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部活動をよりよくするために今動き出せ

三好 恵瑠(15)

 部活動は教員の負担が大きすぎるとメディアでも最近とりあげられ、話題になっている。「部活問題対策プロジェクト」というサイトも立ち上がり現職教員達も積極的に意見を公開している。では、部活動を行う生徒は負担を感じていないのだろうか。文部科学省は運動部活動に関して、平成9年に「運動部活動の在り方に関する調査研究報告」という報告書を出している。その中で一週間の理想的な活動日数や一日の活動時間に関して具体的な数字が参考として出されている。しかし、それは守られていないという。そこで今回は運動部活動の在り方について取材した。

 初めに、ヤフー記事にこの問題を書いた名古屋大学院教育発達科学研究科准教授の内田良先生に取材した。 やりすぎの問題が起こるのは「たくさん練習したら強くなれる」という考え方が根強くあるためだと内田先生は言う。部活動の本来の意義は授業以外のスポーツや芸術活動をする機会を保証するということであり、強くなることが目的ではない。本当に強くなりたいのなら民間のスクールに行くべきだ、というのが内田先生の意見だ。部活動に外部指導者を招いて行うべきか、という問題については条件付きで賛成だという。外部指導者を呼ぶことで教員の負担を軽減することはできるが、専門的指導によって生徒の状況が悪化してしまうかもしれないという問題が出てくるからだ。出場した大会で勝つことはもちろん重要だけれども、あくまでも部活動は「教育の一環」であって,強化選手の育成ではないのだから、楽しむことが大事だということを忘れないでほしいと内田先生は強調した。

横浜市教育委員会

 横浜市教育委員会はどんな見解なのか、横浜市教育委員会事務局指導部指導企画課長の三宅一彦さんに聞いた。横浜市では「横浜の部活動」という指針を独自に出し、その中で目標を立てている。それは「部活動を通じて豊かな人間性とたくましく生き抜く力を育み、調和のとれた学校生活の実現を目指します」というものだ。部活動は国ではっきり決められている訳ではなく各学校ごとに行っている。そこには保護者の理解が不可欠だ。そのため横浜市では保護者に理解や協力を得るためにお願いを出しているという。部活動に外部指導者を呼ぶことについては財政的には厳しいが教員の負担を減らすこともできるため体育協会などと連携して積極的に取り入れているという。

文部科学省

 最後に「運動部活動の在り方に関する調査研究報告」を発表した文部科学省に取材したスポーツ庁政策課学校体育室運動部活動推進係長の佐藤理史さんは、部活動はあくまで指導要領の範囲外であり、自主的な活動なので強制させることはできない。地域や年齢などによって適切な運動量は変わってくるので一概に決める事は出来ないと話す。外部指導者を部活動に取り入れる事に関しては、技術を教えるのも大切だが、スポーツ医学的なことも考えて指導してほしいと語った。文部科学省では外部指導者を呼ぶにあたって補助金を出している。そのほかにも指導者の資質向上のため、研修も実施しているという。
  現在、文部科学省では教員の負担問題を出発点にして部活動に関する集中審議を行っているという。最初にも書いたが、「部活問題対策プロジェクト」のメンバーなど、大勢の人々が問題の解決に向け動き出している。連日の練習に明け暮れる生徒たちも、部活動の最善の在り方について一度考えてみてはどうだろうか。

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運動部活動の意義から考える『やりすぎ』問題

前田 佳菜絵(15)

今年の1月、Yahoo!JAPANニュースに「『部活週2休』有名無実化 文科省の指針」という記事が掲載された。中学校や高校の運動部が早朝や休日にも活動をすることに疑問を投げかけ、スポーツ障害を予防するためなどに過度な活動を警告するこの記事は、5月31日の時点で5740人のfacebookでシェアされた。大きな話題を呼んでいるこの問題について、文部科学省は「運動部活動の在り方に関する調査研究報告」という指針を発表しているが、それに法的拘束力は無い。そもそもなぜ「運動部活動のやりすぎ」という問題が起こってしまうのか、そしてそれを指針以外の方法で防ぐことはできないのだろうか。

