現在自動車から排出される二酸化炭素を削減するため、自動車メーカーは電気自動車、燃料電池車など環境に優しい車を次々と開発している。日本政府はそういった車の購入者に対して補助金制度を実施した。その結果予想以上の効果があり、現在では購入希望者が殺到して生産が間に合わない事態にもなっているほどだ。道を走っていると、今までより電気自動車をみる回数がぐんと増え、自動車の転換期がもうすでにスタートしているのをはっきりと感じとることができる。

 今回私たちは、電気自動車「エリーカ」を開発したジムドライブ社社長で慶応義塾大学SFC環境情報学部の清水教授に取材した。

高速電気自動車エリーカ

 清水教授に、政府の温室効果ガス25%削減発言は達成できるか聞いてみると「ちょうどいい目標だと思います。少しハードルは高いですが、頑張れば達成出来ると思います。リチウムイオン電池や太陽電池、トランジスタは全部日本が開発したものです。日本は良い技術をもっているので、こういうものがもっと普及し、今は高いけれど政府の補助などで国民が少し我慢すれば25%削減は可能だと思います。太陽光発電の設置も現在は高価ですが、たくさん作れば安くなります」と語った。
 
 清水教授はジムドライブ社を作る時に「物を売る」のではなく「技術・情報を提供する」という事を信念にしたそうだ。その理由は、「ベネッセコーポレーションの福武總一郎会長が『エリーカ』に試乗された時、エリーカは90%普及すると言ってくれました。だから自分たちで電気自動車を作って売っていくようになるのかなと思っていました。しかし、世界中の人々に技術を見てもらうことによって電気自動車はもっと普及する、と福武会長に指摘されて考えが変わりました」と語った。
 
 電気自動車の普及は始まったばかりだが、ハイブリッド車と対抗する商品として進めていくのか聞いてみると、「エンジンを使うハイブリッド車とモーターを使った電気自動車の二種類の中で生き残ることができるのは1つだけだと僕は思います。なぜかと言うと、どちらかが普及すると大量に生産するようになるため単価が下がり、どんどん安くなるため人気がでますが、一方は全く売れなくなって最後は1つだけが残るからです」と語った。
 
 「モノを売る」のではなく「技術・情報を提供する」ことを信念としているジムドライブ社は、環境を売り物にせず、地球を少しでも良くしたいという思いから技術を開発していることがよくわかった。若い学生たちのアイデアをたくさん詰め込み開発された電気自動車の普及が、地球温暖化の進行を食い止める大きな力になってくれることは間違いないだろうし、その日が一日でも早く来ることを願う。

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社会

食物を無駄にしているのは誰?
2007/10/09                          三崎 友衣奈( 15 )

 近年関心が高い環境問題の中でも日本の大きな課題である廃棄。「 MOTTAINAI 」が世界に知られていても、当の日本では全国で一日 33000 トン、東京だけで 6000トンの食料が捨てられている。

 なぜ、こんな大量の食料が捨てられなければならないのだろうか。少しでも捨てる量を減らすことができないのだろうか。

 セカンドハーベスト・ジャパン( 東京都台東区 )は、食品メーカーから余った在庫を寄付してもらい、それを生活困窮者や孤児院などへ無償で配給している非営利団体( NPO )だ。 2000 年よりホームレスに食事を配給する炊き出しを始め、 2002 年からは正式に NPO として今の活動を試みた。

 浅草駅からほど近いその事務所には、幅が 4 , 5 メートルほどの奥の広い場所に、ダンボールが所狭しと積み上げられている。そこにある中央のテーブルの横にある人が一人通れるくらいの通路の間をスタッフが縫うように作業している。

 一見、何の問題もないように見えるこのダンボールの多くは、運搬中に段ボールに傷ついたというだけで問屋やスーパーに受け取ってもらえなかったものなのだ。中身は問題ないのに、なぜ受け取られないのか?「日本の消費者は厳しい」。理事長のチャールズ・ E ・マクジルトン氏は苦笑いした。

ハインツ日本株式会社へ取材

 ハインツ日本株式会社では 2003 年からセカンドハーベスト・ジャパンに対して常温のレトルトのカレーや缶詰のスープなど、月に 300 ~ 400kg の食品の寄付を行っている。

 食品メーカーは一定期間にどの商品がどの程度売れるか、販売予測を立てるのだが、やはりどうしても余ってしまうそうだ。「消費者の『できるだけ新しいものがいい』という厳しい見方があるとともに、缶がへこんでいるなどの見た目の良くない商品は受け取ってもらえない」と池田真理子広報室マネジャーは語る。

 株式会社ローソンは 2006 年6月から 横浜市中区 の「さなぎの食堂」に販売期限が切れ、かつ消費期限は切れていないパンや弁当などを寄付している。「さなぎの食堂」では、それを再加工した温かい食事を寿地区の路上生活者を対象に低価格で提供している。

 ローソンでは弁当などの食品には厳しい販売期限を設け、それが切れた場合、すぐに店頭から下げている。これらの多くは消費期限が切れるまで数時間あるものばかりだ。「万が一事故があってからでは遅い。 100 %安全でなくては店頭におけない」と CSR 推進ディレクターの篠崎良夫氏は語る。

