富沢 咲天(14)
16日の午前9時、私たちはコペンハーゲンのホテルから地下鉄に乗り、ベラセンター 駅で降りた。電車を降りた瞬間から、私の額にちくちく冷たい風邪が当たるのを感じた。
そこにはもう会場に入るパスをもらうための長蛇の列ができていた。
3時間過ぎたお昼の時点で、足のつま先がじんじんと痛くなってきた。それでも周りの人たちは懸命に待ち続けた。ある女性は疲れたためか、凍りついた大理石のような地面に座り込んでいた。
私たちの後ろに並んでいた経団連(経済団体連合会)の女性は、「私は毎年COPに来ているけど、こんなに待たされるのは初めてだわ!バリでもこんなに待たなかったし、ケニアでさえ1時間で入れたのに!!」と文句を言っていた。周りの人たちも、寒いなか長時間待たされてだんだん不機嫌になってきた。
5時間経過した午後2時の時点で、警官がメガホンを片手に持ちながら叫んだ。「機械の故障のため、1時間に15人しか入れない。フェンスの中にいる人は3時間、フェンスの外側にいる人はあと6時間かかる。」と言われた。私たちはフェンスの外側にいて、もう絶望的だった。しかし、今日パスをもらわないと、明日も入れない。はるばる日本からCOP15のために来たのだからなんとしても中に入りたい。その強い意志で、もうしばらく並ぶことにした。 そんな中、ある団体が無料でコーヒーを配っていた。風力発電で沸かしたお湯で作られたコーヒーだという。寒くて疲れていたせいもあるが、温かく香ばしいそのコーヒーは普通の喫茶店などで販売しているコーヒーよりはるかに美味しく感じた。 また、長時間待っている人たちのために、サンドイッチを配っていたNGO団体もいた。この団体は、「C02の排出量の40%は畜産業が占めており、1ヘクタールあたり牛を育てて食べるより、作物の方がより多くの人が食べることができる」というデータをもとに、「ベジタリアンになろう!」と鶏の着ぐるみを着てアピールしていた。 さすがCOP会場の周辺だけあって、いろいろな団体がそれぞれの手法で温暖化防止を訴えている。 7時間が経ったころ、会場からチラシが回ってきた。そこには「長い間お待たせして申し訳ありません。会場は収容人数を超えて大変混雑しております。中の人たちが出てくるまで、お待ち下さい。」と書いてあった。これを読んだ人たちは皆激怒した。なぜなら、会場内にいた人たちは続々と出て行っているのに長蛇の列が全然進まないからだ。人々は「Let Us In!」などと叫び始めた。 私たちが並んでいる間に、6人の韓国人メディアグループに会った。彼らも私たちのように何時間も待たされていた。「メディアでさえ入れないなんておかしい!」とかなり怒っていた。大きなテレビカメラをかついでいる人がちらほらいたのは、NGOだけでなく、メディアも入れなかったのだ。
8時間経ったころ、NGOとメディアに分けられた。そしてメディアは少しずつ中へ入っていった。しかし、NGO側は何も動かない。前に進んだ!と思ったら、みんなが横に広がっただけだったり、前の人との間隔が段々狭くなっていた。最終的には、東京の朝の電車の通勤ラッシュ並みにぎゅうぎゅうになった。そして、人々は「Shame On UN !」などと叫び始めた。
結局、入場は午後6時で締め切ると言われ、私たちは5時半に泣く泣く引き上げた。
これはある意味象徴的な出来事だったと思う。COPの主催者側はこれほど今回の会議に多くのNGOが来るとは予想していなかった。しかしCOP15は京都議定書の次の枠組みを決める大事な会議だ。地球の未来を決める会議になるかもしれない。だから世界中の人々は真剣に温暖化のことを考え、そして自分たちの声を各国の政府の代表に伝えようとこの会場に集結した。結局会場に入るパスは手に入らなかったけれど、何千人もの人たちの温暖化防止に対する熱意を目の当たりにしたことで、私はなんだか頼もしい気持ちになった。