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教育


 

電子書籍時代の紙の本
2011/02/16               曽木颯太朗(18)

 「本は紙でできている」ということは今まで常識であった。しかし去年からその常識が大きく揺らいでいる。電子書籍が実用化段階に達したからだ。電子書籍についての報道が連日のように続いている。書籍通販大手のアマゾンはKindleという電子書籍を読むための端末を開発、アップルも電子端末iPadに電子書籍を読む機能を加えて商品化した。日本でもこの流れに乗り遅れまいと独自端末の開発をはじめ、出版社による電子書籍事業への参入が相次いでいる。かさばらず、置き場にも困らず、いつどこでも入手できる。そうした電子書籍は今まで主役だった紙の本に代わって主役となるのだろうか。電子書籍に関わる業界の方々に話をうかがった。

 まず、日本電子書籍出版社協会(電書協)専務理事の細島三喜さんにお話をうかがった。電書協は既存の出版社による電子書籍出版について検討するための団体である。細島さんによると、今までにも電子書籍が普及されると思われた機会は2度あったが、端末の問題などで大規模な普及には至らなかった。今回こそは本格的に広まる機会だと思い、業界を挙げて検討し始めたそうだ。

 細島さんは、「電子書籍の最大のメリットは本が絶版になることがなくなること」だと言う。これにより、再版費用や売れ残りの処分などのコスト面でのロスが減り、加えて常に流通させることが可能になるため、出版社や著作者にとっても好都合であると言う。

 それでは紙の本は消えてしまうのかというとそういうわけではないと細島さんは言う。電子書籍はまだまだ収益力は弱く、すぐに紙に取って代わることはないというのである。さらに細島さんは「オンデマンド印刷」の可能性に言及する。オンデマンド印刷は読者の注文に応じて1冊ずつ印刷・製本する方法で現在のところコストは安くない。しかし電子書籍の販売において紙の本を所望する客のためにオンデマンド印刷を用いることも多くなるだろうというのが細島さんの考えである。
 
 電子書籍を専門とする出版社であり、去年設立されたばかりの株式会社アゴラブックス取締役の田代真人さんにも取材した。電子書籍の将来について尋ねると、田代さんは、「電子書籍と紙の本の流通が変化するのは20年後かどうか」と言い、「やはり紙の本がすぐに無くなることはない」との見解を示す。またそれは著作者次第だとも言う。著作者が今までの出版形態を選び続ければ紙の本は残るだろうし、既存の出版社も簡単に著作者を手放しはしないだろうと予測している。

 今回の取材を通して、既存の出版社はどうすれば紙と電子を両立できるか、電子専門の出版社はどうやって紙の本に席巻された市場に電子書籍が参入していくか知恵を絞っている姿が浮き彫りになった。取材前は紙の出版の未来は厳しく、電子書籍専門の出版社などでは電子書籍一色の時代を予想しているのかと思っていたが、それは完全に裏切られた。私個人は今でも紙の本に強いこだわりがあり、簡単に紙の本は無くならないという両者の意見はいくらかホッとするものであったし、少なからず驚きであった。

 紙と電子、どちらが良くてどちらが悪いと決めつけるのはおかしい。むしろ重要なことは電子書籍にしても紙の本にしてもそれぞれに適切に使われるべき場面や状況があることを理解することだ。単なる愛着や利益のため、また効率性のためだけにどちらかに統一することは避けねばならない。もっと広い視野に立って利用法を考えることが求められているのではないかと感じた。

未来の本と明日の本
2011/02/16               東 愛美(15)

 「電子出版」が登場し、読み物の概念が大きく変わった。一般の書籍だけでなく、新聞にも電子版ができつつあり、端末さえあればいつでも手軽にタイムリーな情報を取り出せる便利なツールとして使えるようになってきた。出版物の電子化のスピードは、それぞれのジャンルによって異なるのだろうか。
また、様々な便利な面のある電子出版物の登場により、書籍に対する細かいニュアンスが変化してきた。同じように感動する文章に出会った場合でも、紙の本とPCの中にある文章では重みが違うということはないのだろうか。私が大切に思う紙の出版物がなくなってしまう心配はないのだろうか。

 この2点を明らかにするため、今回、三人の方に、電子出版のメリット・デメリット、これからの出版物はどうなっていくのかについてお話を伺った。新聞の電子版を視野に入れているという、朝日学生新聞社の内山幸男代表取締役社長と、株式会社アゴラブックスの田代真人取締役、一般社団法人日本電子書籍出版社協会の細島三喜専務理事・事務局長である。
まず、電子新聞のメリット・デメリットについて意見を伺った。朝日学生新聞社の内山社長は「一般の新聞に関していえば、電子化することで多くのメリットが生まれる」という。そして、「まず、締め切り時間を遅くすることが可能になるので、たくさんのニュースを盛り込める。また、どんどん更新でき、より新しいニュースを伝えることができる。そして、今までその日のうちに新聞を配達できなかった僻地や海外にも、瞬時に届けられる」などをあげた。

