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教育

「環境」という授業は必要か?

「環境」という授業は必要か?
2008/12/06               寺浦 優(14)

 日英記者交流プログラムのメンバーとしてベルファスト、フォイル、ロンドンの各支局を訪れ、英国 Headliners の 記者たちに 8 歳から 11 歳まで の子どもに対して 行われている環境教育について取材を行った。そこからわかったことや考えたことを報告する。

Headlinersベルファスト支局で取材

 今回の取材を行うまで、私は「英国では環境教育が行われている=環境という教科がある」と考えていた。実際、英国のブリティッシュ・カウンシルが主催する気候チャンピオンの活動で一緒だった英国の気候チャンピオンのステファニー・リンチさん (18) からは、環境に関する授業が行われていると聞いていたからだ。

 だが、「今までに環境についての授業を受けたことがありますか?」と英国の記者に質問すると「そんなの受けてないよ」と、どこの局でも同じ答えが返ってきた。英国では科学や地理の時間を利用して環境問題を授業に取り入れているそうだ。そのため、子どもたちの中に環境教育を受けているという認識は無い。

 質問をしていくうちに、アル・ゴアの『不都合な真実』を学校の授業で見ている記者が数人いることがわかった。しかし、同じ地域でも見ていないという人もいる。学校や地域によって違いがあるようだ。

 英国の子どもたちは、学校の授業よりも TV やラジオ、雑誌などで環境について訴えかけられる方が影響力があると言っていた。 TV やラジオは授業よりも、子どもたちの身近にあるからだろう。しかし、英国政府は学校の授業で環境教育を行っていると強く話していたのに現場にその思いが届いてないのが悲しかった。

 帰国後、日本は 2009 年度から環境教育の充実化をはかることが決定 された ことがわかった。

文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程第二係の栗林芳樹さん

 文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程第二係の栗林芳樹さんにお話を伺った。栗林さんによると、日本は今まで教科ごとに環境教育を行ってきた。しかし今、環境問題が世界的に大きなテーマとして取り上げられ、国内でも 60 年ぶりに教育基本法が改正されたことから、小・中学校の学習指導要領の改訂を行った。しかしあくまでも教科ごとの充実化をはかるという。

 今まで、英国記者と同様に、環境教育を受けている認識は私たちには無かった。しかしその認識が無くても、私は環境問題に興味があるから調べたいと思うようになった。きっかけは、小学校生活 6 年間で学んだ「自然とふれあい、 ( 自然の ) 大切さを 理解する」をテーマにした総合学習だ。直接環境問題について授業で触れたわけではないが、自分の好きな動物とのつながりも知り、調べ始めた。

 英国で取材中には、英国も日本も環境という教科があった方が良いような気がした。なぜなら、学習の格差が無くなるからである。教育は、平等に行うことが大切なのではないかと思う。

 だが、環境という教科がなくても環境問題に興味を持った自分のことを考えると、環境という一つの教科を作り、教えてもらうことが全てではないとも思う。

 大切なのは、各教科から様々な視点できっかけを与えてもらい、子どもたちが自分なりに気づくことではないだろうか。これは、英国も日本も変わらないことである。

 これからの未来を担っていくのは、今の子どもたちなのだから。

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教育

「環境」という教科をつくろう

「環境」という教科をつくろう
2008/12/06                 大久保 里香( 16 )

 環境問題は現在、世界的に大変大きな課題である。 2008 年の夏、私たち CE 記者は、すでに積極的に環境教育を実施しているイギリスへ行き、若者たちにイギリスの環境教育の実態について取材する機会を得た。

 日本では平成 21 年 4 月から環境教育の充実化を図るという意向を文部科学省が示した。日本と実施方法が同じといわれるイギリスの環境教育を見ていくことで、真に求められている環境教育とはどのようなものか考えた。

 イギリスでは、環境という教科自体はなく、地理や理科といったさまざまな教科の中で環境問題を取り扱っている。例えを挙げてみると、イギリスでは地理の時間に氷河の溶解について取り扱ったり、理科の時間に二酸化炭素の排出について取り扱ったりしている。この方法は日本の現段階の環境教育の実施方法とまったく同じである。

 イギリスにおけるこうした環境教育の実態を知って、「環境」という教科を持たずにいくつかの教科で環境教育を行うというこの方法には、次のような 2 つの大きな問題点があると考えるようになった。

