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教育


 

「実施まであと少し!裁判員制度を考える」
2008/04/05  
出席者:原衣織(16)、曽木颯太朗(16)、貝原萌奈実(18)、川口洋平(18)、寺尾佳恵(19)(司会)

 2009年には裁判員制度が実施される。裁判員制度とは複数名の一般国民が職業裁判官に加わって現行の刑事裁判を担当する刑事裁判制度である。裁判員は私たち国民の中から無作為に選出されるため、成人の誰もが選ばれる可能性を持っている。CEでは曽木徹也氏(検事)に「裁判員制度」についての説明を伺った後、賛否両論が渦巻く裁判員制度について話し合った。

裁判員制度への期待と不安
佳恵:裁判員制度が始まることによって得られるメリットは何だと思いますか。

洋平:今まで閉ざされていた司法の世界が広く国民に開かれることだと思います。

颯太朗:裁判が早くなり、素人にも分かりやすくなると思います。

衣織:私も国民が司法に近くなるとは思うけど、必ずしもそれが必要であるかはわかりません。

萌奈実:国民としての意識が高まることがメリットだと思います。

佳恵:逆にデメリットは何だと思いますか?

颯太朗:今まで世間一般が考える量刑と実際の判決の量刑に開きがあり、判決の量刑が軽いという声が多くありました。裁判員制度の導入で一般の人が協議することにより、今までより刑罰が重くなるのではないかと思います。

萌奈実:日本人はまだそういう制度に慣れてないから、欧米のようにうまく機能するか心配です。

衣織:一般市民が裁判員になることで、統一性がなくなるんじゃないか、守秘義務とかがあって、裁判員をやりたくない人もいるんじゃないかという心配があります。

佳恵:統一性がないっていうのは、協議する人が違うので事例によって刑量が変わってしまう可能性がある、それは不公平じゃないかということですよね。裁判中に知ったことを他人にしゃべってはいけないという守秘義務についてはどう思いますか?

洋平:やっぱり現実問題として難しいと思います。

佳恵:難しいっていうのは何がどう難しいのかな?

洋平:ばらした人には罰則を課すと言われていますが、今はネットや匿名性の高いメディアに気軽に投稿できるので、今の環境では守らない人が多いと思います。

まだ体制が整っていない?
佳恵:メリットとデメリットがそれぞれあると思いますが、今日本以外のG8の国では、何らかの形で国民が裁判に関わっています。世界では国民も司法に参加するのがメジャーになりつつある中で、日本が採り入れてないことについてはどう思いますか?

衣織:日本が遅れていると考える人もいると思うけど、日本にも昔は陪審制度がありました。昔から何も制度がなかったわけではなくて、陪審制度があったのをあえて変えて今の制度になっているわけだから、単に変えただけで遅れてはいないと思います。

萌奈実:でもその陪審制度があったのは戦前の話だから欠陥もあったかもしれないし、今他の国で行われている陪審制度とか参審制度とは全然違うと思います。戦前の日本社会にはその制度は合わなかったけど、今はまた違うんじゃないかな。

衣織:でも、アメリカの陪審員制度でえん罪が多いのは有名じゃないですか。えん罪が増えるかもしれないのに今導入する必要は感じない。

佳恵:戦前にあった日本の陪審制度では、必ず陪審でやらなくてはいけない法定陪審と被告人の請求によって行われる選択陪審があったのね。でも被告人が辞退することが多くて結局年に数件だけになってしまったということと、戦争が始まるのを理由に1943年に施行を停止したらしいです。そのまま今まで国民が司法に関わる機会はないわけだけど、みんなはこのままでもいいと思う?