 書籍の電子化についても、「保管場所の削減が図れることや、管理や携帯が簡便になる」と話す。また「目の悪い人には拡大できることも大きな利点であり、音声が出る機能は文字の読めない幼児にも楽しみを与える」と話した。教科書等を電子化する案については、「高学年から順次取り入れ、導入を図るのが良いのではないか」と言う。

 しかし、経営面からは危惧しているデメリットもいくつかあるという。経営面からの問題である。まず、新聞が電子化されると紙の新聞の読者が減る。電子新聞からの収入がそれを補うことができなければ新聞社の収入が減ることになる。新聞の製作コストが賄えなくなれば新聞の発行が難しくなる。「アメリカでは次々に新聞社が消えている。しかし、新聞社がなくなるようなことになれば、中立の立場で客観的な意見を世の中に伝えるものが無くなってしまう」というのである

 アメリカで電子出版の市場が大きく伸びたことを受け、将来的に日本でも普及すると確信して、電子出版専門の出版会社を設立したというアゴラブックスの田代取締役は、電子書籍について「一番のメリットは、欲しい時に手に入るということ」と言う。「ハード面での操作について抵抗のある時期もあるとは思うが、人間は慣れるので、便利な方に対応していけると考えている。とはいえ「デメリットは常に端末が必要ということ」だという。

 日本電子書籍出版社協会の細島専務理事も、田代取締役と同様の意見だ。「電子出版は便利、簡単が大きなポイント」だと言う。それだけでなく、「読者に今までよりもはるかに低価格で書籍を提供できる可能性があり、そういった面も含めより手軽になる」と語っている。読者を増やすという面から言えば、それは、作家の方にとっても大きなメリットである。
デメリットとして、デジタル化してある文献から違法コピーが出回る可能性が考えられるが、プロテクトをかけること等で複製を防ぐことができるので、特に問題はないという。

 次に、出版物はこれからどうなっていくのか、ということについてであるが、この点は三人とも意見が共通しており、「電子出版物と紙媒体の出版物は共存していくと思う」ということであった。そして、紙と電子の共存については電子化できる物は電子化すればよく、ジャンルや媒体に応じて使い分ければよいという意見であった。

 出版物の電子化で一つ大きな課題となっているのは、作家の方々の創作意欲の問題である。田代取締役と細島専務理事によれば、「著者に満足のいく印税や環境がないと、電子書籍として発行する作品を作り出してもらえなくなる可能性がある」ということだ。作家の立場になると、作品を盗まれる可能性は高いうえに入ってくる印税は安い、などというリスクを負ってまで、わざわざ電子版に作品を出そうとは思わない。物を書くことを生業にしている方々にとっては、出版媒体をどちらか選べるのであれば、収入も含め環境に良い方を選ぶことになる。この点、アゴラブックスでは、著者の方々に気持ち良く作品作りをしてもらえるように印税その他の点で努力をしているという。

 また、内山社長は紙から電子への移行は慎重に進めていかないと、電子出版には必要ないが紙媒体には無くてはならない印刷会社などの会社が沢山倒産してしまうことになる。紙の本には紙・印刷・輸送等、複数の人手が掛っている。紙の本が無くなってしまった時の経済界への影響は測り知れないものがあるという。

 ただ「現時点では電子化は緩やかに進んでおり、これから長期間、紙媒体と電子版の本が共存していくと思う」と見通しを語った。

 こうして見てくると、新しい作品や情報をいち早く読めることや、低価格、保存スペースも非常に小さくすむことや管理が簡便であること等、出版物の電子化にはたくさんのメリットがあることがわかった。百科事典や図鑑などはよりリアルになり、分かりやすくなってくることだろう。そして徐々に電子書籍は拡大していくものの、紙の本は無くならないという方向性も見えてきた。たとえば絵本などについては、どちらの形を選ぶかは親の選択に任されることになろう。それぞれのライフスタイルや書籍の内容等によって紙と電子を使い分けることができれば、より生活が豊かになると感じる。電子と紙、それぞれの個性を生かした出版の未来に期待したい。


▲ 日本電子出版社協会細島専務理事

 

 

 

 

 

 

 

 

▲ 株式会社アゴラブックス田代取締役

 

 

 

 

 

 


▲ 日本電子出版社協会取材

 

 

 

 

 

 

 

 

▲ 朝日学生新聞社内山社長