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教育


 

難民問題から考える日本社会
2012/03/01                澤山 友佳(16)

 日本に難民がいる――この事実を知っている日本人はどれだけいるだろうか。現在日本には1万人以上の難民が暮らしている。しかし、その数は世界的に見ると圧倒的に少ない。UNHCR Statistical Yearbook 2009によると、難民条約加盟国141ヶ国のうち、人口1000人当たりの難民受け入れ数では132位。難民の受け入れが少ない原因はどこにあるのか。

 難民条約によると、難民とは、「人種・宗教・国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、又は政治的意見を理由に、迫害を受ける可能性があるために祖国から逃れざるを得ない人」のことである。現在日本に定住する難民は、3つに分けられる。一つがインドシナ難民で、1970年代後半、新体制となったベトナム・ラオス・カンボジアから逃れてきた人とその家族が当てはまる。2005年の受け入れ終了までに11,319人が受け入れられ*、在日難民のほとんどを占める。二つ目が、条約難民。日本が1981年に加入した難民条約に基づき、日本政府の難民認定を受け定住を許可された人で、インドシナ難民との重複を含め2010年度までに577名が日本に定住した*。三つ目が、第三国定住プログラムの下で受け入れられた難民だ。このプログラムは2010年に開始された開始された外務省の事業であり、3年間パイロットケースとしてタイの難民キャンプから毎年30人のミャンマー難民を受け入れることとなっている。*難民事業本部案内 2011年度版より

 日本へ逃れてきた難民は、難民申請をし、政府の認定を受けなくてはならない。複雑な書類の記入や面接を含む審査は、彼らにとって困難を極める。審査には半年かかり、その間法律上正規な仕事に就くことができない。特定非営利活動法人「難民支援協会」広報部の田中志穂氏によると、「再申請は可能だが、審査そのものの透明性にも疑問は残る。トルコからのクルド難民の申請は認定されたケースがない。それは日本と外交上友好関係にあるためのようだ」という。

 日本への定住を許可されてもさらなる関門が待ち受けている。財団法人アジア福祉教育財団 難民事業本部では日本語教育や生活ガイダンス、就職相談を行っている。長年在日インドシナ難民の支援をしてきた特定非営利活動法人「かながわ難民定住援助協会」会長櫻井ひろ子氏は、その経験から「難民定住者への初期支援の日本語研修が572時間では圧倒的に短い。これでは地域に定住した後も日本語の各種書類が読み取れて、提出書類が作成できるようなるまで追加の日本語研修支援をしなければ自立定住には至らない」と言う。

同協会は1986年から神奈川県大和市を中心に、インドシナ難民の自立を目指してボランティアによる日本語教育や法律相談を行っている。教室には年間延べ約14,500人が参加するという。日本に定住する難民を対象に最も苦労していることについて調査したところ、トップが日本語の問題だと回答した。日本語が十分に使えないということは、職業の選択肢が狭まることも意味する。

 事務局長の與座徳子氏によると、子どもたちの抱える問題も深刻だ。家族と共に日本へ来た子どもや、難民二世として日本で生まれた子どもたちは、学校で日本語を学ぶが日常会話は比較的簡単に習得できるものの、教科書の中で使われる日本語が理解できずに学習の遅れが生じがちだ。主に母国語を使用し、日本語の習得に困難を極める両親との間ではコミュニケーション・ギャップが生まれることもある。 

 文化・習慣の違いや、日本社会の仕組みが分からないことから起きる問題もある。例えば、難民が定住している地域で旧正月を祝うために公民館を使用したくても、事前に団体登録が必要で、しかも日本人の責任者がいることなど、手続きが難しいことがある。與座氏によると、難民のほとんどが、母国に戻ることは出来ない状況の中で、日本経済の悪化により失業したり、次の就職先をすぐに見つけられないことなど日本での居心地の悪さを感じているという。

 上記の第三国定住プログラムも、2011年10月に第二陣のミャンマー人家族をタイ国境にある難民キャンプから迎えた。定員は30名に対して来日したのは18名だったとアジア福祉事業財団難民事業本部の鈴木功氏は言う。震災の影響も否定できないが、日本の受け入れ態勢の不十分さが浮き彫りとなったと言えるだろう。「インドシナ難民定住者の負の遺産を引継いでいる。その反省を踏まえて初期支援を充実させることが、地域での自立定住を容易にする」と櫻井氏は訴える。