内田良名古屋大学院准教授

 まず、先述の記事を執筆した、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授に取材をした。内田氏は、運動部活動のやりすぎが起きてしまう理由について、「たくさん練習すれば強くなれる」という考え方に問題があると指摘する。内田氏は「効率よく練習するという考え方が無いのが問題だ。強くなるために休むことはスポーツ科学界では常識になりつつあるのに」と語る。さらに、「そもそも部活動の意義は、授業以外においてスポーツや芸術活動の機会保証することにあるのだから、最低限の活動ができればよいのであって,過酷な練習を強いるものであってはならない」と熱弁し、運動部活動にありがちな勝利至上主義を改めるよう促した。改善策として内田氏は、休日や早朝からの練習を無くして最大で週3日から4日の活動にすることを提案する。「練習量を減らすことで前向きに部活動に取り組めるようになるはずだ。もしそれ以上の活動がしたいのなら、民間のクラブチームなどに入るべき」と内田氏は話した。

 また、文部科学省が発表した「運動部活動の在り方に関する調査研究報告」について内田氏は、「そんなところまで国が口出ししていいのかとも思う」と言う。「国は部活動の目安を示すべきだが、部活動とは学校が全く好き勝手にやっていいものだから、その目安を100%守るべきではない。ただ、指針が出された時に学校の現場は改めて活動について考えるべきだ」と悩みながらも語ってくれた。そして文部科学省に対して「指針に拘束力を持たせることができないなら、できるだけ厳しい言葉で活動状況を改めるよう示してほしい」と話した。最後に内田氏は、「声をあげることで一歩一歩、少しずつでも運動部活動の実態は変わっていくはず。自分の考えを他の人にどんどん伝えていけば、意外と早くこの環境が変わるかもしれない」と強い期待感を表明した。

 横浜市教育委員会事務局指導部指導企画課長の三宅一彦氏と、同主任指導主事の根岸淳氏にも取材をした。横浜市教育委員会は昨年、市立小中学校に通う子どもの保護者に、部活動の顧問としての教員の長時間労働解消へ協力を求める文書を出したことで話題になった。なぜ運動部活動のやりすぎが起きてしまうと思うか、と尋ねると「人によって部活動に対する価値観が違う」と話し、部活動の顧問、生徒本人そして保護者間の相互理解が重要だと指摘した。三宅氏は「その相互理解を促すのが教育委員会の仕事だと思う。昨年文書を出した後から、保護者と学校の距離が近くなっていると感じられる。最終的には、生徒たちに『3年間この部活をやってきて良かった』と思ってもらいたい」と笑顔で語った。

横浜市教育委員会が2010年に発表(2015年に改訂)した部活動に関する指針には、「部活動を通じて豊かな人間性とたくましく生き抜く力を育み、調和のとれた学校生活を目指します」と書かれている。他にも、教育効果に繋がる部活動をするようにと明記されている。

 最後に、文部科学省スポーツ庁政策課学校体育室運動部活動推進係長の佐藤理史氏と、同学校体育室指導係(併)保健教育係の係長の原康弘氏に取材した。佐藤氏は、そもそも部活動は教育外のものだから過度な練習を強制してはいけないと話し、「部活動は自主的に活動するもの」と強調した。そして、部活動の日数などを制限していない理由について「例えば中学1年生と高校3年生で同じ日数活動しなければいけないというのもおかしいし、地方によっては日の出の時刻も違うから活動時間帯も変わってくる。全てを一律にする必要は無いと思う」と説明してくれた。また、今年の3月にスポーツ庁が「安全性を確実に確認できないなら運動会での組体操実施を見送るべき」と発表したが禁止はしなかったことについては、原氏が「地域によっては安全対策を講じているから、禁止にはしていない」語り、どちらの問題にも地方の事情などを考えて対応していることを示した。

 運動部活動のやりすぎを防ぐために行っていることについて質問すると佐藤氏は、「大臣政務官の下の『タスクフォース』という集中的に話し合う組織で今現在検討しているところだ。いつ頃問題への対策が決まるか、指針の形で発表するかなどはこれから決めていく」と話した。また「問題解決のために、教育委員会を金銭的に支援している」とも明かした。最後に、「まずは教員の方々に指針の存在を知ってもらうことが第一歩だと思っている」と佐藤氏はまとめた。 これらの取材で三者とも問題視していたのが「部活動は教育の補助的なものなのに、過度な活動が強制されている場合がある」ことだった。部活動が学校生活の大半、と捉えている生徒が多いように感じる今だからこそ、特に運動部活動の顧問や保護者なども含めて部活動の意義を改めて考え直すべきではないか。

