チルドレンズ・エクスプレス記者紹介記者を募集しています寄付にご協力くださいリンク
チルドレンズ・エクスプレス
HOME記事カテゴリー「教育」>記事を読む

 

教育

日本語の危機
2007/04/18                  島田 菫( 13 )

 「『差異があれば必ず報告すること』の『差異』という言葉の意味が分からなかった 」

▲ 島田康行筑波大学准教授へインタビュー

工場に勤めるある若者が、製品の原料の割合が普段と違うことを、上司に報告せずに会社に損害を 与えてしまう 出してしまった 事故の原因 となった 。

「日本の若者は学力が低下している」 最近この文句をよく聞くような気がする。

 日本の学習到達度調査( PISA )の読解力の成績は、 2000 年には 31 ヶ国中 8 位だったのが 2003 年では 40 ヶ国中 14 位と確かに低下している。(文部科学省ホームページより)

 しかし、順位が少し落ちてしまったくらいで学力が低下してしまったと本当に言えるのだろうか。

 筑波大学、文芸・言語専攻准教授の島田康行氏はチルドレンズ・エクスプレスの取材にこ う のように 答え て下さっ た。「学力低下という言葉が一人歩きをして、その内容が十分に考えられていない一面がある 。 」

それでは、学力低下とはなんだろうか。学力は何で測ることができるのだろう。「テストの点が悪くなること=学力低下」というならば、なるほど、確かに日本の学力は低下している。

だが、例えば学校のテストでなら 、 順位が 8 位から 14 位になってしまっ ても たことは 、「成績が下がってしまった」と大騒ぎするような 成績の ダウンだろうか。 6 位ぐらいなら次のテストで逆転できる可能性があるのではないのだろうか。

今一度、学力とはなにかについて再認識する必要があるだろう。

そこで、メディア開発センター研究開発部の小野教授は、大学生を対象とした「正しい言葉の意味を選びなさい」などの語彙力のテストと「本や漫画の作者を知っているか?」のテストを同時に実施した。その結果、日本の若者の語彙力、語学力が低下していることがわかり、日本語力の低下は本や漫画などを全く読んでいない若者には特に顕著に見られた。また、本と漫画を両方読む人、本を読む人の語彙力はどちらも高いが、漫画だけを読む人には、ばらつきが見られた。漫画の質にもよるのだろうと小野教授は推測している。

また、 PISA のテストでは記述式の問題に「無回答」が目立った。ことばの知識が少ないので、考えて物事をまとめる力、読みやすい文章に変える力が低下し、作文が書けなかったのかもしれない。

では、語彙力を 向上させ 上げ るにはどうすればいいのだろうか。小野教授はこのように語った。「自分の興味のある本を片っ端から読めばいい。雑誌でもいい。先生がこの本がいいといって無理に本を薦めると逆に読む気をなくしてしまう可能性もある。あくまでも自分から読みたいと思うことと、とにかく文字に接することが大切。また、読んで新しく得た知識を友人との会話の中で話題にして的確に説明する力をつけよう。たくさん読書をしている人に知識ではかなわない 。 が、 本を読んでいて、分からない単語があればすぐに調べて、じっくりと時間をかけて根気よく知識を増やしていけば良いい 。 」

携帯電話のメールのしすぎも原因の一つ ではないかとよくいわれる だと懸念された 。 だがそれは 「一理あるが 、 結局は時間の使い方。今では大学の新入生への有効な「時間の使い方」の授業もあるくらいだ。携帯電話のメール機能を頻繁に使う人の語彙力が低いのは事実だが、メールを使っていなくても、その時間寝ていては何の変わりも無い 。 」と小野教授は 全てをメール機能の責任にするにはおかしいと 言う。

結局は、本をよく読むべきなのだ。本を読み、知識を増やし、その知識を自分が物事を考える際に生かすことが出来れば、日本語がさらに身に付くばかりか、きっと面白くなる。

私たちの国の言葉、日本語。その言葉をもっと大切にするべきなのではないだろうか。言葉は生きている。しかし、漢字の形が簡単になる、略字ができるなど、言葉が簡単になってきている。日本語の扱いが粗雑になっているのだ。

「日本語は美しい」とよく聞くが、どんな美人でも美しくあろうと努力しなければ魅力をあまり感じなくなってしまう。日本語の手入れを怠ってしまったら、それは美しい言葉ではなくなってしまうのだ。できることなら我が国の美人、日本語の美しさを永久に保っていきたい。

