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「さわれる検索」って何?
2014/11/30                  村上 類 (16)

  昨年、ヤフージャパンが「さわれる検索」を開発した。ヤフージャパンは日本人の多くの人に利用されている検索エンジンの一つだ。しかし、この「さわれる検索」は名前の通り、ただ検索するだけではなく視覚障害の音声検索によって認識されたデータを3Dプリンターで出力する。そして作ったものをさわって形を認識することが出来る、検索と3Dプリンターを融合させた今までにない画期的なコンセプトだ。

3Dプリンターが世の中になじみ始めた今、実際に活用されている例の一つである「さわれる検索」はなぜ生まれ、また実際に利用者の視覚障害者の人たちは何を思うのか。

まず私たちは「さわれる検索」のプロジェクト責任者であるヤフー株式会社マーケティングソリューションカンパニーの内田伸哉氏に取材をした。そもそも「さわれる検索」誕生の発端はヤフージャパンがインターネットの未来を示す必要があるという使命感からだと内田氏は話す。現在インターネットの検索では情報を「見る」・「聞く」はできるが、五感の中の「触る」ことはできない。内田氏は、そのことが原因で困っている人は目が見えない人であると気付いた。また、「誰も考えたり作ったことがないものを作ったり、世の中の人が驚いて、喜ぶものを作ることが仕事のやりがいにもつながる」と語った。そして「さわれる検索」を開発したことで、目が見える自分では気づかない発見があったそうだ。例えば実際に使用した生徒から出た要望は、「蚊」や「スカイツリー」のように小さすぎたり、大きすぎて触れないものや、実物をさわることができない「竜巻」だった。

Yahoo! には社会貢献を簡単にすることが出来る仕組みがあり、それを活用して「○○の3Dデータを求めています」と出し、様々な企業や団体などからデータを提供してもらってきたことで、多くのものの形を3Dプリンターで出力することができるようになったそうだ。

「さわれる検索」によって想定していない発想がつぎつぎ寄せられ、データの提供により、ますます健常者の人との形に対する認識のギャップが埋められるようになったと感じていると内田氏は言う。世界に負けない技術が日本にあるから、ヤフーがいままでにやったり、見たりしたことのないものを世の中の課題を解決する検索エンジンをこれからは作っていきたいと将来展望を語った。

では実際に「さわれる検索」を使った生徒はどう感じているのだろうか。筑波大学附属視覚特別支援学校高等部3年生の大島康宏さん(18)に取材をした。

 大島さんは立体的な形が簡単にできるのは画期的だと思ったことが「さわれる検索」を使用して率直に感じたことだそうだ。今までは立体のものは学校の授業で使ったことはあるものの、先生たちが発砲スチロールや紙粘土などで時間をかけて作っていたため、時間がかなり短縮されている。中でも蚊はさわれる検索で作ってさわって一番驚いたものだと大島さんは話す。小さすぎて普段はさわれない蚊などは身近なもので一番おもしろいと感じたそうだ。そして蚊の羽の向きや脚の数なども実際に触ってわかったそうだ。これからは「さわれる検索」などで街並みの模型などを作れば、障害者の世界が広がって出かけやすくなるという。

だが、「さわれる検索」には改善してほしい点もあると大島さんは語った。大島さんは現在高等部に通っているが「さわれる検索」は主に小学生が利用しているため、実は先生に紹介してもらうまで自分の学校に機械があることを知らなかったそうだ。それに加え、例えば蝶一つとっても、飛んでいる蝶と花に止まっている蝶では羽の広げ方が違うなどバリエーションが少なく対応できていないところもある。また、実物の大きさの縮小率が提示されないため、比較ができない。例えば恐竜とネコが同じ大きさになっていたりするそうだ。それに加えYahoo! のホームページにある「さわれる検索のデータ募集」も終了してしまったので、データの蓄積が限られてしまったそうだ。

 しかし星祐子副校長によると、当校では、今年度と来年度(予定)、文部科学省の受託を受け、「支援機器等教材を活用した指導方法充実事業」に取り組んでいる。日本全国の視覚障害者や団体からデータのリクエストを募集し、それらのリクエスト等も参考にしながら、3Dデータをデータベース化して公開することにより「さわれる検索」のアプリケーションをダウンロードしたパソコンと3Dプリンターさえあれば誰でも多くのデータから自分が欲しいものの形を作れるようになっていくことを検討しているそうだ。これにより動物の細かい動きから物理の電磁波の仕組みまでを3Dプリンターによって再現することが可能になっていくのではないだろうかと大島さんは語った。