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スポーツ

アスリート、そして私たちのための『メンタルトレーニング』

前田 佳菜絵(14)

 昨年のラグビーW杯で、日本代表が強豪南アフリカを破って世界を驚かせたことは皆さんの記憶にも新しいだろう。しかし、日本代表の大躍進の陰には「メンタルトレーナー」の存在がいたことは知らない人も多いだろう。そもそも「メンタルトレーナー」「メンタルトレーニング」という言葉自体が敷居が高く聞こえる人もいるかもしれない。一体「メンタルトレーナー」とはどのような仕事なのだろうか。主にアスリートへのメンタルトレーニングを行う、日本スポーツ心理学会認定メンタルトレーニング上級指導士の田中ウルヴェ京さんに取材した。

日本スポーツ心理学会認定メンタルトレーニング上級指導士の田中ウルヴェ京さん

 まず、なぜメンタルトレーナーになったのかを質問すると、田中さんは「『メンタルトレーナーになりたい』とは思わなかったです。メンタルトレーナーになると決めてから何かをしたのではなく、スポーツ心理学をアメリカの大学院で学び、色々な経験を積み重ねていくうちに、『この経験はメンタルトレーナーになったら役に立つかな』と思ってこの仕事を始めましたね」と身振りも交えながら説明した。2002年にメンタルトレーナーとして活動を始めた時から田中さんは「スポーツ選手、コーチとしての経験は、そのまま現役のアスリートやコーチへのメンタルトレーニングに役立つと思っていた」そうだが、当時の日本では、まだメンタルトレーニングが現場に浸透していなかったので「自分たちでメンタルは管理できている」とアスリートやコーチに思われてしまい、なかなか活動ができなかったそうだ。

 田中さんは、「コーピング」という、ストレスの原因となる状況などの受け止め方を調整する方法のメンタルトレーニングをおもに行っている。「コーピングは、選手の実力発揮にはとてもいい方法だと思います」と田中さんは笑顔で話した。田中さんの著書には多くのコーピングの方法が載っているが、それらは先行研究の結果と田中さん自身の経験を合わせて考案されている。また、アスリートと一般人のストレスの違いについて問いかけると「アスリートと一般人のストレスは同じです。というよりも、人は人によって違う固有のストレスを持っているから、特にアスリートと一般人のストレスに違いはありません。人によってストレスへの対処は変わってきます」と田中さんは詳しく説明した。

 そして、田中さんは「自分の選手時代の経験は、メンタルトレーナーとしての活動のなかで使っていい時と使ってはいけない時があります。私の選手時代の目標は『オリンピックでメダルを取る』でしたが、例えば『スポーツを楽しみたい』という選手がいたら、私の経験、考えをそのまま使ってはいけませんよね」と話した。

 また、「全てのストレスをコーピングはできません。たとえば『死』に関するストレスは、誰にとっても難しいですよね。しかし、生きるというのはとても辛いことが多くあるけれど、生きるということで多くの色々な自分固有のコーピング(対処行動)を作ることが大事です。例えば『あなたはガンで余命は3ヶ月です』と言われたら、どのようにその『ガン』という言葉に向き合って3ヶ月生きていくことにするのか。これこそがコーピングです」「悲しいという気持ちにはコーピングできません。けれど、悲しい自分をどうするか、という行動を作るコーピングはできます」と田中さんは真剣な表情で語った。

 最後に田中さんは、これからのメンタルトレーナーとしての活動について「これからやりたいことは多すぎますね。ビジョンとしては、一人一人の方に『『あるべき自分』ということにとらわれず、ありのままの自分でいること』ということが人生で一番やらなくてはいけないことだ、と伝えたいです。これが、実力発揮や人の役に立つこと、さらには死ぬ直前に『生きてて良かった』と思えることにも繋がります」と悩みながらも話してくださった。 田中さんへの取材で、メンタルトレーニングはもちろんアスリートの結果のためにも大切だが、人としての生き方にも密接に関わることだ、と感じた。ストレスが多い現代社会、私たちは「メンタルトレーニング」への見方の敷居を下げて、だまされたつもりで一回試してみるべきかもしれない。

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スポーツ

女子サッカーを知っている?


