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若者の改革で変わる農業

米山菜子(15)

 若者にとっての農業。それは、一度はやってみたいと憧れはあるものの、将来の夢の選択肢には入りにくいものである。
現在、農業就業者の平均年齢が1年に1歳ずつ上がっている。計算上は新しい若い人が新規参入しないまま農家の高齢化は進んでいることになる。では、身近で魅力的に感じられる農業とはどのようなものだろうか。若者の目線を持った後継者として新しいスタイルの農業を展開する3人に話を聞いた。

 お茶としいたけを生産・販売する「貫井園」(埼玉県)で働く貫井香織氏(34)はコンサルティング会社とPR会社で働いたあと、両親の経営する貫井園に戻ってきた。貫井氏は新聞に毎朝丹念に目を通す。販路を探すためだ。そして、何か可能性を感じる記事を見つけたらすぐに電話をする。会社員時代に身に付けたスキルだという。貫井園のホームページには、お茶やしいたけの選び方、健康効果や料理のポイントを載せている。貫井氏は女性であることや会社で得たことを農業に生かした。

 次に、農家の後継者を中心に支援するNPO法人「農家のこせがれネットワーク」代表理事であり、「株式会社 みやじ豚」(神奈川県) 代表取締役の宮治勇輔氏(34)に話を聞いた。宮治氏も一度企業に就職したが、実家の養豚業が気になり、実家に戻ることを決意した。そして、幅広い人脈を生かし様々な知り合いをバーベキューに招き実家の豚を口コミで広げた。社会で学んだビジネスや人脈を使って実家の豚をブランド化した。

 千葉県の實川勝之氏(32)はパティシエの道に進んだが、その後実家の農家に戻った。そして株式会社アグリスリーを立ち上げ 代表取締役となった。實川氏は実家の野菜や米の栽培だけでなく、パティシエの経験からケーキのような甘味の果実を栽培しようと梨園を作った。

 それを「全て同じ形をしたケーキを表現した梨園」 と紹介した。実際に千葉県横芝光町にある梨園を訪れてみると、確かに木はショーケースに並ぶケーキのようにどこから見ても美しく一直線に並び今までの梨園のイメージを覆す。現在は自ら作った梨でスイーツの試作もしているという。こうして實川氏はパティシエの経験を農業に生かした。

 農家の後継者に対し、養豚業の宮治氏は「実家を継ぐにしても一回社会に出るべき」と語る。ビジネス界で様々なノウハウを得たうえで実家の農業に付加価値をつける。様々なスタイルの農業があるなか、それがとても大切な財産となるそうだ。

 農家に生まれた後継者と、都会で生まれ育った若年層の新規就農者。ともに農業をする若者であっても環境は大きく違う。後継者には親から受け継いだ土地、機械、地域の人付き合い、生産や販路のノウハウなどがあるが、新規就農者にそれがない。

 これらのことは、農業をする上でとても大変なことであり新規就農者には厳しいスタートになると宮治氏は言う。そのため、「新規就農者を増やす必要はない」とさえ言った。やみくもに新規就農者の数を増やすよりも1人でも多く、優秀な後継者がいた方が農業全体には好結果をもたらすのだという。

 農業の新しい流れもある。前述の元パティシエ、實川氏は会社を大規模経営にして、農業に興味のある若者たちを雇用している。農業会社で働くことで、環境やノウハウは實川氏が持っているものを使うことができるし、いずれ農家として自立するとなったときにも条件は良い。實川氏は、近隣の農家の高齢者たちから耕作地を任されている。これらを休耕地にしないためにも、従業員たちを自立させ耕作地を与えて独立させようと計画している。

 實川氏のこのフランチャイズのシステムは、宮治氏が指摘する新規就農者の厳しい状況を解決できるかもしれない。おそらく、いま必要とされているのはこのような農業スタイルであり、農業をしたいと思う若者の手助けをしてくれるだろう。