衣織:現状のままでかまわないと思います。

颯太朗:今までプロの裁判官だけがやってきてほとんどの場合はうまくいっているので、今のままでもいいと思う。でも裁判が長引くのを、国民が参加することで改善できるなどのメリットを考えると裁判員制度を採り入れてもいいと思います。

洋平:今までの制度とこれからの制度、どっちにもメリット・デメリットがあると思いますが、重要なのは採り入れる時にちゃんと準備をすること。法律用語を分かりやすく言い換えたり、裁判員を招集する時に工夫したり、あと一年そういう準備をしっかりする必要があると思います。

萌奈実:私は準備期間が今から一年間では足りないと思います。今始める必要はないという衣織ちゃんの意見とは若干違うけど、いきなり「一年後に裁判員制度やります」と言われても、今の状況では機能しないと思う。ただ、G8の話を聞くと、やっぱり日本もそういう制度採り入れるべきだと思うので、今から小学生にきちんと教育をして、その子たちが大人になった時点で始めればいいと思います。

衣織:色んな本や専門家が反対意見を出しているし、国民も戸惑っているなかでやるのは賛成できなくて、もっと国民が納得できる制度になっていくのなら、あってもいいと思う。

佳恵:例えば衣織ちゃんが考える国民が納得できる制度ってどういうもの?

衣織:それが難しいんですよね。今も制度導入にあたってすごくコストがかかっているし、裁判員を辞退するための制度も整っていない。それなのに今すぐやる必要性がわからない。

萌奈実:人の意見に流される人や、選ばれても参加したくないという人が出てくる。みんな仕事があるわけで、参加してくれと言われて喜んで参加する人はほとんどいないと思います。ただそれを国民の義務ではなくて権利だと考えられるようになるべきだと思うし、そういう意識のない人が今の段階でやるのは難しいと思います。

佳恵:子どもたちに裁判への参加は義務じゃなくて権利なんだよと教えてあげて、その子たちが大きくなったときに制度を導入するということ?

萌奈実:そうですね。欧米人のようになるのが一概にいいとは言えないけど、そういう場でちゃんと意見を言えるのはこれから国際社会で生きていくのに必要だと思う。ちゃんと意見を言える人じゃないと裁判員制度は難しいと思います。

佳恵:2009年に選ばれる可能性のある人たちは、裁判員として不十分な点が多いのかな?

颯太朗:人それぞれだと思います。ただ、この前見た新聞のアンケートで20代の約75%がやりたいと答えていて、以前からお年寄りも関心が高いという結果が出ている。そう考えると今導入してもそんなに早いという訳ではないと思います。

衣織:内閣府が最近行った調査だと60〜70%の人が参加したいと答えているけど、実はその質問が誘導っぽくなっている。「もっと素直に聞くと実は30何%なんだよ」と書かれている本を読みました。アンケートは聞き方次第で結果が大きく変わるので、一概には言えないと思います。

洋平:2005年の内閣府の調査では70%が参加したくない、25%が参加したいと答えていて、2008年には参加したいという人が多くなったって感じじゃないですか。ということは今までいろいろと裁判所だとか関係各所が努力をしてきた結果、参加したいっていう人が増えている。もう少し頑張ればいい方向に向かっていくと思います。

国民が参加することで量刑は重くなる?
佳恵:実際2004年・2005年に比べ2008年は、導入が近づいている分国民の関心も高まっているし、アンケート上の参加したい人の数値は事実として増えているようですね。もちろん衣織ちゃんの言うように、アンケートは質問の仕方によって結果が変わるので、一つのアンケートを単純に信じることはできないのですが。みんなは裁判員をやってみたいと思いますか。

洋平:僕は参加してみたいです。純粋に好奇心で。

萌奈実:私は法学部の学生なので意識とか関心は高いし、参加もしてみたいと思いますが、やっぱりメディアの意見に流されそうだし、守秘義務も守れるのか不安なので、進んで参加したいというわけではありません。

颯太朗:時間があったら僕も参加してみたいです。テレビに流される心配はないけど、守秘義務はついしゃべってしまうんじゃないかと心配です。

衣織:裁判員は法律のことを知らなくても大丈夫となっている。でも私は人を裁く時に、法律とか過去の事例とかを知らないで人の運命を決めることはできないし、したくないなと思うんですよ。だからいくら知らなくていいと言われても、自分の気持ちの問題でしたくはないです。

萌奈実:確かに自分の判断で人の運命を決めてしまうのは不安な部分もある。

洋平:一人で決めろと言われたら困るけど、自分の意見だけじゃなくて、裁判員・裁判官の総意で決める判決だから、僕はそこまで重いとは思いません。

颯太朗:みんなで決めるので自分で悩むことはないとは思うけど、なるべく軽い刑罰にしちゃうと思います。

佳恵:最初の方で颯太朗くんは、裁判の結果が報道されると、量刑が軽いと感じる国民が多いと言っていたけれど、颯太朗くん自身が裁判員として参加する場合は犯人の人生も考えて、軽い量刑にしてしまうということ?

