熊本の慈恵病院が捨て子を救済するために設置した「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)。設置をめぐり賛否両論議論されているなか、2007年5月10日から運用が始まった。 このような施設が全国的に広まったら、簡単に自分の子どもを捨ててしまうのだろうか? |
藤原沙来(17)、畔田涼(16)、曽木颯太朗(15)、佐藤美里菜(15) 川口洋平(17 司会)
2007/08/13
洋平:「赤ちゃんポスト」(こうのとりのゆりかご)が熊本の慈恵病院に設置されました。このことについてどう思いますか。
沙来:「赤ちゃんポスト」ができたことは賛成です。慈恵病院では後で連絡をとれるようなポストカードが置いてあり、フォローができる状態になっているようなので、きちんとしているのではないかと思います。基本的には自分の子どもは自分で育てなければいけないのだから、親の責任という考え方を植えつけるようなことは必要だと思います。
涼 :私は「赤ちゃんポスト」には基本的に反対です。生んでから「やっぱり育てられない」という人を対象にしているのだったら、それは単に育児放棄を助けている。できるだけ自分で育てられるように、例えば慈恵病院がしている無料電話相談などをする施設をもっと増やした方がいいと思います。
颯太朗:僕は赤ちゃんが親の育児放棄で死んでいってしまうよりは、捨てられても生きていけるほうが幸せなんじゃないかと思います。
美里菜:虐待されて生きていくよりは、「赤ちゃんポスト」に捨てられるほうが幸せなのかもしれないけれど、生きていくために預けられた子どもの精神面を考えると、私は反対です。それに「赤ちゃんポスト」があることによって、今の若者の多くに、簡単に育児から逃げられるという甘えが生まれるのではないかとも思うし。
■「ポスト」という呼び名
洋平:「赤ちゃんポスト」があるから育児放棄をしようと思うのか、なければ「しょうがないや」と頑張っていくべきなのか?
颯太朗:「赤ちゃんポスト」ができて、簡単に育児放棄をしてしまう親だったら、「赤ちゃんポスト」がなければ頑張る親だとは思わないけど。
美里菜:「赤ちゃんポスト」に預けるというと、ほんとに「ポスト」に入れるだけって感じですごく軽い気がして。
洋平:「ポスト」っていう名前がいけないのかな?
美里菜:それもあると思います。
洋平:もとは「こうのとりのゆりかご」っていう名前なのに、メディアが勝手に「赤ちゃんポスト」って報道しているのですよね。
美里菜:「ポスト」といわれると、いらない物を投函するような感じがするので、「赤ちゃんポスト」自体は悪いとは思わないけれど、報道の仕方に問題があると思います。
洋平:もしかしたらこの「赤ちゃんポスト」が今後全国に広がるかもしれない。
颯太朗:今は熊本にあるので、東京からそこまで行くってことは「気軽」ではないと思いますが、東京にあったら結構気軽に行っちゃうような気がするのですけど。
美里菜:東京から遠いから簡単じゃないって言っていたのですけど、メディアの報道を見ていると、簡単だなと思います。
颯太朗:そうかもしれない。だから「赤ちゃんポスト」は最終手段として使ってほしい。
涼 :緊急避難の措置なのだよ、というのをみんなが理解すれば「赤ちゃんポスト」はいいのかなと思うんですけど、この趣旨を理解している人が少なすぎるから、今のままだったら全国に広まるのは怖いと思う。
沙来:まだ熊本にしかないし、実験段階で実際に 3 ~ 4 人しか入れられていないし、現状を考えるとまだ親の責任を問う時間というのはこれからでも間に合うと思うし、新生児を入れて匿名性を生かすという意味では「赤ちゃんポスト」がある価値はあると思います。
涼 :匿名性って?
沙来:親の名前もバックグラウンドも全て伏せて、赤ちゃんが新生児として扱われること。 孤児院とかの施設に入ると親の戸籍とかを調べようと思えば調べられるし。後々そっちの方がつらいのかなと私は思います。
■預けられたら実の親を探しにいくか?
洋平:今度は子どもの観点から見て、もし自分が赤ちゃんだったら、どれが一番幸せだと思いますか。
沙来:私は虐待というのに耐えらないので、里親に出してもらってきちんとした教育が受けられるように導いてくれる環境にあればいいかなって思います。
涼 :虐待されているよりは、できるだけいいお家に預けられた方がいいと思うんです。生まれて数週間の時に預けられた方が里親の愛情も違うと思うので、できるだけ早く預けてもらって、でも戸籍は元の親がわかるようにしておいたほうがいいです。
颯太朗:虐待されるよりは里親に出してもらった方が幸福だと思うんです。
沙来:自分の中で親というものが存在していて、里親に預けられるのはすごくつらいと思う。「赤ちゃんポスト」に預けるのはたしか生まれて二週間以内と決まっているので、生まれてすぐちゃんとした環境の中で育てられる方が、その子にとっては恵まれた環境になると思います。
洋平:実際預けられたら、将来実親を捜しにいくとおもいますか。
美里菜:施設に預けられたら私は絶対親を捜しにいきます。
颯太朗:僕は将来自分を捨てたような親は捜さないと思います。
洋平:親は子どもが厄介で捨てて、幸せな家庭を築いているかもしれない。そういうところにいきなり「あなたの子です」とやってきたら、親にとって迷惑じゃない?
