働く女性のいま
2008/04/12 原 衣織(16)
現在日本の労働人口の4割は、女性が占めている。子供を持ちながら働く女性も珍しくなく、大企業の役職者として活躍する女性の姿をマスコミなどで目にすることも多い。この国の職場における女性差別はなくなったかのような印象を持っている人も、少なくないのではないだろうか。しかし、内閣府発行の『平成19年度版男女共同参画白書』によると、日本の男性一般労働者の平均賃金水準を100とすると、女性一般労働者の平均賃金水準は66.8だという。また、日本の女性就業者のうち管理的職業従事者は10.1パーセント、全体でみると4.1パーセントと極端に少ない。これで職場における男女平等が真に実現されていると言えるのだろうか。数年後自分たちが社会に出る時に備え、女性が社会に出て働くということの現状を知りたいと思った。
「当時はそれこそ男女は雲泥の差。私も茶碗洗いから始めたわ」。そう話すのは元NHK副会長の永井多恵子氏だ。1960年、NHKにアナウンサーとして入局し、出産後も働く女性が少数だった中、保育所と家庭福祉員を併用しながら二人の子どもを育てた。一人目の子供が幼い時は、理解のある上司に恵まれて、いわゆる日勤にしてもらったが、二人目の子供の時はそのような配慮がなく苦労したという。
では、昔に比べ様々な制度が充実してきたいま、子供を育てながら社会で働く女性をとりまく環境は永井氏の頃とどう変わったのだろうか。
株式会社資生堂は、女子大生の就職先人気企業のランキングの上位を常に占めている企業だが、女性への支援策が充実していることでも有名だ。育児休業取得率は98%。CSR(企業の社会的責任)の一環として、労働者の仕事と生活の均衡を図る「ワークライフバランス」のために様々な活動を行っている。
中でも注目されるのは、資生堂が2003年9月に汐留オフィスの隣接ビルに開設した事業所内保育施設である「カンガルーム」だ。看護師1名を含むスタッフ7名で生後57日〜小学校就学前の子供を預かっており、資生堂の社員以外も利用することができる。設立当初からこの事業に携わっている、人事部参与の安藤哲男氏に話を聞いた。
「男女共同参画を進める上で子育ての支援は不可欠なステップ。保育の場所がないと、女性が産後仕事に戻れない」そう安藤氏は述べる。子供が近くにいるという安心感は仕事への集中に繋がるし、また送迎のため早退する必要がないので同僚へ負荷をかけることも少ないという。
しかし、毎朝、汐留にあるカンガルームまで子供を連れてくるのは子供にとっても親にとっても負担なのではないか。それについて、現在3歳4か月の子供を11か月の時からカンガルームに預けている社員の松本真規子氏は「電車通勤はデメリットでもあり、メリットでもある」と話す。「やはり子供には負担。しかし電車が空いている時は絵本を読んだりするなど、子供とのコミュニケーションの時間としても活用している」と言う。
また、通常4月からしか入所できない公立の保育所と違い入所時期に制限がないため、産前産後休暇および育児休業の期間を調整しやすいということもこのカンガルームのメリットの一つだ。松本氏も、カンガルームはいつでも入所できることを知ったために1年半の予定だった育児休業を1年で切り上げて職場復帰した。資生堂の産休および育児休暇は3年まで習得可能であるにもかかわらず1年のみで復帰したのは、仕事にブランクを作りたくなかったことが理由だという。「最初の1か月はつらかったが、自分が職場にいなかった1年を取り返したいという気持ちの方が大きかった」と話す。
永井氏の時代は産前産後6週間のみだったという出産および育児のための休業だが、現在は多くの企業で育児休業制度が設けられるようになってきた。しかし制度が整っているにもかかわらず早く復帰するという松本氏のような例もある。「制度を利用するかしないかはその人次第であり、選択肢を増やすことが大切」そう安藤氏は話す。様々な働き方があり、選ぶのはその人自身だ。企業にできることは、様々な制度を整えることで「選択肢を増やす」ことなのだ。
