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誰もがリーダーになれる

飯沼 茉莉子(16)

  「出る抗は打たれる」という諺が日本には昔からある。そのためかリーダーシップをとることを避ける風潮になってしまっていた。チルドレンズ・エクスプレス(CE)が日本の若者34名にアンケートをとったところ、学校やそれ以外でリーダーシップ教育を受けた学生はわずかだった。しかし、最近の日本では、リーダーシップの重要性が盛んに叫ばれ始めた。大学の推薦入試や就職試験の際にも「リーダーシップ」があるかどうかが重要視されてきている。アメリカでは以前からリーダーシップ教育が行われ、イギリスでも盛んだという。そこで日米英三カ国でのリーダーシップ教育の違いや共通点を調べ、そこから見える「リーダーとは何か」について取材した。

■円の中心にいるリーダー
  カリフォルニア大学バークレー校でY-PLANという教育を行っているCenter for Cities and Schoolsのディレクター. デボラ・マッコイさんと、コーディネーターのジェシー・スチュワートさん(28)にインタビューをした。Y-PLANとは、若者が地域の活性化プロジェクトに参加し、自分たちのアイディアを市長や企業に直接プレゼンテーションをするまでを行うプログラムだ。スチュワートさんは「ここでは、自分の意見やアイディアを表現する場が与えられるため、自分がリーダーとなってこの地域を変えてみようという自信をもつことができるようになる」と自信たっぷりに語った。リーダーになるための要素は「周りへの思いやりとリスクを取る勇気。リーダーは自分のことだけではなくグループ全体のことも考えなければいけないし、反対意見も聞いてグループをバランスよくまとめる能力が必要なの」と指導のコツを教えてくれた。なぜリーダーシップが重要視されているかを尋ねると、「アメリカではこれまで、高等教育を受けた裕福な人たちがリーダーになっていたが、グローバル化した今、金持ちか貧乏か、教育をうけたか受けてないかは関係なく、誰もがリーダーシップスキルを持つ必要がある時代になった」とデボラさんはいう。
このY-PLANを体験した日本人がいる。東北で被災した100人の高校生たちだ。彼らがまとめた昨年の報告書によると、参加者の一人は、「リーダーとは一番偉い人で三角形の頂点に立っている人ではなく、円の中心にいて、みんなの意見を一つにまとめてきれいな円を作りあげる人のことだ」と述べている。さらに「一番変わったことは、人前で話すことが全く怖くなくなり自分の意見を言えるようになった」という前向きな感想が多かった。

■グループプロジェクトの効果
ロンドンにあるリーダーシップ教育の団体Changemakersと、CEの姉妹団体であるHeadlinersの支局を訪ねた。Changemakersは1994年に教育学者やNGOによって設立された団体で、リーダーシップを通じて若者の潜在能力を引出し、周りにもっと強い影響を与えたいという精神と、リーダーに必要な要素を自身で見つけさせることを目指している。Changemakersの指導者の一人であるスラッジさん(26)によると、このプログラムを受けた後の若者は、自信、コミュニケーションスキル、モチベーション、それに大志が身に付くという。「日本では出る杭は打たれる」と話すと、スラッジさんは「リーダーになって支持を得るには、まずはみんなから認められ、みんなをサポートするためにリーダーがいるということを強く伝えなければいけない」と強調した。現在イギリスではこうした教育機関が多くあるため競争が激しいそうだ。イギリスでどのくらいリーダーシップが重要視されているか想像がつく。

Headlinersのロンドン局でリーダーに必要な条件を聞いたところ、どの記者も必ずあげたのが、自信、他人の意見を聞く、チームワークを大切にできるという三つの要素だった。記者の一人ガブリエラさん(17)は、若者でビジネスを立ちあげるというプログラムに参加しリーダーを務めたそうだ。彼女はこのプログラムを通して「十人十色のグループを一つにまとめて、みんなをゴールへ導くことに苦労したがこの経験によって、自立心が芽生え責任感を持つようになった」という。日本ではグループワークが少なくリーダーになることを恥ずかしがると話すと、イギリスの若者は意外な表情を見せた。グループプロジェクトはコミュニケーションスキルが身に付くし、他人から学ぶこともたくさんあるから日本ではもっと頻繁に行うべきだと指摘を受けた。