 篠崎氏によると「日本で PL 法が施行されてから、米国とは違って寄付した後でも生産者の責任が続くことから、多くの食品メーカーはリスクを感じてこのような活動に積極的でない」そうだ。セカンドハーベスト・ジャパンのマクジルトン理事長は、「日本は『念のため』が多すぎる」と語る。不二家の一件でも、外国からみればおおげさに見えるそうだ。

ローソンへ取材

 ハインツの企画担当執行役員のポール・モリ氏もリスクを分かった上で「今のところ問題はないので続けていく。結果としてはイメージアップになっている」と笑顔を見せた。

 食に対する安全は、賞味期限という数字だけでなく自分で判断する力も必要だ。「念のため」に余裕期間を見込んで定めた賞味期限を少しでも過ぎると食べなくなる。このような消費者の数字に依存した姿勢が、生産者にプレッシャーを与え、結果として大量の無駄を出しているのではないだろうか。

 私たちが毎日食べているのは、念には念を重ねた上で出荷されている食品である。それを我々が贅沢にも捨てている陰で、多くの人々が飢餓で苦しんでいるのを忘れてはいけない。


食べ物の裏事情
2007/10/09                          大久保 里香( 15 )

東京では一日 6000 トンもの食べ物が捨てられている。「日本では、食べられるものを捨てすぎではないだろうか?」この先進国ならではの問題について興味を持ち調べ始めた。

 現在日本の企業は驚くべき理由で食べ物を捨てている。商品のパッケージに傷がつくと中身に問題がなくても捨てることは当たり前であり、スーパーなどのお店が引き取ってくれないという理由から、商品が入っているダンボールに傷がついただけ、賞味期限が三分の一過ぎただけでも商品を捨ててしまうのだ。こういったまだ食べられる食品を有効活用しようとする活動がフードバンクだ。 

セカンドハーベスト・ジャパンへ取材

 このフードバンクの活動をしているセカンド・ハーベスト・ジャパンというNPO団体に取材に行った。この団体は企業からまだ食べられる食品を引き取り、その食品を炊き出しに使ったり、経済的に苦しい人たちに配ったり、福祉施設に提供している。日本ではこのフードバンクの活動はあまり知られておらず、フードバンクに食品を提供してくれる企業はまだ少ないそうだ。また提供をしている企業を調べてみるとほとんどは外資系の企業であった。「日本では捨てられるものが多すぎる。もったいないと感じ、捨てられる食品を有効利用できないものか、と思ったのがこの活動を始めるきっかけ」だと、セカンド・ハーベスト・ジャパンのチャールズ・マクジルトン理事長は語った。

 アメリカでは、フードバンクの活動は活発に行われており、食品を提供した後は食品の製造責任はフードバンクに移るといった企業が提供しやすくなるような法律も定められている。日本は食品を製造した企業が最後まで責任を負わなくてはならない。このことが、日本ではフードバンクが浸透していないこと、そして食品を提供することで企業へのリスクが増すために提供することをためらってしまう原因であると感じた。

 日本企業でありながら食品リサイクルを積極的に行っている株式会社ローソン執行役員の篠崎良夫氏は、企業が食品リサイクルやフードバンクにあまり取り組まない理由として「万が一でも食品で問題が起きたら製造者が責任を取らなければならい。日本の現在の法律では活動をするのに企業に多大なリスクが伴い、法律が変わらなければ活動は浸透しない」との理由を挙げていた。

 コンビニのローソンでは、食品のリサイクル活動のひとつとして、余ったまだ食べられるお弁当やパン、工場で余ったお弁当の残り物を「さなぎ達」というNPOの団体が経営している食堂に食品を提供している。この食堂では、提供された食材を使って料理を作り、安い価格で横浜市中区の寿地区の生活困窮者の人たちに食事を提供しているのだ。

 そもそも、日本でこんなにも多くの食品が捨てられるのは私たち消費者側のせいでもあるのではないだろうか。私たちは商品の中身に問題がないとわかっていても傷がついた商品を進んでは買わないだろうし、賞味期限もなるべく遅いものを買おうとする人も少なくない。私たちが捨てられる商品を間接的に作っているともいえる。もし、消費者が傷のついた商品を進んで買うようになったり、賞味期限が古いものから買うようになったらきっとダンボールに傷がついたり、賞味期限が三分の一以上過ぎてもスーパーなどのお店も商品を引き取るようになるだろう。  

  日本にも、生活困窮者は多くいる。十分に食べることができない人がいるにもかかわらず食べられる食品を捨てるのが当たり前になっている日本の社会はおかしいと思う。国内でフードバンクや食品リサイクルの活動が広まり活発になれば、食べられる食品の廃棄量をゼロにすることも可能になり、その食品で生活困窮者の人も毎日きちんと食事が取れるようになるかもしれない。私たち消費者はできる限り企業が廃棄する食品を出さないように買い物をするときに気を配らなければならないし、企業はできる限り食品を有効に使うように努力しなければならないと思う。そうすれば、きっと食べ物が日本内ですべての人々にうまく循環するだろう。

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