今回、育児支援策に力を入れている最近の企業の中でも特に先進的な取り組みを行っている資生堂という事例を知ったことで、自分が社会に出て働く未来に少し希望を持つことができた。しかし、これは日本の企業の平均的な姿ではないことも忘れてはいけない。近年、確かに男女平等は進みつつある。しかし、この現状は、まだ男女不平等が当たり前だった時代に進んで道を切り開いてきた永井さんのような女性たちの大変な努力の成果なのだ。私たちは、彼女たちの努力に感謝しながらも、自分たちでもその道を広げるように努力しなければならない。すべての女性が自分に合った生き方・働き方を、自由に選択できるような未来のために。
何が必要? 女性の社会進出
2008/04/12 三崎 友衣奈(16)
近年、世界中で女性が活躍している姿を見ることができる。日本でも労働基準法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの制定で、行政による女性の社会進出の支援が出来上がりつつある。しかし、女性が働き始めても「男は仕事、女は家事」という日本の古くからの考え方は、社会にまだ根強く残っている面もある。出産・育児、そして夫の転勤などが、まだまだ女性のキャリア形成の障害となっていることは否めない。
私たちは、こうした障害を乗り越えて実際に仕事を続けてこられた女性たち、さらに女性を取り巻く環境整備に努力している企業を取材し、女性が働き続けるための条件や働き易い環境とはどんなものか、考えてみた。
女性の社会進出における最大の障害と考えられる、出産と育児についてNHK元副会長の永井多恵子氏に伺った。氏は1子目の出産時には産休(産前産後休業)と有給(有給休暇)を含め産後3ヶ月、2子目のときには体調を崩し産後3年間の休暇を取った。氏の入社当時は「女性は、会社へ行ったらまずオフィスのちらかっているものを片付けていた」という。そうした古い体質の職場環境の中で、輝かしいキャリアを築いた自身の経験からこう語る。「出産による産休、育休(育児休暇)での仕事のブランクなら、自分自身の努力で埋められる」。上司の理解もあり、育休から復帰直後の短い期間は母乳を与える時間を保障するという意味で特例として認めてもらい、9時半から4時半までの時間で仕事をこなしたそうだ。
しかし、育児については自身の努力ではどうにもならず、保育所、保育ママに頼らざるを得なかったという。「育児中は短時間勤務という形で、母子にもなるべく負担がかからないように仕事をし、しばらくして子育てに余裕ができたらフルタイムで働く、という会社の制度があれば良かった」と話す。「不安定な雇用でなく、しっかり復職できるという保証があれば安心できる」。
また女性が働く上で次に問題となるのが「夫の転勤」だそうだ。今でも、夫の転勤についていくために女性社員が退職しなければならないという状況は多いという。
このような女性の社会進出に立ちふさがる大きな壁をひとつひとつ壊しているのが、女性の力を活かして業績を伸ばしてきた資生堂だ。育児、そして転勤という大きな問題をかかえる女性をサポートし、より安心して仕事に励める環境をつくる努力をしている。
資生堂では、夫が転勤した場合、その転勤先近くの支社に妻である自社の社員も異動させるなどの配慮をしているほか、育児休暇中の社員用にインターネットで行う職場復帰支援プログラム「wiwiw」の実施や、女性向けの仕事の研修「ポジティブ・アクション」の実施、父親のためのワーク・ライフ・バランス塾など、様々なプロジェクトを社会に先駆けて行っている。
「昔から女性の多い会社であり、その女性がよりよい環境で仕事をできるようにしたい」と語るのは、人事部参与の安藤哲男氏だ。安藤氏は資生堂内の保育所『カンガルーム』の設置に携わってきた。『カンガルーム』は事務部門を集結させて実質的な本社機能を担うようになった同社の汐留オフィスに程近い事業所内に、2003年9月に設置された。社員と近隣の企業にも解放し、保育所として活用されている。生後57日〜小学校就学前までの幼児を預かっており、料金は認可保育園と同程度、常駐スタッフ7人のうち一人は看護師と、環境も充実している。