北アイルランド地方ベルファスト局のナオミさん(18)は「リーダーシップはプログラムを受けなくても育つ。自分の人生を自分で引っ張っている時点でもう身に付いている」と言う。ディアナさん(18)はもっと冷静な見方をした。「もしリーダーが休んだら残りのメンバーの中からまたリーダーシップを取れる人がいるようにするためには、みんなにリーダーシップが必要である。リーダーになることは特別なことではない」と。リーダーとはトップで引っ張っていくという意味ではなく、みんなの中心になって様々な意見を聞きながら周りに認めてもらい、チームをまとめていく役割であると米英の同世代の若者たちが共通して語った。リーダーシップは若いころにリーダーを経験することで誰もが身に着くものなので、アメリカやイギリスではこのような教育団体が多く存在することが分かった。リーダーシップは特別なものではなく身近なものであることを若者が理解することが大事だ。アメリカやイギリスのような教育を取り入れれば日本にもっと多くのリーダーが誕生していくのではないだろうか。

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リーダーシップの可能性を考える

南雲 満友(18)

 リーダーシップって何だろう。 そしてそれを育むリーダーシップ教育とは何だろう。2013年8月1日から8日まで日英記者交流でイギリスを訪問した際に、チルドレンズ・エクスプレスの姉妹団体であるHeadliners(ヘッドライナーズ)の記者とユースワーカーたち14名(ロンドン局7名、ベルファスト局4名、フォイル局3名)、さらに日本の若者34名に取材をした。それを通して見えてきた「リーダーシップ」についてまとめた。

■可能性の引き出し
日本には、「出る杭は打たれる」という諺にもあるように、周りの空気を読むという文化が存在し、「リーダーをやりたい!」と宣言することで周りから浮いているように思われる風潮がある。皆で一緒という意識が強いのだ。そのためか、実際には学校でリーダーシップ教育が行われていないことが多いようだ。日本の若者34人に「リーダーシップ教育を受けたことはあるか」と質問をすると、「ない」という回答が多かった。

これに対し、イギリスではリーダーシップ育成プログラムが盛んで若者たちは自ら進んでリーダーの役割を経験していた。ロンドンデリーにあるフォイル局のキティー(17)は「私はドラマの監督をやった。皆がわかってくれないときに、仲間のやる気を引き出すことが大切だ」と語った。またロンドン局のプレシャス(17)は「バンク・オブ・ユーロのビジネスプログラムでリーダーに選ばれ、公平であることの大変さを学んだ」という。

イギリスで様々なリーダーシップ育成プログラムを実施している団体Changemakersにもロンドンで取材をした。同団体は1994年に教育者らによって設立され、信頼、知識、異端児、愛情、勇気という“5つの価値”をベースとしてリーダーを育成するプログラムを行っている。2泊3日のキャンプやプロジェクト、121のコーチングセッション、スキル育成期間を含む3ヶ月のリーダーシッププログラムがあり、対象年齢は16歳から25歳に絞っているという。スタッフのスラッジ氏は「16歳は個性が発達する時。自分についてわかり始める。だから16歳からを対象にしている」と説明する。また、「リーダーシップは元来自分の中から始まる。潜在能力を引き出し、自分を信じることで発揮できる」と語った。16歳で個性が芽生え、その時期にリーダーシッププログラムを経験することで、リーダーシップについて自分なりの定義を行い、自覚することにつながるのだ。参加した若者には、これらのプログラムを通して、自信、コミュニケーションスキル、影響力、自己動機付け、認識などを学んでほしいという。そして、「リーダーシップスキルは短期間で身に付くが、それをどんな状況でも発揮できるように育むことが大切だ」と話す。リーダーシップを育成する過程では、可能性を気づかせて引き出し、それを維持していくことが大切なのかもしれない。

■グループ学習
 日本との比較でスラッジ氏は授業のやり方の違いをあげた。イギリスやアメリカの学校授業ではグループ学習が多くとられている。それに対し日本は個人学習がほとんどである。フォイル局のグレイス(18)は「グループ学習はやりがいがあるし、自信とリーダーシップを身につけることができる」と話した。

