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社会

昭和史映す建物取り壊し?―住民が反対運動―
2002/11/10                       今井春衣(16歳)

皇后陛下美智子さまがお輿入れまで過ごされた旧正田邸が取り壊される。正田邸は、昭和の初めに美智子さまの父・英三郎氏によって建てられた。当時としては大変珍しいモダン建築のひとつ。「そんな歴史ある建築物を壊そうとしているんですよ。更地の方が高く売れるからという理由で」と「5丁目の環境と文化を守る会」代表の住威久雄さん(70)は今年の夏から反対の運動を始めた。

「最初は草ぼうぼうで、それを何とかしてもらいたいと思っていたんです」。その時は近所の住民数名による小規模な活動だったが、10月の初めに取り壊しが決まった時から約10名で署名運動を始めた。「取り壊してしまうのは簡単なんです。でももう一度建て直そうとしたら、いくらお金をかけても、もう同じものは作れない」と住さんは言う。

この数日間、正田邸の前には建物を惜しむ人たちが、北は北海道から南は九州まで全国各地からつめかけている。なかには若い人や子連れの家族もここを訪れ、署名に参加している。署名の数も日に日に増していて、11月9日までに約5万人もの人が取り壊しに反対する署名をした。小規模な一般住民が立ち上げた運動が日本中に広まった。

着工日を目前に控えた8日、取り壊しを請け負っていた業者が工事の辞退を申し出た。
当の美智子さまは、「住民のみなさんの気持ちをありがたく思いますが、私はこだわっておりません」と、反対運動にちょっと当惑気味である。

しかし、「5丁目の環境と文化を守る会」は最後まで活動を続ける考え。これからどうなるか。歴史的な建物の取り壊しはなかなか難しい問題だが、私たちが大人になったとき、古い建物がなくなり、高層ビルとマンションというどこにでもあるような風景だけが残ったら、私たちはどうやって後世にその歴史を伝えることができるだろうか。