この『カンガルーム』を利用している人事部の松本真規子氏は、3歳4ヶ月の子どもを、生後11ヶ月からこの保育所に預けている。会社に近接した場所にある保育所の存在はとても助かっているという。「子どもを迎えるために職場を出るのは、極端に言えば、お迎え時間の1分前でいい」。一年間の育休後も同じ職場に戻ることができ、復帰後はその期間の仕事のキャッチアップに努力したそうだ。
また、デメリットと考えられるラッシュ時に子どもを連れて通勤することに関しては、利点にもなりうると話す。「一番のラッシュ時を避けて『カンガルーム』が開く8時くらいに到着するよう通勤している。仕事をしているとどうしても子どもとのコミュニケーション不足になるから、電車内での子どもとの会話は貴重な時間だ」という。
安藤氏によると、産休・育休などの長期の休暇はそれほど取りにくいものではないという。「長期の休暇の場合は年単位の休みになるから社員の気負いは少ない。逆に毎日早い時間に仕事場を抜ける短時間勤務の方が気になる人は多い」。
先の松本氏も、「退職することなど考えもしなかった。休みも、社員同士で互いにサポートしてきたからこそ取りやすい」と語る。松木氏は妊娠したと分かった時点でどのくらい育児休暇を取るか上司と話し合ったほど、職場の雰囲気は出産後も働き続けることが当然だと思えるものだったと言う。こうした良好な人間関係がそれぞれの負担を軽くしているようだ。
女性の社会進出に立ちふさがる出産・育児、夫の転勤という問題は、会社・社員の積極的な協力によって軽くできることがわかった。しかし、全ての女性が必ずしもそのような恵まれた環境にいるとは限らない。ここで、永井氏の言う「夫の協力」が特に大きな支えになることは言うまでもない。安藤氏は「私たちは女性が働き易いための選択肢を広げている。その中でどれを選ぶかはその人次第」と、女性の社会進出は働く環境だけではなく女性自身の問題でもあると話していた。いくら環境が整っていても、本人が何もしなければ何も変わらない。環境ばかり求めるのでなく、自分の力を信じて努力することも大切ではないだろうか。出産・育児を経ながらキャリアを継続する中で永井氏、松本氏が持ち続けていた「向上心」は、とても魅力的だった。
女性の社会進出 〜脱一般論宣言〜
2008/04/12 畔田 涼(17)
女性の理想のライフコースは時代とともに変化している。結婚し専業主婦になり、育児をすることが理想とされた時代もあった。現在では、仕事と子育ての両立を望む女性も多い。社会に進出しバリバリと仕事をこなす女性が、女性にとっての理想像としてマスコミに取り上げられる機会も増えた。朝日新聞社が2006年に実施した全国世論調査によると、女性も外で働くべきだと考える人は、全体で77%に達するとの報告が出ている。また法的にも、1999年の改正男女雇用機会均等法の施行をはじめ、性差別が禁止規定になるといった整備が進む。「女性が働きやすい会社は業績も良い」というデータもある。
しかし日本はまだ「M字型労働力率カーブ」を描いているのが現状だという(注1)。原因は何なのか。この状況は私たちが将来、社会に進出するときには改善されているのだろうか。それを知りたいと思い、取材を行った。
まず、今とは全く社会情勢が異なる1960年代に就職し、2度の出産を経て仕事を続けてこられた元NHK副会長である永井多恵子氏にお話を伺った。永井氏は夜7時のニュースキャスターといった、男の聖域に進出してきた女性だ。永井氏の職場では当時、妊娠した女性社員が会社をやめるとき「久しぶりに良い知らせを聞いた」という社員の皮肉もあったという。周りの同僚が結婚、出産で退職していくなか、自分には仕事が向いているという思いで、育児と両立しながら仕事を続けてきた。「苦労と思うかどうかはその人次第よ。育児によって包容力もつくといったプラスの面もある」と語る永井氏だが「子どもがまだ赤ちゃんだった頃、母親である自分の顔を覚えてなかった時は悲しかった」と母親としての苦労を語る。