 一つ目は、環境について学んでいるという認識が薄いことだ。中には「環境教育というものを受けたことがない」と語るイギリスの若者もいたが、詳しく話を聞いてみると環境を話題とした授業を実際は受けているのだ。各教科の中に、環境についての学習を含めようとすると、環境について断片的にしか学ぶことができず、環境の学習を行っているかどうかさえ、あいまいになってしまうのだ。教科の中で環境の話題を取り扱ったとしても、環境について学んでいるという認識が受講者になければ意味がないのではないだろうか。

 二つ目は、各教科の中で環境の話題を取り扱っても、環境について詳しくは学べないということだ。環境ブームといっても過言ではない世界において、メディアも非常に多くの環境問題についての情報を提供している。「学校では、基本的なことしか教えてくれないので環境問題についてはテレビやインターネットから情報を得る」というイギリスの若者もいた。これでは、本当に環境教育が機能しているといえるのだろうか。

 もちろん、基礎的な環境問題の知識を学校で教え、身につけさせることは大事だが、そこまでで終わってしまう教育は結局メディアが果たしている役割と同じであり、何の意味もないのではなかろうか。

 文部科学省、初等中等教育局教育課程課教育課程第二係の栗林芳樹氏は「もちろんできる限り多くの時間を取り、詳しく環境について教育したほうがよい。しかし、学校の環境教育の一番の目的は、何かきっかけを子供たちに与え、将来環境に対して主体的に行動できる人材をはぐくむことだろう」と語った。

 確かに、環境問題に対するきっかけを学校で子供たちに提起することは非常に重要なことである。しかしながら、環境教育を受けている意識が低いために子供たちの中にはそのきっかけすら得ることができない子がいるのも事実である。

 この二つの問題を考えると、環境の授業という科目を作ったほうがよいのではないだろうか。第一に科目があれば確実に子供たちは環境について学んでいるという実感を得ることができる。そして、環境問題を断片的に雑然と学ぶのではなく体系付けて学ぶことで、子供の環境の意識と知識を高めることができるのではないだろうか。

 環境教育を行っていても成果が出なければ意味がない。各教科のなかで環境教育を行うことは確かに効率がよいかもしれないが、これからは教育の内容と子供たち、そして地球の将来を重視して、現在本当に求められている環境教育の実現を目指すべきだと思う。環境教育は環境問題を解決する大きな一歩となる可能性を秘めているのだ。

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国際

英国の少年司法システム ~日本との違い~

英国の少年司法システム ~日本との違い~
2008/12/06                原 衣織( 16 )

 罪を犯した時は刑罰を受けるという刑法上の責任を、刑事責任という。日本では最近、この刑事責任年齢に合わせて刑事処分可能年齢を 14 歳に引き下げたことが話題を 呼 んだが、この責任を 10 歳から負うとされている国がある。英国だ。

英国の少年司法システムはどのようになっているのか。これについて調べるため、英国 法務省の少年司法関係部局と児童・学校・家庭省の少年司法関係部局を統合した合同少年司法委員会の Simon Emerson 氏にEメールを通して質問に答えてもらった 。また、 少年司法システムの運営、主務大臣への助言等を職務とする非政府公益機関である少年司法委員会の広報責任者 Claire Forbes 氏に、「日英記者交流事業」で訪英した際に話を聞いた。

10 歳と い う年齢は、日本以外の他の諸外国と比べても低いと言える。 10 歳の少年が大人の犯罪者と同じような刑を受けることがあるのか。国として少年犯罪に対し厳罰の姿勢をとっているということなのか。

Emerson 氏は 10 歳という年齢 設定 のメリットを、「早期の介入により犯罪を防ぎ、若者に自分自身の犯罪行為に対する責任を育てることができる」ことだと説明する。 Forbes 氏も 10 ~ 11 歳を「犯罪的行動に引きずり込まれ始める年齢」だとし、「早めに当局が介入することで犯罪の方向に進むのを防止できる」と述べる。そして、 10 歳で刑事責任を持つということは、 「 10 歳から大人の犯罪者と同じように扱われることを意味するものではない 」 と 言う 。施設収容を命じる「収容 およ び訓練命令」の対象も 12 歳以上であり、 10 歳、 11 歳の少年が施設に収容されることはない。