2010/11/05               堀 友紀(17)

 目標まであと 66 校。 全国高体連によると、高校女子サッカーチームの登録数は 330 校。男子は 3964 校で、男子の 10 分の1の登録数になることが女子サッカーの目標だという。

 今年の春の大会で高校女子サッカーのルール改正があり、だんだん男子サッカーに近付いてきたが、メジャースポーツでない女子サッカーは今後何を目指していくのかということに興味を待った。そこで財団法人日本サッカー協会中村修三・女子部部長と、全国高体連サッカー部女子部の役員である床爪克至・文京学院女子高等学校サッカー部監督に取材をした。

全国高体連の 床爪克至氏

 「なでしこジャパン」の愛称で一気に知名度を上げた女子サッカー日本代表は北京五輪で 4 位に入賞し、国際サッカー連盟( FIFA )ランキングは現在5位で、来年ドイツで行われる世界大会(ワールドカップ)では優勝を目指している。しかし、「女子のオリンピック競技で、日本が金メダルを取れる可能性がある競技」といわれている女子サッカーについてはあまり世間で知られていないのが現状だ。

 日本サッカー協会によると 2010 年 3 月現在の女子サッカー競技人口は、小学校が 14,705 人、中学生が 6,585 人、高校生が 8,367 人、一般が 7,005 人となっている。この数字からも見て取れるように、小学生から中学生になるとともに競技人口が半分も減っている。中村氏も、床爪氏も、「小学校時代は男子と女子が地元のクラブで一緒に競技しているのが、中学校に女子サッカー部がほとんどないために、サッカーをやめてしまう選手が多い」とその理由を挙げている。

 高体連では「中学校にサッカー部を!」をスローガンにあげている。床爪氏は「試合には高校から審判を出したり、試合会場の提供などを行っている。中学での部活の体制が整えば、中学に上がるときにサッカーをやめてしまう人も減少し、女子サッカー人口増加に大きく貢献する。女子サッカーの発展は「中学校の部活が鍵を握っている」と言う。

 女子サッカー人口の少ないもう一つの理由はハードの整備の問題だ。「サッカーコートはとても場所をとるため確保が難しいので、フットサルコートを使うことなどの策がとられている」と日本サッカー協会の中村氏は言う。

財団法人日本サッカー協会中村修三・女子部部長

 また、床爪氏によると、どの中学も1校だけでは練習に必要な人数が集まらないことや、指導者不足などの悩みがあるため、いくつかの学校のメンバーが集まって一つのチームを編成している。都内で拠点校となったのは区立第四砂町中学校で、9校から集まった 30 人の生徒で週2回の練習を行っているそうだ。このような学校が徐々に増え続けていくことで女子サッカー部のある中学校が増えていくのではないか。

 女子サッカーを広める動きとして、床爪氏によると、高校女子の公式戦を都内の「味の素スタジアム」など大きな会場で開催し、女子サッカーというものを多くの人に知ってもらう方法を高体連ではとっているそうだ。だが、このスタジアムの使用料はサブグランドのアミノバイタルフィールドで、1日 25 万円。女子高校生の1日の試合にかける金額としてはかなり高額だ。選手たちにとっては、すごく立派な会場でできるという喜びはあっても、このように多額な費用をかけて、こんなにも大きな期待と希望をこめて借りた試合会場だとは知るよしもない。

  女子サッカーをもっと知ってもらい、広めていきたいという熱意をもった監督たちが選手たちの知らないところで動いているのだ。女子サッカーが正式に認められなかった時代には監督たちが自ら費用をだしてやりくりしていたという。

床爪氏によると、高体連サッカー部 ( 女子 ) は平成 24 年からインターハイ競技になる。実現までに 13 年かかったそうだ。高校野球でいえば「甲子園大会」のように、インターハイに出場することで学校の名誉となり、その学校が知られるようになって、サッカーをしたいと思う人が集まり、サッカー人口が増えていくのだと床爪氏は言う。「強化は十分できている」と胸を張って言った。   「サッカーは、全世界で共通するコミュニケーションを取ることのできる、人と人とをつなげる遊び道具だ。それだけすごいスポーツなのだから、高校から始めた女子生徒は、周りの選手との実力差を気にするのではなく、とにかくサッカーの楽しさを知ってほしい」と床爪氏。そして「今、サッカーをしている女子選手には絶対にやめてほしくない」と中村氏。両氏とも女子サッカーの発展を強く願っている。