 一昔前は農業には生産するというイメージしかなかった。しかし、今の農業は若者の手によって付加価値をつけた農業へと変化しつつある。手間ひまかけた、品質の良いこだわり抜いた農産物を提供し、オンラインショップやオーナー制の販売などが始まっている。言い換えると、ただ生産するだけの場ではなく生産から販売までを一貫してプロデュースする農業になりつつある。
 
 「農業はビジネスだ」 宮治氏のこの言葉は農業の新しいスタイルを表している。

宮治氏にインタビューする記者たち
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これからの農業「こせがれ」という新しいカタチ

南雲 満友(17)

梨園「みのり園」で説明をする實川氏

 農業という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。ともすれば農業は「きつい・汚い・かっこ悪い」いわゆる3K産業として考えられてきた。都会へ出て働く若者は田舎には戻らず、農家は高齢化の一途をたどっている。その一方で、農家の後継者である「こせがれ」が、親の農業に付加価値をつけて継ぐという新しいスタイルが注目を集めている。

 宮治勇輔氏(34)は、一般企業に勤めた後、神奈川県にある実家の養豚業を継ぎ、「みやじ豚」というブランドを成功させた。バーベキューイベントを定期的に開催し、口コミによって豚肉の品質に対する信頼を獲得し、消費者を拡大してきた。NPO法人「農家のこせがれネットワーク」を設立し、代表理事を務めている。宮治氏の目標は近い将来、農業が「かっこよく・感動があって・稼げる」3K産業へと成長させることだ。小学生の就職人気ランキング1位をめざし、活動を続けている。
 
 宮治氏は「こせがれ」が実家の農業を継ぐ利点について、「新規就農者は農地や農機などにコストがかかり、販路を自ら探しださなくてはいけない。一方、こせがれは土地も機械もあり、そのうえ地域の人とのつながりがある。こせがれが実家の農業を継ぐことが一番だと思う」と語った。また今は規模を拡大できるチャンスだという。「こせがれ」が農業を継ぐことで、ビジネスで培ったノウハウを実践できるという。

 實川勝之氏(32)は、父親の怪我がきっかけでケーキ・パティシエを断念し、千葉県の実家に戻った。米や野菜作りを続けながら、パティシエの経験を生かし、新たに梨の栽培を始めた。同氏は自らの梨園を「工房」と呼ぶ。「ショーケースに例えて、工業製品のようにクオリティーを統一することを目指した」という。様々な新種の梨を一つの木に接ぎ、ショーケースにあるケーキのように配列し、美しく栽培することで付加価値をつけた。顧客が好みに合わせて木に接ぐ梨の種類をカスタマイズできるオーナー制度も確立している。また株式会社を設立し、農業に興味のある若者を雇い、独立できる実力がつけば農地や農機、ノウハウを提供するというフランチャイズ方式で農業経営を続け、農業と地域の活性化を目指している。

 埼玉県のお茶・椎茸農家の三代目、貫井香織氏(34)は、ベンチャー企業でキャリアを積んだ後、実家に戻った。「社会でビジネス経験を積んだことが、今農業に生かされています」と自信をにじませて語る。プロジェクトの立案の方法や、新聞を毎朝読んで、販路に繋がる情報を目にすると、すぐに電話をかけるという習慣は、会社勤めの経験が役に立っているという。商品開発では女性の視点でのアイデアをカタチにしているそうだ。

 既存の事業に付加価値をつけていくには、新しいアイデアと実行力が必要だ。その点で三氏は、ビジネスの経験を農業経営に生かし、新しい農業のスタイルを構築していると言えるだろう。今、日本は食糧自給率が40%を切り、TPP問題など大きな変革の時を迎えている。宮治氏は「農業も今までの仕組みが崩壊している。新しい方法で僕たち“こせがれ”から現場を変えなければいけない」と語った。 農業に新しい風をもたらす「こせがれ」たちの今後の活躍に目が離せない。

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