■リーダーはサポーター
 リーダーに必要なスキルについてイギリスと日本の若者たちに聞いたところ、コミュニケーション能力、動機付け、誠実さ、グループを良い方向に導くこと、妥協、統率力という意見が共通して多かった。そしてリーダーときいて想い浮かべる人は女王、首相、生徒会長などがあがった。

そのなかで新たなリーダー像も見えてきた。ベルファスト局のナオミ(18)は「リーダーは皆をサポートする役割がある」と従来のリーダー像である皆を引っ張る人ではなく、支援するというポイントをあげた。Changemakersのスラッジ氏も「リーダーはまず仲間をサポートし、助言を与え、合意を形成していくことが必要だ」と語っている。力で上から指示するようなリーダーではなく、相手の立場にたって考え、コミュニケーションを通して、仲間をやる気にさせる。そして皆をサポートしながら、的確な方向に導いていくリーダーである。

そもそもリーダーシップとはリーダーだけに必要なことなのであろうか。ロンドン局のイスメール(21)は「将来、自分の子どもに何かを教え、育てていくにはリーダーシップが必要なのではないか」と身近なことにリーダーシップの必要性をあげた。またフォイル局のキティー(17)は「グループの中で誰もが色々な方法でリーダーになれる」と話す。これらは「リーダーシップは身近なことから始まる」というChangemakersのスラッジ氏とも重なる。

■リーダーシップの可能性
「リーダーシップはリーダーシップ教育がなくても育つ」とナオミ(18)は語る。学校でのグループ学習やディスカッション、そして友達関係などでもリーダーシップを身につけることができるという。つまりリーダーシップとは日常生活で行っていることに直結しているのだ。スラッジ氏はリーダーシップについて「一生の旅」と笑顔で締めくくった。私たち若者にとって本当に大切なことは、毎日の生活を自分でリーダーシップを育む機会にしていくことではないだろうか。そして「リーダーシップって何だろう」と考えていくことが、真のリーダーシップ教育なのかもしれない。

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将来の職業につながる教育

瀧澤 真結(15)

 文部科学省がセンター試験を5年以内に廃止し、新たに複数回受験できる到達度テストを導入する方針であるとの新聞報道があった。それによれば文科省はイギリスのGCE‐Aレベル、アメリカのSAT、フランスの国際バカロレアなどの統一試験を参考にするという。では、欧米の試験がどのようなものなのか、現在のセンター試験との相違点はあるのかを調べるため8月上旬にCEの姉妹団体であるHeadlinersのロンドン局、ベルファスト局、フォイル局を訪ねて、実際にGCEやGCSEを受けている学生たちに取材をした。

 イギリスの学生たちにはまず日本のセンター試験は一回で結果が決まってしまうが、複数回受験し、一番良い結果を選択することができるイギリスのGCSEやGCEとどちらが良いかと聞いた。結果は、どの局でも学生たちの意見が分かれた。イギリスのシステムの方が良いと言った人は、「一回ではプレッシャーが大きすぎる」、「どんどん点数を良くしようと頑張るから継続的に成績があがる」、「何度もチャンスが欲しい」という意見だった。それに対して、ロンドン局のプレシャスさん(18)は「複数回受けられると最初に頑張った人と後から頑張った人の評価は同じものになってしまって、最初から頑張っていた人が報われない」と語った。一度だけのチャンスに向けて勉強をする方が、全員平等の結果が出るため、日々勉強している人にとっては一度の勝負が公平だという。

 驚いたのは日本のセンター試験に比べ、GCEやGCSEでは100科目という幅広い科目数から受験科目を選択することだ。そこで、このメリット、デメリットについて聞いた。メリットは、「自分の将来を真剣に考えられるようになる」、「得意な科目、興味のあることを選択することができる」などが挙がった。フォイル局のマイケル君(20)は、「自分のことは自分が一番良くわかっているから、自分にとって良い選択ができる一方で、自分で自分の可能性を閉じてしまうことになるかもしれない」と不安も語った。他のデメリットとしては、「14歳で自分の生涯に関わる科目を選択しなければいけないので、若すぎるのではないか」という意見が多くあった。また、イギリスでは選択した科目を途中で変更する場合は早い段階で決めなければいけないため、他の授業とかぶっていないか、受験枠の人数に空きがあるかなどの条件を満たさなければいけないそうだ。そのため、選択する前に考えることが大事なのだと数人が述べていた。