12 歳以上の少年が「収容 およ び訓練命令」を受け取ると、主に年齢や居住地によって「少年犯罪者施設( Young offender institution )」「子ども収容施設( Secure children’s home )」「収容訓練施設( Secure training centre )」の 3 種類の施設のうちいずれか一つに収容される。これらの施設は日本の少年院に相当するもので、義務教育を終えた年長の少年向けの「少年犯罪者施設」では職業教育を実施し、年少者向けの「 Secure children’s home 」では 2 人に 1 人の割合でスタッフを配置するなど、それぞれの施設ごとに異なったアプローチによって少年を更生させている。また、全ての施設に週に最低 25 時間の教育が法律で定められており、必要に応じてカウンセリングなどもあるという。

とはいえ、英国では 18 歳以下の施設収容は「最後の手段」であり、実際少年司法委員会の年間統計によると 2005 年から 2006 年の 1 年間で、少年施設への収容命令を受けたのは 21 万人以上の少年犯罪者のうちたったの 3 パーセントだという。では、残りの大多数はどうなるのか。

英国には、施設収容以外の様々な処遇方法が存在する。親に対しカウンセリング授業またはガイダンス授業の受講を要求する「養育命令」や、治安判事裁判所が個々の少年に禁止事項を言い渡す「反社会的行動禁止 命令 」、保護観察官の監督のもと被害者またはコミュニティ全体に賠償を行う「賠償命令」などだ。

そのほかに、 10 歳未満の少年が罪を犯した場合には責任オフィサーが児童を監督する「児童保全命令」や、所定の期間中、午後 9 時~午前 6 時まで所定の地域内の公共の場所への立ち入りを禁ずる「地域児童外出禁止命令」が出され、施設収容ではなく地域内で児童がこれ以上犯罪の方向に進まないよう予防する。

ロンドンYJB取材

そして、地域で少年犯罪の防止や非行少年の更生に従事するのが、少年司法委員会の地域担当部局としてイングランドとウェールズの全ての自治体に配置されている「少年犯罪対策チーム」だ。保護観察官・公的ソーシャルワーカー・警察官などで構成され、少年司法業務の提供の調節や、「少年司法計画」に定められた職務を行っている。このような機関があるからこそ、地域内での少年への働きかけが為 され うるのだ。

先ほど触れた「賠償命令」は、被害者が望む場合は加害者から直接賠償、謝罪を受けることができるという 。 日本ではまだ珍しい方法だが、このように被害者と加害者が直接に接触を持つ 手法として他に、修復的司法がある。こ れは 1998 年の「犯罪・秩序違反防止法」によって英国の少年司法システムに導入された手法で、被害者・加害者・家族などその犯罪に関係する人々が 一堂に会し、 話し合いを行う場を設けることで更正へと繋げるというものだ。加害者である少年には、自分の行為がどういう結果をもたらしたかを理解して被害者に謝る機会を、被害者には、自分の思いを表明する機会を与えることができるという。

今回 、 英国の少年司法システムについて取材を行い、英国が少年犯罪に対して様々なアプローチを行っていることを知った 。 英国の少年司法システムの全てが素晴らしいと言いたいのではない。実際 Forbes 氏は、「統計上、初犯の数は減っているものの再犯は増えており、今最も心配されている」と話す。それに、全く違った社会的背景を持つ英国と日本では少年犯罪の内容や傾向も異なるだろうし、英国のシステムをそのまま日本に導入したからといって効果を現すとも思えない。

しかし、親へのガイダンスやカウンセリングで家庭に働きかけ を行うなど、 日本にも取り入れたらどうだろうかと思うような手法も存在することは確かだ。

Headlinersのロンドン支局で取材

近年多くの先進国が頭を悩ます重大な社会問題である少年犯罪。日本でも、近年少年犯罪が「凶悪化」していると言われ、この数年の間に相次いで少年法の改正が行われるなど、少年司法システムが大きく変化している。処罰や少年院送致などの対象年齢の引き下げや犯罪被害者の配慮だけに留まらず、今後は罪を犯してしまった少年の更生、再犯防止にも今まで以上に熱心に取り組む必要があるだろう。その際、今後各国の様々な取り組みを知ることで見えてくるものもあるのではないだろうか。

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