一方、現在では育児休暇の取得率が98%にものぼるという企業でも話を聞いた。資生堂だ。資生堂は社員の7割、顧客の9割を女性で占めている。「女性の活用が業績向上に繋がる」という理念のもと、男女共同参画をCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)として取り組んできた。その結果、M字型労働力率カーブは解消され、子育て中でもキャリアを継続できるようになったという。
育児休暇を取得したことが、キャリア評価に響くことはないのだろうか。これに関して、資生堂人事部の安藤哲男氏は次のように述べた。「資生堂では、育児休暇後は原則として以前と同じ職場に復帰できます。また、休暇中を評価に入れないなど、出産がキャリアに響かないようにしています」。
また、数年間のブランクがあった後で復帰後すぐにキャッチアップできるのかという疑問に対しては、1年間の育児休暇経験者でもある同社の松本真規子氏はこう語る。「育児もしなくてはならなかったので、最初の1ヶ月はつらかった。でも、自分が知らない1年があることが悔しくて、早くキャッチアップしたい気持ちが大きかった」。
また、女性の社会進出に先駆的な取り組みを進める資生堂では、核家族の増加といった時代の流れを受け、事業所内保育施設「カンガルーム汐留」を設置。革新的な取り組みとしてメディアに取り上げられた。一方で、子どもを連れての通勤に疑問の声も上がったが、先の松本氏は「子どもを連れての電車通勤はつらい。でも、通勤時間に子どもとのコミュニケーションを取れるのは、働く母親としては嬉しい」とデメリットをメリットとして捉えている。
働く母親にとっての問題は育児だけではない。大きな障害となっているのは「夫の転勤」だ。資生堂では 「夫と同一地域への異動制度や、夫の転勤中は休職できる制度」を平成20年4月以降、導入していく予定だ。この新しい選択肢設置により「夫の転勤による有能な女性社員の流出を防ぐ」ねらいだ。
時代とともに、考え方は変化している。女性の社会進出には様々な考え方が存在する。人によって選択が異なるのだから、答えは一つではない。一人一人が、自分にとっての正解を選択できるような環境をつくることが必要であり、それが今後の課題だ。
働く女性にとって選択肢が拡大されることは嬉しいことだ。選択肢が増えれば、働きたくても働けなかった層が動き出し、M字型労働力率カーブは改善されるのではないだろうか。しかし「女性自身が権利を主張するばかりではダメ。自分自身が努力しなければ、女性の社会進出は一般論のままで終わってしまう」と資生堂の安藤氏が述べるように、自分自身の考えを持って行動しなければワークライフバランスの実現は不可能だろう。
私たちが社会に出て働く頃には、男女に関係なく、全社員のワークライフバランスを実現できるよう、企業や行政には努力してもらいたい。そして、私達自身も会社に必要とされる人材になるべく努力しなければならない。そのためには、永井さんや松本さんのように、仕事に対する熱意とポジティブな考え方が大切なのだと感じた。
注1 M字型労働力率カーブ:女性の年齢別労働力率をグラフにすると、出産・育児期である30代前半を谷底としたM字型になる。欧米ではすでに台形となっているが、日本ではM字の多少の底上げはあるものの、出産で退職し子育て後に再就職というライフスタイルが依然として主流を占めている。この就労パターンは女性のキャリアを中断させることで男女の賃金格差につながっている(AERAムック『ジェンダーがわかる』2002年3月より)。
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