 最後に将来自分のやりたい職業に就くために大学は必要かと尋ねると、ほぼ全員が「必ずとは言えない」と答えた。理由は、企業はどのような学科や大学を卒業しているかよりも、経験を重視するからだという。ロンドン局のガブリエル君(17)は、記者になりたいと思って、文系の学科などに入って勉強をしても、HeadlinersやChildren Expressなどの子ども記者団体に入って実際に記事を書いたほうが良い記者になれると語った。ただし、医者や先生などの特定の職業に関しては大学は必要だと答えていた。

 各局への取材を終えて、イギリスの制度にも日本の制度と同じようにメリットとデメリットが存在することが分かった。また、日本がマークシート式なのに対して、イギリスでは記述式を重視した試験にしているという違いも知った。イギリスで取材した際、多くの学生がマークシート式の方が当たる確率が高いから受けやすいと答えていた。それに対してフォイル局のケイティーさん(17)は、マークシート式は答えの選択肢が似たりよったりしているので、正確に答えを知らなければいけないから難しいと語った。取材の最後にイギリスの制度と日本の制度のどちらが良いか、最初に聞いたが意見が変わったかと聞いた。結果は完全に変わったという人は少なかったが、どちらの制度にもメリットとデメリットがあり、学生たちのことをよく考えて作られてあると語っていた。 日本の教育制度がこれから変わろうとしているが、どの制度にもメリット・デメリットは存在する。それよりも、私たちの学生にとっては、将来の職業や専門につながる勉強や経験を重視した教育をすることが大事なのではないだろうか。少なくともイギリスはそういう方向であることが感じられた。日本の文科省の判断を待ちたい。

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若者の大学受験のゆくえ

村上 類(14)

 日本の政府は大学受験生の学力をより正確にみるため、センター試験を見直して新しい到達度テストを導入する検討に入っている。若者としては新しい統一テストがいつ始まり、どのようなものになるのかすぐ知りたいところだが、なぜ今新しいテストが導入されようとしているのだろうか。

 そもそもセンター試験とは、「受験生が高校で勉強した基礎的な学習の達成の程度を判定することを目的としていて、国公私立の大学がそれぞれの判断と工夫に基づいて適切に利用することにより、大学教育を受けるにふさわしい能力・適性等をさまざまな面から判定するために実施するもの」と大学入試センターの概要に記してある。

 この概要をベースにして今指摘されている改革理由の第一は、受験の機会が一年に一回しかないことだ。これだと体調をたまたまテストの日に崩しただけで何年もの苦労が水の泡になってしまう。二つ目は回答形式がマークシート式であることだ。「困ったら鉛筆を転がして解答できる」ことで有名なこの方式は、たまたま高得点を取ることができて大学に入学できる可能性もある。

 新しいテスト方式はイギリスのGCSE・GCE-Aレベル、アメリカのSATそしてフランスのバカロレアを参考にするようだが、どのようなテストにもメリットとデメリットは存在する。私たちはこの夏に参加した訪英プログラムの際にイギリス各地にあるCEの3姉妹局を訪ね、GCSEを実際に受験した若い記者たちにインタビューした。

 まず日本のセンター試験と大きく異なる部分は、テストがGCSEとGCE-Aレベルの二段階あることだ。GCSEは日本でいう中学3年生が対象で、このテスト結果は大学に行かない人もその後の就職活動に使われる。大学へ行かない人は職業訓練学校に行く道があるものの、学費が高いなどの理由からなかなか行く人は少ないと彼らは言う。つまりすぐ就職する人にとってはGCSEが唯一の“認定資格”になるのだ。このシステムについて、すでにテストを受けた人もこれから受ける人も「将来についてこの年齢で決断するのは早すぎる」と口をそろえて答えた。

 そしてGCSEを受けた後に待っているのがGCE-Aレベルのテストだ。これは大学へ行くためのテストで、日本のセンター試験に近い。大学入学に向けてということでテストの科目選択をするシステムになっている。このシステムは自分のやりたいことが見つかるし、科目選択の幅が広いので興味が探れるからいいと答える人がいる反面、将来やりたいことが途中で変わった場合、クラス変更は可能だが簡単にはできないし、その後勉強に追いつくのは大変という意見があった。

