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教育


 

社会で必要とされる能力=英語力?
2016/11/26                     前田 佳菜絵(15)

 楽天、ファーストリテイリング、日産…。これらは全て「社内公用語英語化」を宣言したグローバル企業だ。近年、英語力は就職して社会で生きていくうえで最も重要な能力の一つとして言われるようになっている。しかし実際、英語力は仕事上で他の能力より重要なのか。将来社会に出ていく学生のためにも、これからの企業で必要とされる能力は何なのか。実際に社内公用語英語化に関わっている社会人などに話を聞いた。

 まず、日産自動車株式会社に13年勤務する男性社員に取材した。日産ではルノーとの提携が始まった1999年に「社内公用語は英語」という命令があったそうだ。今年の社員の採用基準はTOEIC(国際コミュニケーション英語力テスト)700点以上で、管理職に就くには730点が必須とのことだ。この男性は「英語は海外との意見交換のためのツールにしか思っていない」と話す。企業にとって必要な人材とは「自分の言いたいこと、やりたいことを持っている人。それを世界中のメンバーに伝える時に英語というツールがあったほうがいい」と語った。

 次に、楽天株式会社の元社員(勤続3年男性)に話を聞いた。楽天では「社内公用語英語化」を目的に2010年から社員への英語教育が始まったが「TOEICで社内基準の800点を取れないと減給されるため、仕事への意欲が下がる人も多い」と語る。全社会議やレポートなどでは必ず英語が使われているため「ビジネス英語に慣れるチャンスではあった」と話したが、TOEICについては「型を覚えて勉強すれば、英語力が身につかずに点数は取れてしまう」と明かし、「社内公用語英語化の本質を追求し、あくまでも英語はツールとして考えなければいけない」「必要な人材は人柄がいい人。スキルより、どれだけ一緒に仕事をしたいかと思えるかが大事」と結論付けた。

 以上を踏まえて、楽天に約3年勤続している外国人の男性社員に話を聞いた。日本人社員については「TOEICの点数が低い社員のほうが高い社員よりうまく英語で仕事ができるのを見ている。これはTOEICが実社会でのコミュニケーション能力を反映しておらず、人との接触なしに学べる文法中心の英語を反映しているからだ」と語った。また、社内公用語英語化の動きについては「日本人社員がTOEICの勉強のために就業時間を費やすことに対して、英語を母国語とする外国人に対して反感があるのでは」と話す。優れた人材とは「日本や国際的な職場環境を理解していて、自分の仕事を通じて国際的な社会に貢献する人」と語った。

 さらに、日米会話学院(東京都新宿区)前で社会人受講生や講師に街頭取材をした。8人に取材したところ、社内公用語英語化について、IT関係企業に30年勤続している男性は「日本人同士なのに何でも英語にするのはおかしいと思う」、また金融関係企業に1年勤続している女性は「自分の英語能力が評価されるから逆に良い」と語るなど、意見が分かれた。同学院のライティングクラス講師の津島玲子氏にTOEICについて意見を求めると、「スコアは、語彙・リーディング・リスニング・文法など、大学在学中にどれだけ勉強したかを証明する意味はある。ただ、日常でのコミュニケーション力を測るTOEICの英語と、会社内で使うビジネス英語は違う。が、そもそも仕事で英語を使うのであれば730点では到底足りない」と熱く話した。

 最後に、三菱商事株式会社に取材した。人事部採用チームリーダーの下村大介氏によると、「英語はいくつもある基準のうちの1つ」と話す。例えば採用時には、英語の試験を受けることに加えて、面接やその他試験等の評価を総合的に判断していると言う。内定後は入社までの間にTOEICで730点を超えることを目標としているが、「内定する前から730点を超えている学生が多い」と話した。そして、入社後は「英語を使う部署が非常に多いため、その中で目的意識を持った人が英語を勉強した時にぐんと伸びることが多い」と語った。下村氏によれば優れた人材とは「人に信頼され、人を信頼でき、知恵があって、高い目標へ努力するときに持続力がある人」だという。

 今回取材した人たちは全員「英語は仕事をする上でのコミュニケーションツールの一つ」と話した。近年は多くの企業が社内公用語英語化を発表して、英語力の重要さを強調しているが、ただ英語が得意なのではなく、自分自身の能力を英語を使って発揮できる人材が今求められているのではないか。

企業が求める人材、英語力?
2016/11/26                     愛澤 響(17)

 日本企業がグローバル化する中で、英語スキルは企業の求める人材の必須条件になりつつある。「社内公用語」を英語とし、徹底して英語でのコミュニケーションを促進するほか、採用条件や昇格条件としてTOEIC(国際コミュニケーション英語力テスト)のスコアを提示する企業が増えてきている。また、TOEICのスコアが990点満点で900点以上とれれば100万円の報奨金を一律支給する企業まである(日本経済新聞電子版2013年1月11日)。そのような企業の社内実態はどのようなものなのだろうか。また、グローバル時代に生きる若者は、TOEICのスコアが高ければ、企業に優秀な人材だとみなされるのだろうか。いくつかのグローバル企業社員を取材した。

