阿川尚之先生に取材するCE記者

2010/07/08               宮澤 結( 16 )

 みなさんは大学入試の方法のひとつである AO 入試というものを知っているだろうか。

 AO 入試とは、学力試験の結果だけで合否を決めるのではなく志望理由書を書かせ面接を行うことで受験者の能力と個性を評価する、新しい選抜形式である。 1990 年に日本で初めて慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )が導入し、その後多くの大学が取り入れるようになった。

 AO 入試には募集人数の総定員に対する割合や募集時期などに関し法的な規制はなく、選抜方法も学校ごとに自由に設定することができる。したがってその大学に合った学生をとることができるのだが、募集時期を早くすることで大学が学生数を確保する青田買いの手段としているという問題も指摘されている。一言で「 AO 入試」といっても、その方法は大学によって様々なのだ。

 今回は AO 入試を行う多くの大学の中で、独自の方法で AO 入試を確立した国立大学法人東北大学の高等教育開発推進センター准教授である倉元直樹先生と、私立慶應義塾大学の阿川尚之慶應義塾常任理事(前慶應義塾大学総合政策学部長)にお話を伺った。

 「東北大学では、『学力重視の AO 入試』を行っている」と倉元先生は言う。東北大学では、面接を行う前に書類の出願とともに学力テストを行ったり、学部によっては一般受験の人とともにセンター試験を受けて、その結果を添えて出願するそうだ。「事前にテストを行うことで沢山の学生を面接する教員の手間を省くことができるし、学力が高いうえに目的意識の高い学生が入ってくるのです」と倉元先生は語った。

 一方、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )では、「テストの点だけでなくその人自身を見ること」に重点を置いている。阿川先生は、「本当は3日間ほどかけて受験者を見たいですね」と語る。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )が導入した AO 入試で重視していることをたずねると、個人的な意見としたうえで二つ挙げてくれた。

 一つ目は出願書類だ。「高校生のうちに、将来何になりたいか、なぜこの大学に入りたいのかという問いは一度は考えてもいいこと。応募書類を書くことはそのきっかけにもなるし、同時にその大学についても考えるきっかけになる」と言われた。

 二つ目は面接。実際に会うことでその人の知的好奇心や熱意が分かるそうだ。

 お話を伺った2校は国立大学法人と私立大学であるし AO 入試の方法も異なるのだが、共通していたことは AO 入試を行うことによってやる気のある生徒が入ってくることである。 AO 入試は一般入試に先駆けて行われるために、その大学を第一志望とする人たちが受験する。

 阿川先生は言う。「自分の通っている大学が好きだというのはとてもいいこと。 AO 入試で入学してくる学生には大学に対する関心があるから、意欲が高い。また、そのような学生が他の学生のやる気をうながしている」。

倉元准教授に取材するCE記者

 倉元先生は AO 入試の問題点について「最近の AO 入試は受験生の力を底上げするような入試設計がされていない。したがって学生はテクニックばかりを磨いていて、本当の力をつけずに大学入試が最終ゴールになっている。 AO 入試とは何かという考えを、皆で変えていかなくてはならない」と語った。

 東北大学も慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )も、 AO 入試で合格して入る学生が一般入試で入る学生を刺激して影響を与えているのは、 AO 入試を実施する目的が明確であるからともいえるだろう。

 「 AO 入試の本来の目的は何なのだろうか」。学力試験だけで合否を決めない選抜形式であるからこそ、多くの大学で導入されるようになった今、大学も受験生もこの問題をもう一度考えるべきなのではないだろうか。

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