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スポーツ

自分との戦いを乗り越え手にした金メダル~クロスカントリー新田佳浩選手に聞く~

南雲満友(15)

  バンクーバー五輪のクロスカントリースキーで金メダル2個を獲得した、新田佳浩選手(30)。その裏には、挫折、そして人一倍の努力があると知り、自分との戦いをどのように乗り越えていくのか、また試合前、試合中、試合後どんなことを考えているのかについて伺った。


クロスカントリー新田佳浩選手に聞く

笑うとえくぼができる、ニコニコとした笑顔が、とても印象的だった。

新田選手は、岡山県の雪の多い場所で生まれた。3歳の時、祖父の運転するコンバインに巻き込まれ、左腕の肘から先を失った。「障害にまけないように育てる」という両親の思いから、小学校4年生からスポーツ少年団に入った。アルペンスキーをやっていた父親や小学校の先生が新田選手にもアルペンスキーを勧める。バランス感覚を養うために、スキー板の幅がアルペンスキーの半分の4センチしかない、クロスカントリーも始めることになった。中学3年生の時周りの選手に追い付けなくなってしまい、一時はスキーをやめてしまった。しかし、当時活躍していたドイツのトーマス・エルスナー選手の姿を見て、もう一度頑張ってみようと思い、再起した。

新田佳浩選手

  そして2006年トリノ大会、スタート約1キロ地点で転倒した。 「あのときは自分自身メダルをとらなきゃいけないと思っていました。今まで自分がやってきたトレーニングをだすだけでいいと思えばいいのに、それに必ずメダルが付いていないといけないというプレッシャーがあったんです」。

新田選手は、この失敗から立ち直れず、一時期は、スキーの板を見ることも、トレーニングをすることも辛かったという。どこにこの気持ちをぶつけていいかわからなくなり、自暴自棄になっていた時に、仲間の一人が、「また4年後を目指せということだよ」と声を掛けてくれた。その時、自分を支えてくれているチームメイトやスタッフの存在の大きさを改めて実感したという。

新田選手の二つの金メダル

クロスカントリー人生の中で一番印象に残っていることを尋ねると、「トリノでの転倒かなぁ。もしあの時転んでいなかったら、今はもう競技を続けていないと思う」と答えた。

この転倒は転機となった。失敗は失敗じゃない、失敗をして得られるものが、きっとある。不可能だと思っている自分自身の心のカラを破ることが、自分の可能性へとつながる。「不可能とは可能性だ」という座右の銘には説得力があった。

トリノでの悔しさをばねに迎えたバンクーバー五輪本番前夜、新田選手は奥さんから渡された「手紙」を読んでいた。「後悔のない滑りをしてくれれば、私は満足」。この時、涙とともに「もう僕は滑るしかない」と決意した。

新田選手はトリノからバンクーバーまでの4年間を振り返り、「相手への感謝の気持ちを忘れていた」「自分のためだけでなく、自分を支えてくれている人たちのためにも、がんばろうと思うようになった」と語った。

スタート地点、いつもはトレーニングしたことなどを振り返るが、バンクーバー五輪では、何も考えなかったという。「あきらめられることをやってきた」。つまり、もしメダルが取れなくても満足できるだけの練習をし、自分と向き合ってきたのだ。そう思えるほど重ねた努力が金メダルへとつながった。

  「止まってしまった時を刻む大会」としていたバンクーバー五輪を終えた今、ソチ五輪をどんな大会と位置付けるかと尋ねると、「次につなげる大会」との答えが返ってきた。この言葉には新田選手の次世代への思いが込められている。

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スポーツ

スポーツを支える裏方「グリーンキーパー」

<スポーツを支える裏方>
「グリーンキーパー」山口義彦さん
―芝生は我が子。母親のように愛で、育てあげる。―

                 2007/12/22   川口洋平(17歳)
                         貝原萌奈実(18歳)
                          三崎友衣奈(15歳)

 「将来の夢」について考えるとき、頭に浮かんでくる職業は社会の表舞台で活躍する華やかな職業が多い。だが世の中には、私たちの知らない裏方の職業がたくさんある。スポーツにおいても、選手が最善の状態でプレーするためには、影で支える裏方の存在が欠かせない。今回はそんな裏方の中から、「グリーンキーパー」という職業に迫ってみた。

青々とした芝はグリーンキーパーによって支えられている。

 グリーンキーパーとは、その名の通り芝生の管理をする職業で、主にはゴルフ場、他にもスタジアムや競技を目的としたグラウンドの芝を育成、管理する仕事である。日産スタジアムのグリーンキーパー山口義彦さんはゴルフ場で 10 年、スタジアムで 10 年と計 20 年芝管理に携わっているベテランだ。

●グリーンキーパーとは?