 GCSEとGCE-Aレベルの二つのテスト受験者の声を聞くと、イギリスではもう高校生の時点で自分の将来については自己責任となっていることがわかる。しかしCEの姉妹団体Headlinersの記者たちのほとんどはイギリスのテストが日本のテストよりもいいと話す。日本のテストは勉強をコツコツとする人にとってはいいし、答えが分からなくても適当に答えられるからいいという意見もあったが、イギリス方式のほうが将来についてより考える機会になると考えている記者がとても多かった。
 
 取材の結果、実はイギリスでも統一テストを改革する動きがあることがわかった。これは国際バカロレア機構が定める教育課程を修了すると得られる資格「国際バカロレア」を中高生に向けて新しく作るというのだ。では、なぜ今改革をするのか。イギリスの文部省に取材した。
  
 GCEのレベルの改革の主な理由は、レベルが的確にできていて且つ厳格であることを確認し、大学’や雇用者の要求に歩調を合わせることと、大学の学者が過去の結果を分析した結果、受験者の水準が常に適切に学部コースに適していないことが要因だと担当者は語った。今後は熟達した準備の熟達度や、それぞれの科目の深い知識と知的能力を図るためにテスト用の学習よりも、学習そのものに焦点を当てたテストにしていくそうだ。
  

 日本で新しいテスト方式を作ろうとしているなか、参考モデルの英国のテストの一つが変わろうとしている。これから受験を控える若者、学校、学習塾などが無用な混乱に直面しないように日本の大学受験改革については実施開始時期を含め、早く決めて知らせてほしいものだ。

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大学入試改革のメリット・デメリット

毛利 真由(16)

 2013年日本政府は大学入試のセンター試験を廃止して新たな試験を実施する検討に入っている。次に用いられる統一試験方法はフランスのバカロレアやイギリスのGCSEを参考にするともいわれる。日本では、なぜ長年続けたセンター試験を見直すのか、そのメリット・デメリットは何なのか。GCSEやA―LEVEL を受験しているイギリスの学生を現地で取材した。

 日本での一番の改革理由は、大学教育で必要な能力があるかどうかを高校の間で身につけた学力で丁寧に測る仕組みが必要であるからと言われている。また、いまのような“一発勝負”ではなくその前段階の学校における評価や達成度を反映することが重要視され始めたこともあるようだ。

 GCSEはイギリスで公認されている統一試験のことだ。これは高校生が受けるもので、一年の間に何度も受験することができる。その評価は大学進学だけでなく就職の際にも必要な資格とされている。複数の科目から自分の将来に役立つ科目を選択することができる。

 これらを14歳で科目選択をするため、幼い時から自分の将来について真剣に考えることになる。取材したCEの姉妹団体のロンドン、ベルファスト、フオイルの3支局で若者の話を聞いた。「自分のことは自分が一番に知っているから自分で選べるのがいい」と17歳の少女は語る。「ある程度将来の方向性を定められるのがいい」「たくさんの選択科目から定められるのがいい」などという意見があった。GSCEのメリットは、自分が得意なものを率先して学ぶことができ、就職のときにもそれが生かされることのようだ。

 だが14歳で必修科目を選ばなくていけない厳しさもある。自分の人生の方向性を決めるのは早すぎる年齢だ。「選ばなかったのも自分の責任なので、自分の可能性を自分で閉じてしまうかもしれない」と20歳のマイケルは語る。将来の夢や職業のことを考えたとき科目を変更したいと思ってももう追いつけないほど授業が進んでいることや、その授業のクラスに空きがない場合も少なくないという。

 自分の意思で科目を選択する人も多くいるが、逆に何をとっていいかわからない生徒や将来やりたいことがまだ決まらない場合は友達と同じ科目をとったり、親の方針の影響を受ける人もいる。

 一方、日本で行われているセンター試験は一度しか実施されないため、直前で何等かの理由で受験できなくなった場合に今までの努力と時間が無駄になってしまう。AO入試では早期合格者の学習意欲の減退が他の生徒に悪影響を与えることや、大学に入った時の一般入試者との実力の差が生じることが指摘されている。自分の可能性を広げ、より多くの可能性を時間をかけて見つめ、学ぶためにはセンター試験のほうが効果的に見える。しかし、イギリスと比べてみると受験機会が一度だけであることや、マークシート式なため文章を“書く”こということを試すことができないなどの問題を抱えた日本の大学入試は改善の余地があるし、新しい試験方法を模索しながら変えていかなくてはいけない段階にきているのだろう。

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聴導犬って?

