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教育


「食育」って何?
2006/10/03                 寺尾佳恵(18)

 最近、日本の各地の「食育」への取り組みを伝える新聞や雑誌記事が増えている。食育とは何か。「食育」という考え方は意外に古く、知育、徳育、体育と同様、すでに明治時代には使われていたという。では、なぜ今「食育」への関心が高まっているのか。食育は日本以外でも問題になっているのか。この夏、日本と英国で食育の推進者にインタビューを行った。

平成 17 年7月に施行された「食育基本法」によると、「食育」とは「国民一人一人が自らの『食』について考える習慣を身につけ、生涯を通じて健全で安心な食生活を実現することができる」ようにするために必要な活動を推進することだという。その背景には、急速な経済発展に伴う生活スタイルの変化がある。

日本人の生活が変わるにつれ、脂肪分のとりすぎなどの栄養バランスの崩れ、朝ごはんを食べないなどの食習慣の乱れ、 BSE や野菜の残留農薬などの食品の安全性への不安などの問題が生じてきた。「食育」への関心が高まっている背景には、それらに対する強い危機感があるようだ。

日本で 15 年前から食育を推進しているのは、服部栄養専門学校理事長の服部幸應さんだ。服部さんは「料理人を目指す自分の学校の生徒に朝昼晩1週間の食事の調査をしたところ、朝食抜きや、バランスの悪い食事をしている人が多く、驚いた」と言う。「よく勉強しなさい」と言ってから、2年後にまた調査をしたところ生徒の食生活がたった6%しか改善されていなかったことにショックを受け、食育の推進を訴えるようになったそうだ。

英国では、昨春、若手シェフのジェイミー・オリバーさんが「学校給食革命」を巻き起こした。安い上に子どもたちが好きだ、という理由でハンバーガーやフライドポテトが出てくる学校給食(英国では 1980 年代にサッチャー首相が学校給食制度を民営化して、公費給食が廃止された)のひどさを見かねたジェイミーさんは、自らロンドンの小学校に出向き、理想的な給食を作ってみせたのだ。この様子がテレビで放映され大反響を呼んだ結果、英国政府は学校給食に 1 人 1 食 35 ペンス(約 78 円)の公費を付けたという。

今回、残念ながら超多忙のジェイミーさんへの取材は実現しなかったが、彼の運動をロンドンの小学校で推進しているポール・マーフィーさんに話を聞いた。マ?フィーさんの学校では、食育週間を設けたり、食材ヘの関心を高めるため、子どもたちが自分達で野菜や果物を育てる「学校菜園」を作ることを検討しているという。

日本では政府が国民生活の安全と健康を中心に「食育」を推進している。一方、英国では、市民による学校給食革命をきっかけに政府が「食育」の重要性を国民に訴えていた。しかし、毎日の食生活は、個人や家庭の価値観やものの考え方によって決まる。だから、実際に家庭の食事を変えていくことはとても難しい。

日本でも英国でも関心の高まる「食育」。しかし、私のクラスの仲間30人は誰も「食育」という言葉を知らなかった。北アイルランドのベルファストでは、「ジェイミーさんのこと知ってるわ」と言いながら、私たちとの会話の間にスナック菓子を3袋も食べた女の子がいた。今後、日英両国政府がいくら「食育」を推進しても、ことはそう簡単には進まないな、とあらためて思った。

   


『食育』は、本当に日本で浸透しているか?
2006/10/03                 藤原 沙来(16)

 ちゃぶ台を囲んで家族みんなでの食事。今日の出来事をみんなで振り返って笑いあう。つい数年前まで、このような光景は日本では当たり前だった。それが今では、家族それぞれが会話もせずに黙々と食べることに集中し、誰かが食べ終われば入れ替わるように他の人が食事をする。いつからこんなに変わってしまったのだろう。