 芝生の気持ちになって、何をしてやるべきか考えながら、実際に育てあげるのがグリーンキーパーの仕事です。芝生は生き物だから、赤ちゃんを育てる母親と同じような感じで接しています。病気にもなるし、虫に食われることもある。お腹がすいたら肥料をあげなきゃいけないし、喉が渇いたら水をあげなくてはいけない。一番大事なのは子どもの成長を見守るように日々観察することですね。

日産スタジアムグリーンキーパー
山口義彦さん

どうやって常緑の芝を保つの?

 J リーグのホームスタジアムでは芝を常緑に保つことが義務付けられています。
そのため横浜F・マリノスのホームスタジアムである日産スタジアムでは、暑さに強い暖地型の芝生と寒さに強い寒地型の芝生の両方を用いるトランジット ( 乗り換え ) 方式を採用しています。寒くなって暖地型の芝生が茶色く枯れる前に、寒地型の芝生の種を蒔く。お客さんには気づかれないように常緑を維持しているんです。

 また最近は地球温暖化の影響で、本来であれば 11 月初旬で茶色く枯れるはずの暖地型の芝が、 12 月を迎えてもまだ緑を維持してしまっている。そうなると、暖地型の芝生が水や養分を吸ってしまい、新しく蒔いた寒地型の芝生が育たないんです。暖地型の芝生に関しても、最近の異常な暑さでは管理方法の見直しが必要ですね。

 ちなみに人間が寒さを感じる「外気」が、芝生が寒さを感じる「地温」に伝わるのには 1 ヶ月ぐらいかかります。人間が少し寒さを感じる頃になっても、芝はいまだに残暑を感じていることもあるので、芝の気持ちになってあげなくてはいけないんです。

●芝生を育てるのに最も必要なことは?

 このスタジアムは、近くにある鶴見川の氾濫を防ぐために、大雨の際には地下に水が溜まる仕組みとなっています。100本以上の柱でスタジアム全体を持ち上げる高床式の植木鉢のような構造で、地面よりも土の量が少なく、保水能力が低い。だから自然の芝生なら雨が 1 回ふれば 1 ヶ月ぐらい水をあげなくてもいいのですが、ここでは頻繁に水を蒔かなくてはいけないんです。

 現在は雨水や再生水 ( 中水 ) を溜めて使うなどの工夫をしていますが、これには多くの水が必要なんです。水をあまり使わなくてもいいような根っこの長い芝を作ることが今後の課題ですね。

●芝にとってよくないこととは?

 芝にとっての天敵はコンサート!これだけ大きなスタジアムを運営するには億単位のお金がかかるので、その運営資金を稼ぐために、 J リーグの試合と比べ物にならないほど収益が大きいコンサートを行っています。でもコンサートでは芝生の上にも客席を設置するので、芝生はストレスを受けて黄色く変色してしまう。元に戻るのに 2 週間ぐらいかかりますが、試合の都合があるために十分な休養をとらせてあげられないのがつらいところです。

 グリーンキーパーにできることは、なるべくストレスのかからない芝生を作ることですから、どうすればいたわってやれるか、いつも、そのことで頭がいっぱいです。

スタジアムの芝は人工的な植木鉢のような状態になっている。

●なぜこの仕事に就こうと思ったんですか?

 実は、最初からこの仕事に就こうと思っていたわけではないんです。大学を出て就職したのがゴルフ場を開発・管理する会社で、最初の頃は、上司に「山で芝生を刈ってこい」と言われて途方にくれ、「なんで大学出て、こんなことやっているんだろう」と思う日々が続きましたね。でも、毎日の芝生を見ているうちに、自分のやったことに芝生が応えてくれて、変化がわかるようになり、だんだん楽しくなってきた。今ではこの仕事が天職だと感じていますよ。

●グリーンキーパーになるためにどんな勉強をすればいいのですか?