颯太朗:はい、そうです。

萌奈実:私も颯太朗くんのように、自分だったら軽めにすると思うんですけど、ちゃんと考えていない人ほど被害者の立場だけで考えて重い刑にしてしまうんだと思います。もちろん被害者のことは考えなきゃいけないけど、客観的に考えられない人は多いから。

衣織:日本のメディアは、家族の泣いている姿を映すなど、被害者目線で報道をすることが多いから、それを見た人たちはやっぱり重い刑にするんじゃないかなと思います。

洋平:そこは裁判官が「そうはお思いでしょうが、ここは司法の場ですから」みたいな感じでうまく話をもっていけばいいんじゃないのかな。

佳恵:みんな、「自分は軽い刑にするけれど、他の人は重い刑を選ぶだろう」と思っているようだけど、あまり客観的に考えていない人でも個人的な感情はあるし、一人一人がそう考えたら結果的に軽い刑が増えるとは考えられませんか。

萌奈実:前に友だちとそういう話をしたことがあったけど、友達は「もっと重くするべきだ」と言っていました。私は「自分に当てはめて考えてみなよ」と言ったけど、「悪いやつは悪いんだから」と言っていたので、みんなが軽くするわけではないのかなと思います。

衣織:私は、いくらみんなで決めるといっても九人しかいないのだから、自分の一票は重いと思う。颯太朗くんや洋平くんは「みんなで決めるから大丈夫」っていうけど、私は色々考えちゃうし、こういうところでも人によってすごく差が出てくると思います。

颯太朗:僕が世論全体でみると重くなるのではないかと言ったのは、前に法務省でやっていた模擬裁判を見たからです。配役は全員検事で観客が全員裁判員という設定だったのですが、この時ほぼ全員一番重い刑に手を挙げていたんです。被告の演技が下手で、悪い方に働いたのかもしれないけど。

萌奈実:それは全員検事がやっていたんですよね。

颯太朗:はい。全員検事です。

萌奈実:検事は有罪を主張する方だから重い刑になったのかもしれないよね。

佳恵:確かに全員弁護士でやったら、逆に無罪になっていたのかもしれないですね。

認知度アップで国民の不安を解消
佳恵:さて、裁判員制度が2009年に始まることはほぼ確定しています。今の日本で裁判員制度を導入することについて、今までの話をふまえたうえでの自分の意見と、RTの前と今とで考え方が変わった部分があれば教えてください。

萌奈実:これまで国民が負う負担とか、人を裁けるのかという不安しか考えてこなかったけど、話を聞いていて、裁判自体が円滑に進むようになることや、不透明な部分が透明になって、誰にでも分かりやすい裁判になることを知りました。全体としてデメリットよりメリットが大きいなら導入してもいいかもしれないと考え方変わりました。

颯太朗:僕は裁判員制度に賛成でしたが、話聞いていて今やるのは早いのかなと思う部分もありました。国民の中にやりたくない人がどれだけいるのかわからない中で、強行して始めてうまくいくのか心配です。

衣織:私はもともと、2009年から裁判員制度を導入することについてよく思っていませんでした。でも今日検事さんの話を聞いて、何で民事じゃなくて刑事で導入するのかとか、疑問だった細かい部分が解決できてよかったと思います。今まで読んだ本ではデメリットが多く書かれていましたが、導入することで国民が司法を身近に考えられるとか、そういうメリットを今日初めて考えました。

洋平:僕は今日までは裁判員制度の導入がすごく不安でした。でも色々なところで裁判員への対応策が考えられていることを知り、何とかやれるかもしれないなと思いました。守秘義務のこととか、まだまだ考えが甘い部分もあると思うので、そういうところを2009年の導入までに整備していく必要があると思います。