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教育


 

日本のシングルマザー家庭
2017/10/29                     須藤亜佑美(17)

 日本のシングルマザーは極めて勤勉だ。実際、厚生労働省によると、母子家庭のシングルマザーは8割が就労している。先進国が集まる経済協力開発機構(OECD)のデータをみると、同加盟国におけるシングルマザーの平均就労率は6割強であり、日本の女性全体の就業率が5割(総務省「労働力調査」)である現状を大きく上回る。また、母子家庭の平均的総所得は年間254万円で、児童のいる一般世帯の平均的総所得の36%にしか届かない。結果として、母子家庭が85%を占める「ひとり親世帯」の相対的貧困率は50%にも及ぶ。どうして母子家庭の多くが貧困に陥ってしまっているのか。そして、今後母子家庭をサポートし、母子家庭の子供たちも貧困に困らないようにするには何が必要なのだろうか。取材を通してこれらの質問の答えを模索した。

 そもそもどうしてシングルマザーになるのだろうか。國學院大學経済学部の水無田気流教授は、「離別シングルマザーが離婚に踏み切った最大の動機は、『夫の存在が子どもにとってマイナス』と判断した点である」と著書の『シングルマザーの貧困』で書く。実際、最高裁判所の「司法統計」(2012年)によると、夫が妻へ離婚を申し立てる動機は、1位が「性格が合わない」(62.6%)で、2位が「異性関係」(15.9%)と精神的な問題が大きいのに対し、妻から夫への離婚の申し立ての理由は、1位の「性格が合わない」(45.6%)のつぎに、2位「暴力を振るう」(27.2%)、3位「生活費を渡さない」(25.3%)、4位「精神的に虐待する」(23.3%)など、家庭内暴力(DV)や生活費などが上位にくる。これに関して、水無田教授は「気持ちの問題で離婚を決意し得る男性に比べ、身体的・経済的に『実害』を蒙らないとなかなか離婚には踏み切れない女性の立場が浮き彫りになっている」と指摘する。もちろん、自らの精神的な理由や選択でシングルマザーになった女性も大勢存在する。しかし、やはりシングルマザーの多くは「自己決定権」に基づいて離婚をしているとは言い難いのが現状だ。

 なぜ日本の母子家庭の平均総所得は一般世帯の36%にしか及ばないのだろうか。「母子家庭の貧困問題は経済的庇護者とされている父の後ろ盾がなくなって、全面に出てきた問題だ」と水無田教授は説明する。これはどういうことか。日本は男性と女性という性差(英語でいうジェンダーセグリゲーション)が先進国の中でも突出して大きく、特に日本では子どものいる女性は、フルタイム就労者同士を比較しても、同年齢層の子どものいる男性と比べ、4割にも満たない賃金水準となってしまう。だから、家族の大黒柱である男性がいないと、経済的に困窮してしまう可能性が急に高くなる、ということだ。インタビューで同教授は「端的に言って、日本では当人の特性や個性よりも、男性女性といった性差がライフコースに与える影響が大きすぎるんです」と話す。

 なぜ子供のいる大人の間では、性差によって所得の著しい差ができるのだろうか。水無田教授は、日本の雇用形態と社員の評価基準に要因があると言う。「日本の企業では、まず新卒採用される際に、契約書にも職務上の細かい規定がなく、いわゆる総合職は勤務の内容や時間、勤務地などが無限定である点が特徴です。つまり「雇った正社員に対して仕事をつけていく」んですね。だから、ジョブ(仕事)に対して人を募集してつけていくヨーロッパ型の雇用慣行とは違って、各仕事をモジュール(部品)化して交換するようなことができず、ワークシェアリングもしにくいかたちになっています。結果として、労働者から見れば、同業他社でもスキルが交換しにくく、転職も不利になる。このような状況を、「外部労働市場の流動性が低い」と言います。社員は、色々な部署を回って徐々にキャリアパスをつないで、異動も転勤も当たり前にこなさなければならないため、柔軟な働きは難しい…このような働き方は、無償労働を全て妻に頼み、同じ会社に就職したら定年退職までいるような、標準の評価体系となっている『おじさん労働者』にとっては問題ないのですが、出産・育児などでキャリアに「抜け」ができやすい女性など、イレギュラーな要素を持っている人にとっては非常に不利益に働きます」と教授は語った。

 では、シングルマザーを支援し、母子家庭の子どもたちへの貧困の再生産を防ぐにはどうすれば良いのだろうか。まず、現状においてのシングルマザーへのサポートの政策について知るために、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課母子家庭等自立支援室の就業支援係長である吉原貞典氏にインタビューをした。吉原氏によれば、行政によって既に様々な支援が提供されているという。例えば、就業に向けた支援として高等職業訓練促進給付金などがある。ひとり親が専門資格の取得のために一年以上の養成機関に修業する際、その間は生活費の負担軽減をするための給付金が出る。またはハローワークやマザーズハローワークにおける就職支援ナビゲーターによる個別支援やトライアル雇用の活用などに加え、地方公共団体との連携による出張相談の実施、託児付きセミナーの開催などがある。さらに、母子・父子自立支援プログラム策定事業などを通して、個々の状況・ニーズに対応した自立支援プログラムを策定し、必要に応じた支援をするという。

 しかし、このように行政による様々な支援策が存在しているのにもかかわらず、シングルマザー家庭の貧困率は依然と高い。これはどうしてなのだろうか。現場の意見を聞くために、シングルマザーのサポートと子どもの貧困啓発を行っている特定非営利活動法人リトルワンズの代表理事の小山訓久氏にインタビューした。シングルマザーの支援の現状について尋ねると、小山氏は落ち着いた口調で「日本は行政が中心でシングルマザー家庭の支援をしているが、これでは個人に合わせた支援や、それを迅速に提供することが困難で、その日に支援が必要な、貧困に陥ってしまうようなシングルマザーにとっては助けにならない」という。さらに、「いくら厚生労働省などの政府機関が様々なプログラムを紹介しても、自治体ごとに大きな差が生まれている」とも指摘する。そもそも、行政が万能であると期待すること自体がおかしくて、より民間団体などによる柔軟な支援が必要なのかもしれない。

 「シングルマザーの貧困問題には特効薬がない」と小山氏は語った。シングルマザーと言っても様々な境遇の人がいて、各家庭によりニーズは異なる。しかし、いくら複雑な問題であったとしても、放置しておいてはならないことは確かだ。今後、シングルマザーの貧困に関する議論がより深まっていくことを期待したい。

 

 


▲国学院大学水無田気流教授

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲厚生労働省吉原貞典就業支援係長

 

 

 

 

 

 

 

 

 


NPO法人リトルワンズ小山訓久代表理事