 学校で何を学んできたかはあまり関係ないですね。仲間には農学系の大学ではなく経済系の大学の出身者や高卒でこの仕事についている人もいますよ。大学での実験よりも実際に芝生に毎日触れて経験していくことが大切で、好きなら誰でもできます!ゴルフ場で働いていたときは、どういう風にお客さんがプレーすると芝生が傷むのかというのを知るために自分でプレーしてみたこともありました。

●どういう人がこの仕事に向いていますか?

 天気が関係して自分の思い通りにならない仕事なので、気の長い人が向いているとは思いますが、何より好きであることが一番大切!

●苦労したことは?

取材の様子

 芝生によかれと思って肥料をあげたりしても、芝生は肥料を欲しがっていなくて、余計なお節介になってしまうことがあるので、毎日試行錯誤の連続です。また、地面に生えている芝は、雨が 1 回降れば土の保水力で 1 週間ぐらい水をあげなくても大丈夫なんですが、人工的な植木鉢のようなスタジアムは、地面にある土よりも保水力がないため、頻繁に水をあげなくちゃいけない。ゴルフ場とは芝の管理が全然違って苦労しますね。

 なかなか、満足がいく芝生の状態に到達しないんですが、スタジアムを使用したいという需要は増える一方。ベストの状態にもっていけない現状に対して、ジレンマを感じますね。

●この仕事のやりがいは?

 まず、「自分達が作っている芝生が J リーグや、ワールドカップの舞台を支え、世界の一流プレイヤーのプレーを支えている」という誇りがありますね。それと、自分のやったことに対して芝生が応えてくれることがやりがい。自分が手をかけたらかけた分だけ芝生は応えてくれるんです。逆に、何か足りなければ、それなりの芝生にしかならない。その反応が、一番のやりがいにつながりますね。毎年毎年が新しい経験なんです!

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 ずっと目指してきた職業だけでなく、偶然手に入れた職業にも誇りを持てる場合がある。予想もしなかったような職業に就いてしまい、辛い時期もあるかもしれない。

しかし色々な職業があって初めて社会は成り立つ。表舞台で輝く人がカッコいいのは当然だが、裏方がいなくてはその人は表舞台には立てない。むしろ輝く人を創り出している裏方の方が、実はカッコいいのかもしれない。

どんな職業にも社会を支える誇りがある――このことを心にして、多くの職業の中から自分にとっての「天職」を見つけ出してほしい。

取材をした記者の感想

・貝原 萌奈実
芝生の上でプレーしている人もかっこいいけど、自分達が作っている芝生の上でワールドカップの試合が行われているということを誇りに思いながら、陰で支えている人もカッコいいと思いました。天職につける人が少ないなかで、仕事をやっていくうちにやりがいを見出して、好きになれるというのがすごいと思います。

・川口 洋平
芝の気持ちになって、芝生にとって一番いいことをやってあげたいと思えるぐらい仕事に打ち込めるってすごいと思いました。
自分も将来それぐらい打ち込める仕事に就けたらいいです。

・三崎 友衣奈
季節によって芝生を変えるというのは知らなかったです。まさか枯れた芝生の上に種を蒔いているなんて思いませんでした。知識以上に感覚や経験を必要とする職業だと思いました。

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CE記者が「グローバル・ユース・フォーラム」を取材

CE記者が「グローバル・ユース・フォーラム」を取材  2005/02/27

2月27日、CE記者5人が、知的障害者のスポーツの祭典「2005年スペシャルオリンピックス冬季世界大会・長野」の関連行事の一つである、「グローバル・ユース・フォーラム」を取材した。
フォーラムでは、長野県内小中高校14校の児童生徒と、アメリカ、オーストリア、中国など14の国と地域のSO活動に参加する知的発達障害者ら計84人が参加。知的発達障害者とサポーターが3人1組のチームとなり、「Changing Attitudes – Changing The World」というテーマで、知的発達障害者への理解をどう深めるかなど活発に意見交換が行われた。
当日会場には、スペシャルオリンピックスの創始者のユーニス・ケネディ・シュライバー国際本部(SOI)名誉会長、ティモシー・ケネディ・シュライバーSOI会長、SOを支援してきたビル・クリントン前アメリカ大統領、細川佳代子SO日本理事長(細川元総理夫人)、田中康夫長野県知事なども参加し、各国のアスリートやサポーターたちにエールを送った。

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