 はじめに、1999年にルノー(仏)との提携が始まった時に社内公用語の英語化を行った日産自動車株式会社に約13年間勤める男性社員に社内の実態を聞いた。男性社員は「会社では採用条件や昇格条件にTOEICのスコアが定められているものの、あくまでも英語は海外との意見交換のツールとしか思っていない。だから英語が目的ではなく、課題を解決するために自分の言いたいこと、やりたい事を持っている事が大切だ」と語った。

 次に、2012年に社内公用語を英語にすることを宣言した楽天株式会社の社員及び元社員を取材した。楽天は、三木谷社長が社内の食堂のメニューまで英語にし、TOEICの社内基準点が取れないと減給またはクビ、というような徹底した経営策を打ち出し、話題になった。

 公用語を英語化した後の社内の雰囲気はどのような変化があったか、と元楽天男性社員(約3年間勤務)に尋ねると「TOEICのスコアがとれず減給にされ、仕事へのモチベーションが下がる人も多かった。『ここは大事だから、日本語で話します』というように、英語を使うことにより起こる誤解やトラブルを避けるような姿勢が多く見られた」とマイナスな面の意見を述べた。また、「TOEICは、何度も受験すれば英語力は身についていないのにスコアはとれてしまう」という。だから本質をしっかりと追求し、あくまでも英語はツールとして考える必要があるという見解だった。

 また、現役の日本人男性社員(約6年間勤務)は、楽天が社員の英語力向上を図るために、家庭教師や会社での授業、またスカイプでの英会話を格安または無料で受講できるなどの、手厚いサポートを行っていることを教えてくれた。社員に一方的に英語力を求めるのではなく、入社後、TOEICである程度のスコアをとった後でも英語を学び続けられる社内環境づくりがなされているそうだ。

 一方で、現役の外国人男性社員(約3年間勤務)はTOEICの点数が低い社員の方が高い社員よりうまく英語で話したり、伝えたり、仕事ができるのを見てきたという。その理由は、TOEICが実社会でのコミュニケーション能力を反映しておらず、むしろ人との接触なしに家で学べる文法中心で暗記した英語を反映しているからだという。

 それぞれの社内の実態がつかめたところで、実際にどのような目標を持った人が英語塾に通っているのか、10月の土曜日の午後に日米会話学院(東京都新宿区)の前で街頭取材を行なった。取材した8人ほぼ全員が社内公用語英語化に対して肯定的な意見を述べた。彼らは会社の命令やTOEICなどの資格のスコアアップのためではなく、自主的に英語を磨くために通っているそうだ。ほとんどの人が、「自分が今、一生懸命勉強している英語が評価されるのであれば社内公用語英語化は逆にありがたいチャンスだ」と答えた。また講師の津島玲子さんに入社時のTOEICのスコアの基準が730点であることの妥当性について尋ねると、「仕事内で英語を使うのであれば730点では到底足りない」と強調した。また、「TOEICのスコアというのは日常生活での様々な場面で使われる英語の理解力を測るが、必要とされる英語力しか測れないため、企業で本当に必要とされている英語のスキルは、自分の言いたいことがしっかりと伝えられ、一対一の交渉ができる力だ」と語った。ここでも、TOEICのスコアが高いことと、会社内で必要とされている英語力は異なることが分かった。

 最後にグローバル企業としての歴史も長い、三菱商事株式会社人事部を取材した。採用チームリーダーの下村大介さんは、「三菱商事は簡易的な英語のテストを採用時に受けることを義務付けているものの、英語力はあくまでもいくつもある項目の一つだ」と語り、テスト慣れしてしまえばTOEICは点数がとれてしまうこともあるため、「800点900点のレベルになるとその差はほとんど意味をなさない」と話す。また、「心が通じ、言いたいことが言える英語というのは仕事の現場で培っていけば十分だ」と強調した。英語力は人材のスキルのうち最も重要なものではなく、あくまでもコミュニケーションのツールとして便利だから使っているということを一貫して主張し、日本人同士の会話でも無理やり英語を使わせることには否定的だった。最後に「優秀な人材とは、成長するのびしろがあること、すなわち、相互的な信頼関係を築くことができ、常に頭を働かせ、お互いにwin-winになるような状況を作り出せる人、そして高い目標に向かって持続的に努力する力をもった人だ」と笑顔で語った。

 全ての取材を通して、TOEICのスコアによって、英語でのコミュニケーション能力、ましてやその人が優秀であるかどうかは測れないことが分かった。今後ますますグローバル化が進む社会の一員となる子ども達が、自分自身の未来像を描く上で、企業が求める人材のスキルが数字では表せないものであることを知っておく必要があるだろう。

 

 


▲三菱商事取材

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲(右)下村大介氏

 

 

 

 

 

 

 

 


▲街頭取材