 難民は、少子化の進む日本社会にとってもはや欠かせない労働力だという指摘もある。輿座氏と田中氏が共に言及したように、日本とは異なる文化を持つ彼らは日本に多様性をもたらしてくれる存在でもある。日本が海外援助で橋や道路などを建設するだけ建設し、その後の影響を顧みていないことが多いという批判はしばしばなされるが、難民についても同様だ。単に受け入れる数を増やすだけでは解決にはならない。難民認定申請者の中には経済移民も含まれているため厳密な審査は必要だが、難民が日本で安心して生活できる環境を整える視点が忘れられがちだ。今までの難民定住における問題点を検証し、受け入れる以上は国や自治体がそれぞれ責任を持って、日本語教育を中心とした十分なサポートをしていく必要があるだろう。民主化が進むミャンマー情勢を見ても第三国定住の受け入れに関しては、日本への定住が本当に彼らにとって良いことなのかという見直しも迫られる 。一人でも多くの日本人が難民たちの背負っているものを理解し、文化や習慣の違いを認めることができれば、彼らのアイデンティを活かせる場が増えることになろう。「官僚主義」、「たらい回し」、「同一志向」――難民の抱える問題の解決に取り組むことは、日本の問題そのものと向き合うことでもある。

 

難民受け入れのメリット
2012/03/01                飯田 奈々(16)

 日本は海外からの難民受入れ事業に乗り出すのが、他の先進諸国に比べて遅かった。100%の受入れ体制が整っておらず、改善すべき点は多くあるそうだ。財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部の鈴木功氏、NPO法人難民支援協会広報部の田中志穂氏、NPO法人かながわ難民定住援助協会会長桜井ひろ子氏、事務局長與座徳子氏と、様々な立場の人たちを取材した。

 「難民条約」によると、難民とは「人種・宗教・国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、又は政治的意見を理由に、迫害を受ける可能性があるために祖国から逃れざるを得ない人」のことを指す。難民事業本部によると、2010年に日本政府に難民として認めてもらうために申請した数は1202人であった。

  日本には、認定がありえない外国人 をまずふるいにかけてから段階的に審査していくという制度がない。難民も、単に経済的理由で日本にきた人も申請窓口が同じなので、申請者数が膨らむと 、難民認定審査に一定の時間がかかるようだ。 。難民事業本部の鈴木氏によると、一時は認定されるまでに1 年以上かかっていたが、最近では6ヶ月を切るまでに短縮されたそう だ。

 もう一つ、 鈴木氏があげた事は、不認定などの結果を受けて何回でも申請をし続けることができる点だ。「何回も申請して、認定されることはあるのか」との疑問に対しての答えは、ほとんど「ノー」に近いそうだ。もちろん不認定結果に納得がいかず再度申請する場合も多くあるが、何度も難民認定申請が行われることで、申請者にも負担がかかる場合もあると 言う。

 しかし、難民支援協会の田中氏は、何回も審査できるというのはそれだけ審査方法がきちんとされていない証拠で、制度に問題があり、誰もが納得するようなフェアで透明性がある認定基準の仕組みを作ることが大切だ、と語った。

 このように政府の委託事業を実施している難民事業本部と援助をしているNPOとでは、物事の捉え方が異なっている。しかし、どちらも 「難民に幸せな暮らしを送ってもらえるように」「日本にきてよかったと思ってもらえるように」と最終的な方向性は同じだ。

 また、日本人の難民に対する意識も同じである。総論では、「難民を受け入れるべきだ」「親切にすべきだ」と唱えているが、いざ自分の隣に難民が引っ越してくると拒否する。これではいつまでも、難民を受け入れるのにふさわしい土壌ができず、難民の日本での社会的立場は変わらない。
 
 今後労働人口がどんどん減っていってしまう日本において、「難民定住者や他の外国人定住者が今の日本の生産現場を担っていることを認識しなければならない。そして、日本で生まれ育った難民定住者の子どもたちにとって、二つの文化を併せ持つことが将来的にプラスになるような環境の整備が必要である 」とかながわ難民定住援助協会の桜井氏と與座氏は何度も繰り返した。

 最後に桜井氏は語った。「外国人は異文化を運び、一色に染まりがちな日本に多様性をもたらす。困難を乗り越えて生きる難民の姿から、日本人が学ぶ事は多いと思う。難民は人口が減少している日本社会にとって貴重な 人的 資源 なのだから」と。
難民事業本部の鈴木功氏への取材

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

難民支援協会の田中志穂氏への取材

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かながわ難民定住援助協会の與座徳子氏への取材