 「さわれる検索」と他の情報をうまく組み合わせることによって視覚障害者にとっても生活で生かしやすいものになるのではないだろうかと大島さんは話す。3Dプリンターによって、視覚障害者が見られなかった形がさわることによってわかるようになったと、それだけを聞くとメリットばかりのように感じるが、障害者の視点に立った政策や事業がこれからも増えていくことを期待する。

「さわれる検索」でみえたこと
2014/11/30                  高橋 優香(16)

  昨年、ヤフー株式会社が新しいプロジェクト「さわれる検索」を立ち上げた。検索がさわれるとはどのようなことなのかを調べてみた。

「さわれる検索」は3Dプリンターとインターネットを組み合わせた構造になっていて、まず音声入力でキーワードを検索し、3Dデータベースにアクセス、最後に3Dデータをプリントアウト(立体化)するという手順で機能する。ヤフーはこの「さわれる検索」を筑波大学に寄贈した。

実際に設置されている筑波大学附属視覚特別支援学校を訪問し、高校三年生の大島康宏さんに話を聞いた。大島さんは目が不自由だが、「さわれる検索」によって「想像していなかったものを手で触ることができ、形を認識しやすくなった」と語る。今までは立体の模型を購入したり、先生が手作りで作っていたのだが、「さわれる検索」の開発により実物の模型を機械で作ることが可能になった。動物の模型など立体のものが簡単に出てくるのは画期的で、形を理解する手間が以前と比べて短時間で可能になった。

しかし利点ばかりではない。作られたモノの手触りがすべて同じであることや縮尺が表示されないなど改善してほしい点はまだまだあるという。また、3Dデータで作れるバリエーションの数には限りがあり、検索物によっては例えば台風や空気などといった形では表せないものをプリントアウトすることができない場合がある。このような場合には、「データを必要としている生徒がいます」といった通知がインターネットを介してヤフー側に伝わり、ヤフーがそのデータをYahoo!のネット上で募集する作業が行われる。こどもたちは「さわれる検索」のモニターの役割も果たしていると言える。

さわれる検索の開発者でヤフー株式会社マーケティングソリューションカンパニーのクリエーティブマネージャーである内田伸哉氏は、「目の不自由なこどもたちに検索結果を音声で表すことができないかと思い始め、最終的に『さわれる検索」を作った」と言う。内田氏は事業の企画を立てる時に企画案を100〜200個も考えるそうだ。なぜ「さわれる検索」のような新しい企画がたくさん浮かぶのかを尋ねると「失敗したものを改良して新しいものを作る行為を繰り返しているうちにたくさんの企画が生まれ、それらをかぶらないように整理していく。人が今までやったことがない方法で人を喜ばせ、世の中の人があっと驚くようなものを作ってみたい」と充実した表情で答えてくれた。

ヤフーのプロジェクトはすでにことし3月で終了したが、筑波大学附属視覚特別支援学校の星祐子副校長によると、「さわれる検索」はこどもたちの声によってその後も進化し続けている。受け継いだのは文部科学省委託事業の「支援機器等教材を活用した指導方法充実事業」だ。今年度と来年度にわたって「さわれる検索」システムに入っているデータと、こどもたちが欲しがっているデータをデータベース化することを計画している。星副校長は「さわれる検索」について、「いろいろな取り組みの延長線上として「さわれる検索」が存在するのであり、いきなり出てきたわけではない」と語る。インターネット企業、検索技術者、プリンター設計者、大学の研究者、視覚障害教育の先生、ユーザーであるこどもたちが様々なアイデアを出し合った結果ではないだろうか。「さわれる検索」をもとに、より改善した装置が普及し、小さなこどもでも使えるような実用的な支援マシンが増えてほしいと願う。

 

 


▲ ヤフーの内田氏と

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲星副校長が「さわれる検索」を説明

 

 

 

 

 

 

 



▲ 「さわれる検索」で出力した動物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ 大島康宏くんに取材