聴導犬って?
2013/10/11               坂本 光央(10)

 皆さんは、『聴導犬』という犬を知っているだろうか。聴導犬とは、耳の不自由な聴覚障害者を補助する犬のことである。普段ほとんど見かけない聴導犬だが、具体的にはどんな仕事をしているのだろうか、どのような訓練をしているのだろうか、8月18日に社会福祉法人日本聴導犬協会八王子支部で、日本聴導犬協会会長の有馬もと氏と利用者の村澤久美子さんに話を聞いた。

目覚し時計を使ったデモ

 聴導犬は、もともと、1966年にアメリカのデトロイトで生まれて、その後、日本では1983年に聴導犬第一号が誕生した。

 有馬会長の話では、聴導犬は、聴覚障害者に八つの音(料理タイマーや警報機の音)を利用者に教えるように訓練されているが、生活の中で八つの音の他にも、利用者の必要な音を聞き分け、教えるようになるという。さらに例えば、利用者が目覚まし時計をセットするのを忘れても、聴導犬の方が習慣を理解しているので、いつも起きる時間に起こしてくれる。

 聴導犬を利用する村澤さんによると、以前は、鍵を落とした時、近くの人が気付いてくれて、声をかけられても気付かなかったという事や、湯を沸かし過ぎても気づかず、匂いがし始めてから気づくという事もあったという。しかし、聴導犬が来てからは、湯が沸いた音が鳴ると、自分の前まで来て音が鳴ったところへ連れて行ってくれるという。聴導犬がいることで、一緒にいるだけでも安心できるし、助かっているという。

 聴導犬の服の色はオレンジ色で、はぐれた時に見つけやすくするためである。さらに、服には聴導犬だという事を証明するためのIDコードがついていて、これは聴覚障害という『見えない障害』に気付いてもらうためでもあるという。

有馬会長に取材

 有馬会長の説明によると、このような仕事をする聴導犬の候補犬は、捨てられて、保健所や動物愛護センターに送られた犬から選ぶという。捨てられてきちんと世話をしてもらえなかった犬を補助犬に育てるのは愛情と時間がかかるが、一頭でも多くの犬を救い、障害者の良きパートナーに育てたい、これが日本聴導犬協会の設立当初からの基本理念なのだ。訓練法は、保健所などで候補犬選びをして、ソーシャライザーと呼ばれるボランティアの家で2~8ヶ月育ててもらい、社会のマナーを教える。その後、本当に適性があれば、訓練をし、最終試験に合格すると、ようやく聴導犬になることができる。最終試験では、電車・バスなどの乗車、スーパーでの買い物など十一科目があり、電車・バスの乗車の試験の時には、車内で空き缶を転がしたり、わざと物を落としてその反応を見るというのがあるそうだ。訓練では、決して叱らずに、できたらほめる。音を教えると褒美がもらえる、と考えるようになるそうだ。また、聴覚障害者は話せないこともあるので言葉で命令しないで、手で指示する訓練をしている。こうした訓練で、聴導犬になれるのは、実は、600頭に1頭だという。

 日本聴導犬協会では、このような訓練のほかに、聴導犬の無料貸与とアフターケア、身体障害者支援、地域貢献など、色々な仕事をしている。

 聴導犬は、日本全国で52頭(2013年8月現在)しかいない。これには、『聴導犬』というものが世間に知られていない、又は借りたいけれど職場の協力が得られないという理由が挙げられる。なぜなら、聴導犬を借りる条件の1つに、日中も聴導犬の介助が必要な人しか飼えない、と書いてあるからだ。しかし、聴覚障害者でも、ペット犬と暮らしている人なら、家の中で3種類の音を教えてくれる『聴力お手伝いペット犬』になれる訓練方法を無料で教えてくれるそうだ。