美里菜:それもあると思うけど、子どもの立場でいえば、そんなことより他の思いの方が先にたつし。迷惑といったって、親には少なからず責任はあるわけだから、捜しにいってはいけないという意見には私は反対です。
沙来:将来、親を捜そうと思うときに、別に親に会って何かしてもらおうという気はないと思います。親にしても「今さら会ってどうするの?」という感じだと思うし。親子関係が一度切れたのだから、それをお互いが認識して会ったところで何も進展しないと思います。養子として育てられたことを認識することは大事かもしれないけれど、親を捜すことは別に重要視しなくてもいいと思います。
美里菜:もし私が里親にちゃんと育てられたのであればきっと里親にすごく感謝するし、もとの親に戻りたいとも思わないけれど、やっぱりどこかで本当のことを知っておきたいというのがある。知りたい人がいれば知ることができるようにしたほうがいいんじゃないかなと思います。
洋平:今海外に養子としてだされる赤ちゃんの親たちは厄介だからと自分の名前を知らせないことが多いらしいんですけど、親の名前とかは知らせるべきだと思いますか。
美里菜:赤ちゃんのときに預けられて何も知らないまま育っていたなら、知らないままのほうが幸せかもしれないけれど、もし気づいていたら、本当のことを教えてあげた方がいいと私は思います。
洋平:「赤ちゃんポスト」に捨てるにしても親がちゃんと身元を明かして捨てる制度を作らないといけないとか。
美里菜:その方がいいと思います。
涼 :親権放棄の手続きとかがされていないと里親にスムーズに行けないのだったら、「赤ちゃんポスト」でも親が名乗り出て、ちゃんと里親にスムーズに行けるまで見守るという親の責任を果たすようにする。
■「赤ちゃんポスト」を利用する?
洋平:もしみなさんが妊娠して赤ちゃんをどうにかしなければならない立場になったときに、どうしますか。「赤ちゃんポスト」を利用しますか。
美里菜:わからないけれど、ほんとうに大変だったらたぶん「赤ちゃんポスト」に入れてしまうと思います。身近な問題ではないのでよくわからないのだけど・・・・・・。「赤ちゃんポスト」がなかったら、後で親がわかるような施設に入れて、その結果、あとで自分に何か責任がかえってきてもしかたがないと思う。
沙来:「赤ちゃんポスト」に賛成ですけど、自分が使うかといったら、絶対使わない。私は親の責任を絶対とるべきだと考えているので、児童相談所とかに行って里親に出すなりすると思います。そして親として自分の子どもがどこにいるのかは把握しておきたいし、子どもも自分の親がどこにいるのかをわかるような環境にしておきたいです。
涼 :もし私が妊娠したら、たぶん中絶しちゃうと思うんです。たとえ「赤ちゃんポスト」に入れようと、孤児院や里親に預けようと、生んだという事実が、自分の中でずっとつきまとう感じがするので。もし生まなければならないのだったら、ちゃんと里親にスムーズに行けるようにしてあげるし、「赤ちゃんポスト」を使うにしても親が最後まで責任を持つべきだと思う。
美里菜:特別な事情があったら私だったら涼ちゃんや沙来ちゃんのようにきちんとした考えをもてないと思います。それだったら本当に逃げるというか「赤ちゃんポスト」に頼ってしまうと思う。もし「赤ちゃんポスト」がなかったら、それはないだろうけれど。
洋平:やっぱり「赤ちゃんポスト」があると思うから、簡単に逃げるんだ。
美里菜:選択肢として簡単な方が。「赤ちゃんポスト」はただ赤ちゃんをポストに連れていくだけじゃないですか。そういうものが選択肢の中にあることはすごい反対ですけど、もし自分がそういう立場になったら使ってしまうかもしれない。
洋平:他の人もみなそういうふうに思っているのかな?
美里菜:人それぞれだと思うけれど、レイプされて生まれた赤ちゃんだったら「赤ちゃんポスト」に持っていくだろうなと思います。
沙来:私はたとえレイプされて生まれても、自分の体の中に存在している命、まだエコーなんかで見えなくても、殺されちゃうのは絶対に許されないことなので、中絶はしないし、どんなに嫌いな人の子どもでも育てたいと思います。
涼: 私だったら、どんな子でも自分に責任がもてないのだったら、生むべきじゃないと思う。今もし妊娠したら、責任をもって育てる自信がないから、生まないと思います。
洋平:それじゃあ、これまでの討論を通じて改めて聞きたいのですが、「赤ちゃんポスト」はあったほうがいいと思いますか?
涼: 私はどんな場合でも「赤ちゃんポスト」というのは基本的に反対です。「赤ちゃんポスト」イコール「簡単に赤ちゃん捨てられる」という認識が強すぎて。慈恵病院の理事長がいったみたいに「これは緊急措置なんだ」と、それで「母親が名乗りでてくれた方がいいんだよ」という趣旨が一般に伝わっていないんだったら、やっぱり「赤ちゃんポスト」を設置するべきでなかったんじゃないかと思います。
沙希:実際にそれを利用している人がいて、その人たちは私たちが想像している以上になんらかの事情があるのだから最終的な手段として使うのなら「赤ちゃんポスト」があることは賛成です。それに「赤ちゃんポスト」に気軽に捨てられるというふうに考えてはいないと思う。ただ、これ以上日本国内に増やすことは反対で、とりあえず、今は現状維持で、何らかの事情のある親に対しては「逃げ道」として必要なのじゃないかと思います。
美里菜:最初は「赤ちゃんポスト」なんてない方がいいと思っていたけれど、みんなの意見を聞いていて、私の知らない想像を絶する事情があったりしたときは、あった方がいいかもしれないと考えるようになりました。だけど設置した趣旨が一般にどれだけ伝わっているかで、「赤ちゃんポスト」の意味が大分変わってくるんじゃないかと思います。