富沢 咲天(14)
学力テストだけでなく面接や志望理由をふくめ合否を判断する AO 入試が 1990 年に日本に導入され、今では多くの大学の受験生たちにはその制度がかなり知られてきている。だが、受験生以外には、「大学によっていろいろな入試方式があるらしい」という程度の知識しかないのではなかろうか。そこで今回、 AO 入試についてもっと深く知るために、詳しい方たちにインタビューを申し込んだ。
まず最初にお話を伺ったのは東北大学の倉元准教授。東北大学の AO 入試は、センター試験や独自の学力テストなどを最初に行い、それを通過した人に面接を行うという。学力試験を行うのは、膨大な受験者の人数を試験で減らして時間と手間を省くためだそうだ。学力試験を行う理由はそれだけでない。学力試験を経た学生は、一般入試で入った学生との学力差があまり出ず、大学が学力の劣る学生の勉強をフォローする必要がない ことだ という。
このように、東北大学はまず学力があった上でこの大学に入りたいと強く思っている人、さまざまな能力を持っている人を求めている。「AO入試だと簡単に大学に入れるから受けよう、とは決して思ってほしくない」と倉元先生は語った。
次にお話を伺ったのは阿川尚之慶應義塾 常任 理事(前慶應義塾大学総合政策学 部 部長)。 SFC (湘南藤沢キャンパス) の AO 入試 では 主に 書類審査と面接で合否を判定している。 阿川先生によると、 面接では強い意志、意欲のある人、なにか光るものを持っている人、などを積極的にとっている という 。このように向上心あふれる生徒たちは大学に入ってからも活躍し、周囲の学生たちにも好影響をもたらすそうだ。 阿川先生は「 いろいろな制約もあり、 慶應義塾大学 SFC の AO 入試は世界一だとは思わないが、 熱意のある 良い学生を取っていきたい」と熱く語った。
倉元先生も阿川先生もともに、 AO 入試は大学にとって良い効果があり、導入してよかったと語る。だが、満足はしていない。課題はたくさんある。
たとえば、 AO 入試は時間も人手もかかる。一般入試とは別に AO 入試用の独自のテストを作らなければならない。また大勢の受験生たちを面接するため、先生たちは多くの時間を費やさなければならない。大学側にとって、これはとても負担だ。
面接も十分納得できる時間をとっているとはいえない。短時間の面接で、受験生の素質が本当に全部分かるのか、という疑問も残る。「本当は 20 時間 3 日間 くらい面接したいくらい。でも時間は限られている」と阿川先生は言った。
倉元先生は「最近の高校では大学に入るため、試験に合格するためだけの勉強しか行っていない傾向がある。本来学校というものはそのようなことを教える場所ではない。大学に入ることだけが人生の目的のようになっているが、それは違う。本当のゴールというものは大学を出てからあるものなのだ」と語る。そして「 AO 入試を理想の入試に近づけたい」という。
阿川先生のお話で、大学の卒業生に望む「 Decent 」という言葉が印象に残った。人として正しく生きるというような意味だという。勉強ができる、仕事ができる、経済的に豊かになるなどの成功だけではなく、人としてどう生きるべきかは、自分の頭でよく考えなければいけない。
そもそも AO 入試というものが日本で導入されたのは、時代の流れで社会が求める人材像が変わり、それに対応するためといわれている。以前は 経済的に 安定した 経済の 社会で あったため 、みんなほどほどの同じような能力が求められた。しかし先行きの見えない不安定なこれからの社会では 、 与えられた課題ができるだけでは十分ではなく、「課題を自分で見つける力」、「自分の頭で考え解決する力」が必要だ。どんなに勉強ができても、なにか深刻な問題が起こった時に、問題に対処するために自分の頭で考える力がないと困る。これからの学校 で は単に知識を詰め込むだけでなく、自分で考える力を身に付けなくてはいけないだろう。そのためにも、学生に自分で考える力をつけさせ、行動力や意欲を引き出すのに AO 入試が活用されるべきだと言えよう。
今回の取材ではたくさんある AO 入試の中で、二つの大学の AO 入試の現状を知ることができた。これらの大学の AO 入試の意義、問題点は他の大学の AO 入試とも共通しているのではないだろうか。
取材前、「大学は、将来なりたい職業につくために行っておくべきところ」、「 AO 入試は早く合格が出ていいな」くらいにしか思っていなかった自分の甘さを反省した。大学は、学力も必要だが自ら考える力を持つ学生を求めていて、そういう力を持った学生は社会に出ても通用するということがわかったからだ。
日々なんとなく過ごしている私には、意欲も意志も考える力も全然足りない。今回お伺いした先生方の言葉を心にとめて、もっと自分の頭でとことん考え、弱い意志を鍛えていこうと思う。