 『食育』を日本で初めて提唱したのは服部 幸應氏(61)である。彼は、1990年ごろから、数多くの本や冊子で食育の重要性を訴え広めようと、『食育』活動を率先して推進してきた。すでに約15年間行われてきた『食育』だが、国内で浸透し、実践されているかどうかを見てみると、限られた人にしか結果が見られないように思える。そこで、私達は食育についてより詳しい話を聞くため、服部幸應氏に取材をした。

 服部氏が『食育』を推進するようになったきっかけは、「15年前に学生を対象にした食に関するアンケートを行ったところ、多くの学生が朝食をとっていないことが分かった」からだという。「人間を育てるには食卓を通して様々なことを伝えることが効果的なのに、朝食抜きでは、一人前になるために身につける礼儀を親から学ぶ機会が減ってしまう。その結果、人間としての教養や礼儀が身に付いていないまま大人になる人が増えてしまった」。また、そんなふうに育った親が、礼儀について教えられず、さらに悪循環が起きていると嘆く。

 両親と食卓を囲んで一緒に食事をすることで、礼儀が身につき、精神的にも肉体的にも成長していくことができる。だからこそ、食卓での『食育』を一番に訴え、学校での食育指導をはじめ、一人でも多くの人に意識を高めてもらおうと積極的な活動を続けている。

 一方、英国での『食育』はどうだろう。日英交流プログラムでBelfast・Londonderry・Londonを訪れ、同世代の学生に取材をしてみると、どの学生も、Jamie Oliver氏(31)の名前を挙げた。Jamie 氏は服部氏と同じように英国で『食育』を推進した第一人者である。『食育』の推進者の名前が出ることからわかるように、英国では『食育』の意識は浸透しているようである。そして、食への意識の変化が顕著に現れたのが、学校給食だという。そこで、Londonの公立小学校の教師をしているPaul Murphy氏(31)に学校での『食育』の指導の実状を聞いた。

 Paul氏の学校では、「給食の食材は新鮮な野菜や肉になり、冷凍食品は無くなって、ヘルシーになった」そうだ。さらに、生徒が主体となって健康・薬・体の成長について考える「PSHE(Personal Social Health Education)」を取り入れた授業を行い、先生が一方的に教えるのではなく、生徒が自分の健康について考えられるようなサポートをしている。また、家庭科とは別に食に対する意識を高めるためのカリキュラムを組み、「Cooking time」を特別に設け、1年に1回、1週間、体育・スポーツを集中して行う活動も行っている。今後は、「生徒に食に対して興味を持ってもらうために、School garden (生徒自身が野菜や果物を作る)をやるつもりだ」とPaul氏は言った。

 現在の英国では、肥満改善のための医療費の負担増が「Every Child Matter」と呼ばれ、問題となっている。このようなダイエット問題も食育推進の背景にある。
 英国では、食に関する教育が家庭科から独立したのに対し、日本では『食育』の授業が家庭科以外の授業に組まれているという話は聞かない。それぞれの学校が推進しているのが望ましいが、実際は英国と同レベルの食に関しての教育がされているかどうかはわからない。日本の場合、『食育』への意識が全体的に低く、きちんと箸を持てない先生が生徒に箸の持ち方を注意したりすることも、『食育』が効率よく推進されない一因だろう。英国ではJamie 氏の提唱後、地域差はあるが、食に対する意識が変わり、新たなプログラムに取り組む学校が増えた。それに対し、日本では、『食育』について詳しく知り、実生活で生かしている一般の人は少ないのではないだろうか。

 服部幸應氏が『食育』の推進を呼びかけ始めた後すぐに、英国のように学校で取り組むなどの具体的な働きかけを国や行政が学校や家庭にしていれば、食に対する意識は今よりもずっと高くなっていたことだろう。授業として教育の一環として組み込めば、『食育』に関するテレビを観ることや本を読むことよりも、平等に子どもに意識付けができ、浸透も早いはずである。学校で学べば、大人も軽視することなく、服部氏が言うような、「今の大人に『食育』を推進してもなかなか浸透しない」といったことも無くなるだろう。民間に任せるのではなく、国が本格的に『食育』に取り組み、義務教育に取り入れるべきではないだろうか。