勝部亜世満(18)

 大学全入時代に 2007 年度より突入したと言われるが、人気大学を巡る受験戦争はいまだに過熱中だ。その中では受験生だけでなく、各大学も自大学のカラーやアドミッション・ポリシー(求められる学生像)に見合った学生を確保するための制度改革に乗り出すなど奮闘している。

 その 1 つに「 AO 入試」がある。アメリカの大学における入試専門部署を模したアドミッション・オフィスを設置し、従来の筆記による学力試験だけでは判断できない能力を持つ受験生を、書類・面接等によって選抜するものだ。知識のみに偏らない「大学入試の多様化」を目指したものだが、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) による 1990 年度導入を皮切りに、全国各地の国公立・私立大学で定着しつつある。

 今回、こうした入試制度改革によって大学の何が変化したのかを 知るために、 SFC と、国立大学法人の東北大学の担当教員に話を伺った。

 まず、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) の AO 入試は出願方式により異なる部分もあるが、それまでの主だった活動実績、高校 3 年間における評定平均などといった書類審査によって一次選抜を行い、それをパスした受験生に対して面接が課され、最終合格者を決定する。

 「本当は 3 日間かけてじっくり面接を行いたい」という前 SFC 総合政策学部長・慶應義塾常任理事の阿川尚之先生は、「本当は能力のある受験生を一次選抜で不合格にさせてしまうことが絶対ないとは言えない」と AO 入試の限界点を指摘する。他方で、「たった数十分の面接で受験生の全てを知ることはできないが、話し方や目を見ると相手の正直さや知的興味、熱意がこちらに伝わる」とも言う。

 阿川先生によると、実際に AO 入試で入学した学生たちの意欲は極めて強く、オリジナルな計画を実現するなどの行動力で、一般入試によって入学した学生にも多大な刺激を与えているという。しかもこの学生たちの SFC に対する愛着は凄まじく、彼らの意欲が大学全体の活性化に直接貢献しているため、 SFC における AO 入試の導入は結果的に成功を収めているのである。

 次に、東北大学の AO 入試であるが、これは後期日程( 2 月下旬実施の国公立大学前期日程終了後、 3 月中旬ごろ前期日程合格者以外から選抜する方式)廃止に伴いその定員を新たにシフトしたものだという。研究者の養成を目的に、どうしても東北大学で研究に取り組みたいという意志の強い受験生を対象にしており、大学入試センター試験、独自の学力検査、評定平均と面接などによる入試で、一般入試に先立って行われる。一定の学力基準に基づいて第一次選抜を行うことにより志願者を絞ることで、大学側のコスト負担を軽減していることも特徴だ。 2000 年度より 2 学部で導入されたが、現在では全学部に AO 入試枠が存在する。

 大学自身が東北地方を代表する立場であるために、夏のオープンキャンパスには東北 6 県を中心に多くの受験生が集まり、東北大学の研究に直に触れて「試食」することができる。また大学側からも東北地方の各高校に教官を派遣し、東北大学の研究活動等を広報していくことで高校との緊密な関係を築き、その高大連携の橋渡しとして AO 入試を位置づけている。

 東北大学高等教育開発推進センターの倉元直樹准教授によると、この AO 入試によって入学した学生の成績は概ね一般枠の学生より高い水準で、学問に対する意欲も高いという。特に工学部においては“先取り学習”として数学・物理学の演習講座を設置しており、一般科目に先立ち単位を修得する学生が大半となる。また AO 入試で不合格となっても一般入試で合格した学生は毎年 100 人以上にのぼり、彼らの受験生活で培われた粘り強さも、その後の研究に生きてくると考えられている。こうして東北大学における AO 入試は、 SFC とはまた異なった形で成功を収めている。

 この 2 大学のように、 AO 入試を大学の活性化に活用している大学が存在する一方、 AO 入試を学生の早期囲い込み、いわゆる「青田買い」に利用して問題化している大学もある。「青田買い」で批判されているのは、経営資金確保のために入学者を一定数確保することが最優先されてしまうことだ。それにより受験期の試行錯誤を経験しない学生が入学し、大学全体の学力低下を進めてしまう。大学は、そうした学生の底上げへ労力を費やすことになり、大学本来の使命を果たすことから更に遠ざかっていくことになる。

 これに関して倉元先生は、「 AO 入試は SFC が素晴らしい才能を発掘するために導入した画期的な制度であったが、多くの大学が専門組織を整えずに追随したことによって、本来の目的とは異なる方向に進んでしまった」と残念がる。

 「大学とは、自分の頭で考える力をつけ、新しい問題に対処する力をつける場所」と阿川先生は述べていたが、そういった本質的な意味での「学問」に取り組もうとする姿勢をもった学生と教授が集まってこそ、大学の意味があるのではないだろうか。 AO 入試は今や「多様化」というスローガンのもと、大学ごとに独り歩きしてしまい、ひとくくりに成否を論じることは不可能に近い。ただ AO 入試の導入によって過熱した受験戦争をある程度冷却できていることは確かである。そして、「大学入試がゴールではない」ことを示そうとする AO 入試に関して考えることは、大学を目指すことに対する本質的な意味について考えることに直結していると言えるだろう。

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