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歴史教科書めぐり、韓国政務参事官にインタビュー
「分かち合う歴史」
(朝日新聞掲載:2001年6月18日)
今、私たちが使う日本の教科書をめぐって韓国との関係が揺れている。在日韓国大使館の李柱欽・政務参事官(50)に、チルドレンズ・エクスプレス東京支局の私たちがインタビューした。
◆他国と分かち合う歴史
CE:「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書についてどうお考えですか。
李氏:かつてね、日本が加害者として、してはいけないことをした。ところが今は韓国と日本は非常に仲良くしてるでしょ。いい韓日関係を大事にするためには、相手方の感情も尊重しなければならない。ところが、もし相手方の国民の心に傷をつけるような内容になったら韓日関係のためにならないでしょ?
CE:この教科書には日本人全員が賛成しているわけではありませんし、使われているわけでもないのですけれども、なぜ今そんなに言ったりするのですか。
李氏:その質問は、私には賢明とは聞こえないんですね。要は、今使っているかどうかが問題ではなくて、いずれ使われるでしょう?例え一人でも、その教科書を通じて韓国に対して誤った考え方を持ち、友好関係に逆らうような考え方を持つようになるのは避けなければならないでしょ?
CE:これは全部私たちが考えた質問なんですけど。
李氏:それならすいません。
CE:日本の対応はどうですか。
李氏:一部の曲がった見方を持っている人は、自分らは何も悪い事をしていないと思っていて。お互いのいい関係を築くための前提となる歴史認識が誤って、その誤った主張を本にするとか、教科書にするとかそういうことが望ましくないということ。
CE:歴史認識の差についてどう思いますか。
李氏:歴史には自分の国だけの歴史があると同時に、よその国と分かち合う歴史もあるでしょ。こういう事があったかなかったか。国は異っても、事実関係は互いに共通した捉え方をすることができると思う。ただし、そこで意味合いを見出すときは若干認識の差があると思いますよ。
◆韓国の教科書ってどんな感じ?
CE:韓国の教科書は日本との関係をどう書いてるんですか。
李氏:今はどうなっているかよく分かりませんけれども、日本との間で生じた不幸な歴史は、そのまま書いてあると思います。
CE:第二次世界大戦の話は日本より記述が多いですか。
李氏:我々が戦争を起こして戦争をやったわけではないんですから、日本ほど多いとは思いませんね。ただ、当時は相当苦しい生活をしてましたから詳しく書いてあります。最近はいい方向へ来ているというような印象はありますよ。草の根レベルの交流とか、2002年の日韓ワールドカップの開催とか日本のいいところも紹介されるようになりました。すみませんね、さっき。小学生があまり難しい質問をしてたんで、大人が書いてあんなものを質問してるんじゃないかと思って。
CE:ははっ(笑)。
◆もし韓国に修正要求したら
CE:もし、韓国の教科書を日本が修正してほしいと言ってきたらどうしますか。
李氏:まずね、近代の歴史において、加害者の立場に立った国と、被害者の立場に立った国が両方あるんですね。そういう誤った歴史というものを反省した上での付き合い、あるいはそういう反省をした上での友好関係というものを築き上げていくことが大事。だから、やはり人に害を与えたり心を傷つけたりした国が、苦しみや悲しみを受けた人々に対して、我々もあなたがたと同様の権利があるというのは、私は公平、公正ではないと思うんですね。だから、まず悪いことをした、反省すべきことがあったと思った側がまずそれをきちんとした上でより仲を良くするためには、その加害者だけじゃなくて被害者の方も頑張るべきだと言って、被害者の努力を求めるのが筋だと思うんですよ。答えになっているのかなぁ。
CE:私は日本と韓国の歴史教科書を戦争の問題などでは一緒にしちゃえばいいんじゃないのかなと。
李氏:それは一つの理想ですよね。でも難しいでしょ。それぞれの国の事情や立場というものがありますから。共通する所を見出すということはそう簡単なことじゃないと思うんですが、我々は将来の韓日関係のためにそれを目標として追い求めていくということは、一つのビジョンとしても非常に大事なことと思います。
◆韓国人の描く日本人像
CE:韓国の年配の方は戦争の経験からして日本人のことをあまり好きではないという人が多いと思うんですけど、それに対して若い人たちはどう考えてるのかなと。
李氏:確かに年配の方は悲しみや苦しみの経験があるわけですから、日本に対してある定型化した考え方があると思うんですけどね。若い世代は、わりとよその国とそれほど変わりなく、偏見や誤解のない日本観を持っていると思いますよ。
CE:来日後、日本観は変わりましたか。
李氏:初めて日本の土を踏んだのが1980年で、私は日本語を一言もしゃべれなかった。自分が今まで聞いた日本と、目の当たりにした日本が違うのを初めて気付いたわけですよね。実際来て私の日本に対する理解がもっと深まった。日本人の良い所はまず勤勉、礼儀正しい。それに規律よく守るね。親切で人に迷惑をかけない。
CE:来日前の日本像は。
李氏:正直言って、その時まであまり日本のことが韓国で知らされてなかったのよ。日本に対する本とか、あるいはもちろん映画を見ることもできませんでしたし、今のように。音楽を聴くこともできませんでしたし。とにかく日本に対する知識を得る術がなかったんですね。だから、私の日本に対して持っていたイメージというものは、確かに偏ってたと思うんですよ。1945年以前、韓国人を苦しめた日本、あるいは戦争好きの国とか、そういうイメージしかなかったわけですね。それが実際来てみて、そこに住んでいる人々は非常に立派だと。
CE:ではもう日本は戦争好きな国だとはイメージしないようになっているのでしょうか。
李氏:最近は学生もお互いに往来するようになったでしょ。だから、昔のような捉え方はもうほとんどなくなったと思います。
CE:それを知ってとても安心しました(笑)
李氏:韓国人は日本を昔のような戦争好きな国民だと思ってると思った?
CE:そういうことはなかったんですけど、でもメディアでは取り上げられてなかったから聞いてみようと。
李氏:あぁそうだったの。
◆日本と韓国のこれから
CE:日本は加害者という事実があって。それを清算する術はありますか。
李氏:今の教科書問題というのはまだ残ってますけれども、基本的には1945年以降、50年以上の歳月をかけて日本の国民が注いできた努力で、私は相当もう清算されると思うんですが。このわずかな色んな問題は互いに努力をしなきゃならないんですけれども、お互いに誠意を持って取り組めば、必ず円満な解決ができると思ってます。
CE:そのために、日本の謝罪は必要ですか。
李氏:今韓国政府が求めているのは、謝罪じゃない。なるべく日本の学生がありのままの歴史的事実を勉強できるように直してほしい。
CE:ワールドカップ共同開催に向けて関係は変わっていくでしょうか。
李氏:韓国と日本が長い交流の歴史の中で初めて手を携えて共同でやるということですから、ぜひ成功させて両国関係の更なる発展のための礎にしなければ、というのは共通の考え方だと思っています。
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