漢字能力の低下?
2007/04/18                  川口 洋平( 17 )

 「『差異があった場合は報告すること』という注意書きの“差異”という漢字の意味が分からなかったために、会社に損害をもたらした」…。

▲ 小野博メディア教育センター教授へのインタビュー

 これは NHK のクローズアップ現代( 2006 年11月8日(水))で放送された、とある工場で実際にあった事例である。

「差」は小学校四年生、「異」は小学校六年生で習う漢字だ。一つ一つの漢字の意味は知っていても、その二つの組み合わせである「差異」という熟語の意味が分からなかった社会人がいたのである。

教育に関する研究開発を行っている 、 メディア教育開発センターが、大学生 18,000 人に語彙力のテストをしたところ、中学生レベルである学生が 60% に達した大学もあった。

 若者の語彙力や漢字能力の低下の原因はなんであろうか。

 原因の一つとして、携帯電話のメールやパソコンの影響があると言われている。語彙力と携帯電話使用時間の関係を 一日の携帯電話使用時間で 見 てみ ると、大学生レベルの語彙力を持つ人 の携帯電話使用時間は 一日 で 、 平均 35 分。一方、中学生レベルの語彙力しかない大学生の平均 使用時間 は 65 分であるということが、メディア教育開発センターの調査で分かった。

同 メディア教育開発 センターの小野博教授は、「確かに携帯電話の使用時間と語彙力に関係性はあるが、携帯電話を使っていないからといって、 ただ 寝てい たので て は意味がない」。つまり、時間の使い方が問題 なの だと指摘している。

 また、他の原因として、 メール等で使われる 所謂「ギャル文字」と言われ てい る メール等で使用される 変体文字があげられる。崩した文字や、適 当 切 な漢字を日常的にケータイメールで使用 する した 結果、語彙力が低下したのではない だろう か というのである 。

 日本語学を専門とする、筑波大学の島田康行准教授は 、 「ギャル文字は 、 ケータイなどの新しいツールの出現や、対話より も メールを主とするような 、 コミュニケーションのあり方の変化の中で生まれている。そういう文字を使ってよい場面をきちんとわきまえることが大切 。 」という。

しかし、 ギャル文字ばかりを使っていると、肝心なときに使い分けられなくなってしまう ことにもなりかねない 。 そのためにも 、 崩した字を使うのもいいが、 やはり 正しい漢字や語彙も身につけることが大切だろう。小野教授は「言葉を増やすのは、あっという間にはできない。本を読んだり、新聞を読んだりして語彙を増やすことが大切だ」という。昔から「本を読め」と良く言われるが、やはり基本はそこなのであろう。

 ではどのような本を読めばいいのであろうか。小野教授によると「自分の興味のある本を読めばいい。雑誌でもいい。先生が 文学的にいいと 薦める本を無理して読まなくてもいい 。 」 、 そして語彙力が高まる読み方として「本を読んでいて、分からない単語がでてきたら、すぐに辞書で調べるか周りの大人に聞くこと が大事だ で語彙力が高まる。 」という。

 さらに うれしいことに、 小野教授は「マンガを読むことも一概に悪いとは言えない」という。大学生を「小説を読む人」、「小説とマンガを読む人」、「小説は読まないがマンガを読む人」、「なにも読まない人」と分けて語彙力との関係を調べたところ、「小説を読む人」と「小説とマンガを読む人」はやはり語彙力が高かった。「なにも読まない人」が低いのは当たり前だが、 意外にも 「小説は読まないがマンガを読む人」は人によってばらつきがあった。つまり、マンガの中身や読み方が重要で、マンガを読むこと自体が悪いというわけではないのだ。

 島田准教授は語彙力や漢字力を高めるには「ひらがなで書かずに漢字で書くことで 、 どのような効果が得られているのか 、 を考えてみることが大切。また、日本語の語彙体系の中で 、 その言葉がどのような位置を占めているのか 、 を考えながら学ぶと 、 漢字が身につくだけでなく、いろいろな言葉が適切に使えるようになる 。 」という。

 語彙力や漢字力の低下は、パソコンやケータイメールの影響だととられがちだが、パソコンやケータイを使っていても、雑誌やマンガも含めて本をたくさん読み、しっかりと漢字の意味を理解し使用していけば、漢字力の低下は防げるのかもしれない。