 聴導犬の実働頭数を多くするには、知る人が多くならなければならない。日本聴導犬協会も普及活動をしているが、借りた人が、それと同時に広報もしなければいけないそうだ。
聴導犬を知り、借りることが出来ても、一般市民に知られていないがために、飲食店やスーパーには入れないことがある。そういう時には、ユーザーにも説明義務があるが、それでも理解してもらえなかったときは、日本聴導犬協会はアフターケアとして説明してくれるそうだ。 聴導犬は、盲導犬や介助犬と違いあまり知られていない。しかし、日本聴導犬協会の努力により、聴導犬を知る人が増え、普及にもつながることを期待したい。

聴導犬の今
2013/10/11               前田佳菜絵(12)

 町で補助犬の募金活動などをよく目にする。だが視覚障害者の補助をする「盲導犬」を知っている人は多くても、聴覚障害者の補助をする「聴導犬」を知っている人は少ないだろう。日本聴導犬協会八王子支部で話を聞いた。「聴導犬は聴覚障害のある人の体にタッチして日常生活の音を知らせる犬です」と日本聴導犬協会会長の有馬もとさんは言う。デモンストレーションしてくれた犬は、目覚まし時計の音や警報機の音をCE記者の体にタッチしたり「ふせ」をして教えてくれた。
  
 日本聴導犬協会が設立されたきっかけは、保健所が犬や猫を処分していることの批判をかわすためだと有馬会長は言う。そのため、今でも保健所で保護された犬が聴導犬になっている例が多い。だが保護犬の中でも人間が大好きなことなどの素質がある犬は300頭のうち1頭だと言う。

利用者の村澤さんに取材

 厚生労働省の調査によると、日本聴導犬協会に取材をした8月時点の聴導犬の実働頭数は52頭だという。これは「盲導犬」の約二十分の一、身体障害者の補助をする「介助犬」の六分の五だ。聴覚障害者の数と比べると、やはり聴導犬は圧倒的に不足しているという。また、都道府県ごとの実働頭数も10頭の県がある一方で、1頭もいない都道府県も多い。その対策について有馬会長は「仕事などの関係上聴導犬を借りることができない人もいると思いますが、実際に聴導犬を借りている(借りていた)人が耳の不自由な人に『聴導犬はいいよ』と広めてもらわないとなかなか普及しません」と言う。現在、世界で一番成功している英国聴導犬協会も、最初のユーザー50名が広報活動を引き請けて、聴覚障害者へのPRをしてくれるようになってから頭数が増えたそうだ。日本聴導犬協会も今年度、12名の元聴導犬ユーザーと聴導犬の協力のもと「全国聴導犬普及キャラバン」をおこなっているという。
   
 最後に有馬さんは、訴えるように「耳が聞こえない人は孤独なんです。家族などと話していても話についていけず孤独感を味わうことがあるんです。聴導犬は癒しです。音を知らせてくれるだけではありません」と語った。

デモが終わってごほうびを待つ聴導犬たち

 実際に聴導犬と生活している長野県の村澤久美子さんにも取材をした。聴導犬のことは新聞で知って、村澤さんが指導している手話のサークルで日本聴導犬協会のデモンストレーションを見に行ったそうだ。
 
 だが、村澤さんは当時精密機械の会社に勤めていて 、聴導犬を会社に連れて行くことができず、聴導犬を借りることができなかったため、家の中のみで音を知らせる「聴力お手伝いペット犬」を借りた。しかし、日本聴導犬協会に転職して、今の聴導犬「かるちゃん」との生活を始めることができたそうだ。今は、かるちゃんに目覚まし時計の音やキッチンタイマーの音、職場でのドアノックの音などを教えてもらっているそうだ。

 今でも日本聴導犬協会からアフターケアを受けている村澤さん。最後に聴覚障害者に「聴導犬は道具ではありません。大事な家族です。聴導犬と生活を始めることで、今までにない安心が得られ、リラックスできるのは、聴導 犬と生活して初めて分かることなんですよ。一人でも多く の耳の不自由な方に、聴導犬との生活で、安全と安心を得てほしいです」と語った。
   
 盲導犬や介助犬が活躍している中にも聴導犬を必要としている聴覚障害者が確かにいる。広報活動などを続けている日本聴導犬協会の人、募金をしている一般の人がいる。そのことをこの取材で強く実感した。これから、聴導犬がもっと社会に広まること、障害者や補助犬が暮らしやすい社会になることを強く願う。

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