須藤亜佑美(17)


ピック駐日フランス大使

 日本には女性の議員数がとても少ない。実際、国会の女性議員比率は衆議院で9.3%、参議院では20.7%。これは下院の世界平均である21%より低く、2017年時点では193カ国中日本は164位で先進国の中では最低レベルだ。国民の半分近くは女性であるのに、どうしてここまでも男性の政治家ばかりの国会になっているのか。日本で女性議員が少ない理由と、女性議員の数をどのように増やしていけば良いのかを取材した。

 議員になるのに女性には男性よりも大きな障壁が存在するのだろうか。上智大学法学部の三浦まり教授は、「政治家になることを阻害する要因に大きな男女差が存在する」と著書の『日本の女性議員』で書いている。具体的には家族的責任の大きな負担や、女性の役割に対するジェンダーステレオタイプ、家族の支援の受けにくさ、女性の自信のなさ、政党が新人議員を擁立する際の「勝てる候補」の基準に対するジェンダーバイアスなどがあるようだ。つまり、ほとんどの男性には障壁として存在しないものが女性には存在する場合が多い。結局は、「女性」と「男性」という性別に対する固定概念が女性の政界への進出を妨げているのが現状だ。

三浦まり上智大学教授

 しかし、これらの障壁は世界的な視点でみたものである。とりわけ日本で女性議員の数が低いままである理由は何か。「自民党が第一党である時期が長いことが、全体として日本の女性議員比率を押し下げている」と三浦教授は記者のインタビューに答えた。これはどういうことか。「やはり政権交代がないと競争が起きない。日本で女性議員が飛躍的に増えたのはマドンナブームで社会党が勝っていた時で、それを脅威に感じた自民党も女性議員を増やし競争が働いていた。だが現在はそういうダイナミズムがないのが日本の最大の特徴」と続ける。競争相手がいないと、わざわざ自分を改める必要もない、ということだ。

 さらに、日本では女性議員が増えることに対する国民の支持があまりないのも事実だ。「日本は女性議員の増加がトップダウンで起きてしまっていて、女性議員の多くは政党の意向を反映しているだけの場合が多いため、市民社会の女性有権者がついてきていない。だから、『増え方』が重要で、女性有権者の声を代弁できる女性議員が増えないと『女性議員が増えてよかった』という気持ちにならない」と三浦教授は淡々と語る。根本的には、社会の声を代弁する市民を政界に十分送り出すことができておらず、女性有権者の声も政治に十分に届いていないという事態が生じているということだ。

 では、今後どのように女性の議員を増やしていけば良いのか。三浦教授は迷いもなく、「クオータ制が必要」と訴える。クオータ制は世界的に多くの国で導入されてきた制度で、女性の国会の議席数における割合や、各党の候補者における女性の割合に最低ラインを引くことによって、強制的に女性議員の数を増やす仕組みだ。しかし、法による強制は三浦教授が強調する『増え方が重要』」という説明に反するのではないか。この疑問に対し三浦氏は「これは逆転的な発想」と答える。「様々な国のケースからわかったのは、女性が無理矢理でも入れられるようになると、今までの議会の慣行が変わり、ワークライフバランスが良くなったり、女性の議員でも十分能力があることに国民が気づいたり、女性がより議員になりやすくなる好循環が発生する。それがクオータ制の効果だ」という。

 実際、そのような制度を導入し女性議員数を増加させてきた国の一つがフランスだ。フランスは、2000年から政党に対して立候補者の男女の数を半々にすることを義務化し、違反したら罰金を払わなければいけないという「パリテ法」を導入している。つい最近の国民議会選挙では女性議員比率は38.8%にも及んだ。これについてローラン・ピック駐日フランス大使に聞くと、「男女平等のために積極的に改革することをフランスは躊躇しない」と語る。日本などクオータ制が存在しない国や、最低30%は女性が議員という国が多い中、どうしてフランスは女性立候補者の割合を完全に半分である50%に設定したのかと質問すると、あまりにも答えが自明すぎて戸惑う表情をピック氏は浮かべる。答えはシンプルだ−「女性は人口の50%だから」。しかし同時に、自国の政策は自国にとってベストなものであるのみで、フランスと違う文化や歴史的背景に基づく日本は、自国にとってベストな政策を導入することが重要であるという指摘もピック氏は忘れなかった。

 フランスのように積極的に変革を推進する国がある一方、クオータ制で女性議員を増やす方法に懸念を抱く人々もいる。長年自民党で活動し、女性として初めて派閥領袖となった山東昭子参議院議員はそのひとりだ。山東議員は「私は、女性でなければ、ということはあまりないと思うんですね」と穏やかな口調で話す。「男性であったとしても、女性の問題にも関心を持って関わっている人はいると思うし、私は人物なんじゃないかな、という気がしますね。女性であっても、男性であっても、思いやりがある人とない人はいます。まあ、結局は上手に混ざっていけば良いかなという気がします」と続ける。クオータ制に反対なのかという質問に対し、山東議員は「無理にやるということがよくないと思います。クオータ制で人を選ぶとなると、とにかく女性だからといって色んな分野で活躍していた女性を入れることになります。しかし、その人たちは、そういうポジションが与えられたからそこにいるけれど、自分自身で苦労をしたことがない。果たして政治の上でそのような人が本当に必要か、と考えると、クエスチョンマーク」と持論を展開する。 女性議員のクオータ制を導入すべきか否か。これは、市民社会の一員として、考えていかなければならない課題であるのは確かだ。今後、女性の政治参画に関する議論がより活発化することを期待したい。